【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう

~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
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1234話 危険な人族

公開日時: 2023年12月15日(金) 12:21
文字数:2,363

 意識を失ったタカシは、人魚メルティーネによって海底近くまで連れてこられた。

 人魚の里の、入り口手前である。

 人魚の加護があるので、呼吸や水圧の諸問題は全く心配無用だ。

 しかし、彼をまた別の問題が襲った。


「薄汚い人族など、里に入れるべきではない!!」


「なぜメルティーネ姫はこのような者を連れて来られたのだ……。人魚の里に、他種族を入れるわけにはいかん!!」


「そうだ、そうだ! すぐにでも海上へ送り返せ!!」


「いや! それだけでは足りん! そやつはジャイアントクラーケンにあれほどのダメージを与えた男……! 危険極まりない!! 海の藻屑にすべきだ!!!」


「ああ! 我らは海の守護者たる人魚族……。たかが人族ごときに後れを取るなどあってはならないことだ!」


「彼の存在は許容できん! 即刻処刑せよ!!」


 人魚族の戦士たちは口々にそう叫ぶ。

 タカシは現在、里の戦士たちに囲まれている状態だ。

 まだ意識を失ったままであり、このままでは処刑されてしまうかもしれない。


「待たれよ! 彼が危険なことは事実だが……恩を仇で返すのは人魚族の誇りに反する!!」


「その通りだ! ジャイアントクラーケンは、我ら人魚族に多大な被害を負わせてきた宿敵……。それを討伐できたのは、彼が奮戦してくれたおかげだ!! 処刑などあんまりだろう!! 無力化させるだけで十分である!!」


「ここは1つ、両腕を切り落とすのはどうか? 剣術を操れなくなる上、魔法発動にも適度に悪影響を及ぼせるだろう!」


「おお、なるほど。それは名案だ!」


 人魚族の戦士たちは、タカシの処遇について議論を進めている。

 過激派は、タカシの処刑。

 穏健派は、タカシの両腕切断。

 議論が進む中――。


「お待ちくださいですの!」


 メルティーネの声が響き渡った。

 人魚たちは一斉に彼女の方を向く。


「どうして、彼を害する方向で話が進んでいるんですの? 彼は命をかけてジャイアントクラーケンと戦ってくれたですのよ!?」


 メルティーネが抗議した。

 過激派の『処刑』方針が論外なのはもちろんだが、穏健派の『両腕切断』方針ですら彼女には許容しがたいものだった。


「メルティーネ姫……。お言葉ですが、人族など信用できるものではありませんぞ?」


「しかし……彼がいなければジャイアントクラーケンの脅威は残り続けていましたの。それに、彼は私を攫った人族を倒してくださったこともあるのです」


「それはどちらも、我らを利するために行ったものではないでしょう。彼は彼の利に従って行動しているはず……。一見すると共栄できそうに見えるのは、偶然の産物ですな」


「う……」


 メルティーネは言葉に詰まった。

 確かに、タカシの行動はあくまで利己的なものに思える。

 ジャイアントクラーケンも、メルティーネを助けるために倒したのではなく、彼の仲間が乗った船を逃がすために戦っていただけだ。


「で、でも――」


「メルティーネ姫。なぜそこまで、人族を庇うのです? もしや……その人族に洗脳されてしまったのでは……」


「違うんですの!!」


 過激派の1人が口にした意見に、メルティーネは即座に否定した。

 洗脳などされていない。

 彼女は心からタカシのことを愛しているのだから……。


 きっかけは、ただの一目惚れだ。

 だが、かつて自分を攫った憎き相手を倒してくれた。

 そして、里の宿敵であるジャイアントクラーケンと戦ってくれた。

 人族でありながら自分たちを助けてくれた。

 まだまともに世間話すらしていないが……。

 彼女はタカシのことを運命の相手だと思っていた。


「彼は私の初恋の御方ですの!! ファーストキスだってしましたのよ!?」


 メルティーネが真っ赤な顔で叫んだ。

 初恋の御方……ファーストキス……。

 人魚族の戦士たちは、硬直するしかなかった。


「姫様!?」


「メルティーネ姫、なんということを……!」


「人族へ人魚の加護を与えるなど……侵略の足がかりを与えるようなものでは……! それに、王族たるあなたの加護は一際強力なものになったはず……」


「そればかりではない!! よりにもよって、これほど危険な人族へ付与されたのだぞ……!!」


「単独でジャイアントクラーケンに渡り合った怪物……。彼がその気になれば、我々など……」


「彼1人で、人魚の里が滅ぼされかねない……! やはり、目を覚まさない内に処刑しておくべきでは……!!」


 人魚族の戦士たちが口々に叫ぶ。

 メルティーネの発言は、過激派の者たちに衝撃を走らせたようだ。


「彼はそんなことしませんのっ!!」


 メルティーネが再び抗議した。

 運命の相手を、これ以上悪く言われたくない。


「もし彼が害されることがあれば……私の血を全て捧げる覚悟で治療いたしますの!! そして……彼と一緒に里を出て行きますのっ!!!」


 メルティーネが叫ぶ。

 その瞬間、人魚族の戦士たちは絶句した。


「そ、そんな……! メルティーネ姫が里を離れるなど……!!」


「それはいけません!! どうか、考え直してください!!」


「我らは貴女を失いたくないのです!!」


 人魚族の戦士たちが口々に叫ぶ。

 人魚族の王族は特別な意味を持つ。

 彼女が里を離れるなど、他の人魚族からすれば悪夢そのものだ。

 しかし、彼女は強硬な態度を崩さない。

 それを見て、戦士たちは折れざるを得なくなった。


「わ、分かりました……。そこまでおっしゃるのでしたら……」


 メルティーネがここまで強い意志を見せたのは初めてだ。

 さすがに逆らえないと思った人魚族の戦士たちは妥協案を示す。


「『魔封じの枷』と『闘気封印の縄』で縛り、牢屋に閉じ込めます。両腕の切断は止めておきましょう……。そして、国王陛下や大臣たちにも相談し、対応策を考えます。もっとも……目を覚ました彼が少しでも不穏な動きをすれば、その時は問答無用ですぞ?」


「分かりましたの」


 メルティーネがうなずく。

 こうして、タカシは意識を失ったまま、人魚の里の中に運び込まれていくのだった。

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