俺はノノン宅を訪問している。
現状で特に大きな問題は発生していない様子だ。
「よし。なら、予定通りに”あれ”を試してみよう。いいよな? サリエ」
「そうですね。成功するかはわかりませんが……。万が一失敗しても、悪化するようなことはないでしょう」
俺の問いにサリエが答える。
「うまくいくといいね。がんばろう」
「マリアもがんばるっ!」
「わたくしもベストを尽くしましょう」
アイリス、マリア、リーゼロッテもやる気満々の様子だ。
彼女たちをわざわざ連れてきた理由はなにか?
ノノンたちの現状確認だけなら、俺1人でもいい。
最低限の護衛を付けるにしても、他にいくらでも候補がいる。
いつでも俺といっしょにいたがるミティやレイン。
最近ハイブリッジ男爵家に加わったばかりで張り切っているナオミ。
気まぐれの興味本位で首を突っ込んでくることがあるユナやドラちゃん。
警備兵のキリヤ、ヴィルナ、ネスター、シェリー。
御用達冒険者の雪月花。
高性能アンドロイドのティーナなどだ。
それなのに、敢えてこの4人を同行者として選んだのは――
「あ、あの。ここで何かをされるのでしょうか? いえもちろん、俺たちは邪魔など致しませんが」
ノノンの父が恐る恐る聞いてきた。
そう言えば、肝心の『何をやるか』について、当事者である彼に伝えていなかった。
「お前の手足の治療を試みるつもりだ。俺たちに任せてもらえるな?」
「え? 俺の手足の治療? ――ええぇっ!?」
ノノンの父は目を丸くする。
「お、俺の手足は完全に失われています。いくら治療魔法でも、生やすことは難しいと聞きましたが……」
「それは並の術者が単独で行った場合ではないか? この俺たちなら、試す価値がある」
「ハイブリッジ様たちなら、ですか?」
「ああ。この場にいる5人は、全員が治療魔法使いだ。特に彼女は、単独でも王国内で一二を争う実力を持つ。残りの4人も、中級以上だ」
サリエは治療魔法レベル5。
俺、アイリス、マリアは治療魔法レベル4。
リーゼロッテは治療魔法レベル3だ。
「な、なんと! それほどの治療魔法使いが揃っておられるとは……」
「どうだ? 治療魔法を受けてくれるな? 失敗しても、体に害はないはずだ」
「し、しかし……」
ノノンの父が躊躇している。
「まだ何かあるのか?」
「ち、治療費が払えないのです……。以前いただいた生活費を返済する目処すら立っていないというのに、これ以上の援助を受けるわけにはいきません」
「それなら心配するな。治療費は無料だ。それに、生活費も返済する必要はないぞ。あれはプレゼントのようなものさ」
「えええっ? そんな、申し訳ないです」
ノノンの父が遠慮するが、俺は構わずに続ける。
「気にするな。だがそうだな……。どうしても気になるなら、頼みたいことがある」
「何でしょうか? 俺にできることなら、何でもいたします」
ん?
今なんでもするっていったよね?
なら、けつあな確定な。
……ではなく。
「まぁ、治療がうまくいってからの話でいい。無理なら断ってくれても構わん」
「は、はい」
「では始めようか。みんな、五芒星陣の準備を頼む」
俺は仲間たちに指示を出す。
「承知しました」
「りょうかいー」
「わかったよっ。タカシお兄ちゃん!」
「わかりましたわ」
彼女たちは、それぞれの言葉で答えてくれた。
ちなみに、五芒星陣というのは、魔法陣の一種だ。
ある程度実力が似通っている5人で合同魔法を使う際に有用となる。
俺たちは、床に魔力で陣を描いていく。
物理的なものではないので、このノノン宅に描いてしまって問題ないだろう。
ただ、今回の5人でも腕前に多少の差はある。
サリエ>>アイリス≧俺>マリア>>リーゼロッテといった感じだな。
そのため、純粋な五芒星ではなく、少しだけ工夫した位置取りにしている。
「お前は中心に立ってくれ。……よし、いくぞ」
ノノンの父親を五芒星の中心に立たせる。
俺の言葉を合図に、5人で集中して呪文を唱え始める。
「「「「「天なる主よ……彼の者の失われし手足を再生させたまえ……我が名において……この願いを叶え給え……願うは慈悲の心なり……」」」」」
5人の詠唱が重なる。
「「「「「火の精霊よ、水の精霊よ、風の精霊よ、土の精霊よ、雷の精霊よ、木の精霊よ、光の精霊よ、時空の精霊よ、我の呼びかけに応え、ここに集いて力を与えたまえ……そして、その大いなる力を行使せんことを……」」」」」
俺の足元から光が溢れ出す。
「「「「「【リザレクション・ヒール】!」」」」」
五芒星の中心に光が集まる。
そこから、徐々に形を成していく。
「ぐ、ぐおおおぉっ!!??」
ノノンの父親が悲鳴を上げる。
痛みに苦しんでいるというよりは、違和感を感じているだけのようだな。
光はどんどん収束していき、やがて消えた。
「はぁはぁ……」
ノノンの父親は肩で息をしている。
「大丈夫か? どこか痛むところや、おかしな感覚はないのか?」
「あ、ありません。それよりも、これは……!!」
彼が自分の手足に視線を向ける。
そこには、当初よりも幾分か盛り上がった手足がある。
完璧に元通りとはいかないが、多少の効果があったようだな。
概ね成功だと言っていいだろう。
彼の感覚をより詳細に聞き出しておこう。
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