ふう、終わったな。
ホワイトタイガーの首が斬り落とされたのを見て、一息つく。
意外にあっさりと片付いた。
やはり大人数がいると安定感がちがう。
一昨日みたいに死にかけなくて良かった。
あ、レベルが10に上がっている。
自分がとどめを刺さなくても経験値は入るようだ。
「一定ダメージを与えていればとどめは必ずしも刺さなくてもよい」ってことかな。
ミッションに「NEW」という表記がある。
新しいミッションだ。
あとで確認しておこう。
なぜこのタイミングで新しいミッションがきたのだろうか。
レベル10になったから解放されたとかかな。
もしくは災害指定生物を討伐したからかもしれない。
まあ別に何でもいいか。
さて、ホワイトタイガー討伐の余韻に浸っているヒマはない。
辺りを見ると、少し薄暗くなりつつある。
こちらの被害状況はそれほどでもない。
リーゼロッテが初級の治療魔法を使えるそうだ。
ケガの重い人を優先的に治療していく。
重いとは言っても、やや大きめの引っかき傷とか打撲とかその程度。
歩けないレベルの人はいないようだ。
ホワイトタイガーの死体の回収をしなければ。
蒼穹の担い手のアイテムバッグはいっぱいなようだ。
代わりに俺のアイテムルームに収納する。
忘れずにリトルベアも回収しておく。
一部食われているが、これでもそれなりの値段はつきそうだ。
ホワイトタイガーの脅威は去った。
森の野営地に戻るのだろうか。
そう思ったが、違うようだ。
現在位置は、森の端と野営地のちょうど間ぐらい。
わざわざ戻るよりは、森を出たところで1晩を明かすほうが良いとの判断だ。
森の外に向かって歩き始める。
大きな一戦のあとで気が緩みがちだ。
こういうときこそ集中しなくてはならない。
気配察知を働かせながら進む。
無事に森を出た。
さらに歩く。
野営に適したところを探し、天幕を張る。
夕食の時間だ。
先ほど狩ったばかりのホワイトタイガーとリトルベアを食べる。
これらの肉は街に戻れば高く売れる。
特にホワイトタイガーの肉は、ギルドの買い取り価格で100gあたり銀貨1枚、つまり1000円ほどらしい。
食べずに取っておいて売るべきだという意見もあった。
しかし、肉は大量にあるし、ちょっとぐらい食べたところで全体の報酬からはいかほどのものでもない。
その考えから、思い切って食べることにしたようだ。
滅多に食べられるものじゃないだろうしな。
夕食を食べ終える。
ホワイトタイガーの肉はまろやかな味だった。
リトルベアの肉は歯ごたえのある力強い味だった。
そろそろ寝る時間だ。
天幕に向かい、横になる。
寝る前にミッションの確認とスキル振りだけしておこう。
ミッション(期間限定)
ゾルフ砦の防衛に加勢しよう。
報酬:スキルポイント20
ミッション
竜種を1頭討伐しよう。
報酬:スキルポイント20
ミッション
どれか1つのスキルをレベル5にしよう。
報酬:中級者用の装備等一式、スキルポイント20
ミッション報酬が一回り豪華になっている。
確か最初のミッション報酬はスキルポイント10だったはずだ。
軽く目を通す。
まず目を引くのは、1つ目のミッションの「期間限定」の文字だ。
できれば優先的にこなしておきたい。
ミッション内容は……ゾルフ砦の防衛に加勢?
確かゾルフ砦は、ラーグの街の東にある砦だ。
南の山脈の向こう側にある“魔の領域”。
そこからの魔物の侵入に備えていると聞いたことがある。
防衛ってことは、その砦がピンチに陥るってことか?
危険そうなミッションだ。
だが加勢するだけで報酬がもらえるのは良いな。
2つ目のミッションは、竜種の討伐だ。
この世界のドラゴンはどれくらい強いんだろうか。
まだ噂を聞いたこともない。
ホワイトタイガーより強いんだろうなあ。
難易度が高そうだしとりあえず後回しでいいか。
3つ目のミッションは注目すべきだ。
報酬の「中級者用の装備等一式」に期待したい。
前回の「初心者用の装備等一式」では、普通の服・ショートソード・レザーアーマー・貨幣・普通のカバンがもらえた。
同じようなラインナップの上位版がもらえるのならば、俺にとってかなり有用だ。
ショートソードは、そろそろ物足りなく感じてきたところ。
レザーアーマーは、もうボロボロで買い替え時。
貨幣は、単純にミティ購入資金の足しになる。
服とカバンの上位版はあまり想像できないが、もらっておいて損はない。
この3つ目のミッションは、ミッション内容も比較的簡単だ。
現在、剣術・MP強化・肉体強化・火魔法の4種類がレベル3。
このどれかをレベル5にすればいい。
とりあえず、今あるスキルポイントを使ってどれかをレベル4にしておこう。
どれを上げるか考える。
現状で取るべき方針は大きく2つ考えられる。
1つ目は、西の森でソロ狩りができるようなスキルの強化。
2つ目は、期間限定ミッションの砦防衛で有用そうなスキルの強化。
1つ目を重視するなら、剣術か肉体強化のレベルを上げるべきだ。
ソロだと肉弾戦のほうが大事だからな。
2つ目を重視するなら、MP強化か火魔法のレベルを上げるべきだ。
砦の防衛というからには、建物の陰から攻撃できる機会が多いだろう。
味方の戦力も多いはず。
まさに魔法使いが活躍できる環境だ。
ここは2つ目を重視することにする。
森でのソロ狩りより、砦防衛のほうがメリットが大きそうだからだ。
では、MP強化と火魔法、どちらを上げるべきか。
前提として、今の俺のMPとスキルだと、ファイアートルネードを6~7発ぐらいは連発できるようになっている。
加えて、MP回復速度強化の恩恵もある。
6~7発も撃てれば十分だ。
火魔法をレベル4に上げるべきだな。
今のスキルポイントは20。
その内15を消費し、火魔法をレベル4に上げる。
頭の中に、火魔法のイメージが流れ込んでくる。
火魔法をレベル4から5に上げるには、スキルポイントが30必要なようだ。
ここでスキルのレベル上げに必要なスキルポイントを整理しておく。
最初の取得に、10ポイント。
レベル1から2に、5ポイント。
レベル2から3に、10ポイント。
レベル3から4に、15ポイント。
レベル4から5に、30ポイント。
こうなっている。
レベル4から5への必要ポイントだけやたら多い。
ミッションのこともあるし、レベル5が最高レベルの可能性が高そうだ。
火魔法レベル4は、「ボルカニックフレイム」。
自身を出発点として、20m×3m×3mくらいの範囲を火炎で攻撃する。
火炎放射のすごい版みたいな感じだ。
範囲はファイアートルネードよりもせまい。
その分射程距離は長めなので、離れたところにいる魔物への単体攻撃に向いていそうだ。
威力も高い。
なかなか期待できそうな魔法だ。
ミッションの確認とスキル振りが無事終了した。
そろそろ寝よう。
しばらく横になっていると、ユナがやってきた。
「ねえタカシ……。ちょっと来てくれる?」
天幕を出て、ユナといっしょに歩く。
野営地から少し外れたところで立ち止まった。
女の子と夜に二人きり。
緊張するな。
ユナの顔を見てみる。
心なしか顔が赤い気がする。
こ、これは告白か!?
ユナの忠義度は現在28。
今まで出会ってきた人の中で最高値だ。
最初の頃に「忠義度30で親友、恋人ぐらい」という仮説を立てたことがある。
それが正しければ、告白でもおかしくはない。
ドキドキ。
「あの……その……ね」
ユナはもじもじして話しにくそうだ。
ドキドキ。
「あの……遠征が終わったあとも、ずっとうちのパーティにいない? あなたとなら上手くやっていけそうな気がするわ」
告白じゃなかった……。
俺が内心のショックを隠していると、ユナは続けてこう言った。
「ドレッドとジークもあなたのことは高く評価しているわ。うちは魔法使いがいないし、絶対に歓迎してくれるはずよ」
「うーん……」
ユナとずっと同じパーティ……。
魅力的だ。
ドレッドとジークが俺のことを高く評価してくれているというのもうれしい。
しかし短絡的に了承するわけにもいかない。
整理しよう。
俺の最終目標は「30年後の世界滅亡を回避する」だ。
具体的には何が起こるか分からない。
万全を期すためには「加護付与スキルで強い仲間を増やしまくる」必要があるだろう。
1つの選択肢として「とりあえず加護付与スキルのことは忘れ、自分自身のレベルを上げてステータスやスキルを鍛えまくる」というのもありうる。
その後、高い戦闘能力を活かして英雄の真似事をしてみたり、治療魔法を取って不治の病を治したりする。
そうすれば、忠義度を50稼ぐことも容易なのかもしれない。
このパーティにいれば、レベリングは楽そうだ。
報酬もソロに比べれば間違いなく良いだろう。
しかし、俺にはステータス操作というチートスキルがある。
残念ながら、普通の人はまず俺の強化速度についてこれないだろう。
現に、判断能力や度胸などは別として、戦闘能力だけならばこのパーティで俺が一番強くなりつつある。
結局、俺が長い期間パーティを組もうとすれば、加護持ちでメンバーを固めるしかない。
そのためには、ミティのような特別な環境にいる人を集めハーレムパーティを組むのがベストだ。
普通のパーティでも、苦楽を共にすれば一定の信頼関係は築ける。
現に、ドレッドやジークの忠義度もそれなりに高くなってきている。
しかし忠義度50を達成するとなれば、生半可な信頼関係ではダメだ。
ユナとならば時間をかければ忠義度50までいけそうな気もするが……。
やはり、「ずっとこのパーティ」は現実的ではない。
ミティの購入資金調達も、今回のホワイトタイガーの報酬でぐっと楽になりそうだ。
前金だけであればもうすぐそこだろう。
パーティを組むよりも自由に動けるほうがメリットは大きい。
「ごめん。俺はまた当分ソロでやるよ。ちょっと東の方に行ってみようかと思っていてね」
断腸の思いでそう口にする。
せっかくユナとの仲も深まってきたのにつらい。
しかしユナは意外とあっさりしていた。
「ふーん。そうなの。気が変わったらいつでも言ってね」
そう言ってさっさと行ってしまった。
心なしか寂しそうな声色だった。
レベル10、たかし
種族:ヒューマン
職業:剣士
ランク:E
HP:79(61+18)
MP:100(40+60)
腕力:36(28+8)
脚力:35(27+8)
体力:81(35+11+35)
器用:42(32+10)
魔力:36
武器:ショートソード
防具:レザーアーマー(ボロボロ)、スモールシールド
残りスキルポイント5
スキル:
ステータス操作
スキルリセット
加護付与
異世界言語
剣術レベル3
回避術レベル1
気配察知レベル2
MP強化レベル3
体力強化レベル2
肉体強化レベル3
火魔法レベル4 「ファイアーボール、ファイアーアロー、ファイアートルネード、ボルカニックフレイム」
水魔法レベル1 「ウォーターボール」
空間魔法レベル2 「アイテムボックス、アイテムルーム」
MP消費量減少レベル2
MP回復速度強化レベル1
称号:犬狩り
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