「よう……。いいザマだな」
「「「…………」」」
3人の女盗賊がこちらを睨む。
俺は街の地下牢にやって来ていた。
黒狼団のメンバーから情報を引き出すためだ。
俺の同行者は、ミティ、ナオミ、ネスター、シェリーの4人。
そこに俺を加えた5人が、今度行われる賊の捕縛作戦の実行班だ。
黒狼団の収容は、男女で部屋を分けている。
そして俺からの尋問は、もちろん女盗賊相手に行う。
別に男に尋問してもいいのだが、せっかくだからな。
「お前たち、これからどうなるかわかっているんだろうな……」
今から俺たちは女性を尋問することになる。
そのことに何とも言えない興奮を感じていた。
俺はMもSも両方いけるタイプだ。
今日は高圧的にSで責めていこうかな。
人は正義が自分にあると信じている場合、より残酷になれると聞いたことがある。
また、自分より立場が上の者から指示された場合にも、残酷になる。
”命令だから仕方ないよね。俺は悪くない”という感じだ。
加えて、特殊な肩書きや地位を得た場合にも残酷になる。
”これが自分の役割だから仕方ない”というイメージだ。
ミルグラム実験とかスタンフォード監獄実験が有名だな。
今回の場合、俺は全ての条件を満たしている。
相手が盗賊団であり、さらなる賊の摘発のために情報を引き出す必要があるという点で、正義は俺にある。
また、今回の命令は俺より立場が上のネルエラ陛下からの指示だ。
さらに、俺はサザリアナ王国の貴族として、領民や国民の安全を守る役割がある。
女性相手の尋問は楽しそうだが、やり過ぎには気をつけないとな。
俺はそんなことを考えつつ、3人の女盗賊を睨む。
「へっ。知らねえよ。捕まった時点でオレたちは終わりだ」
「ああ。アタイたちが話せることは全て話した」
「死刑か? 犯罪奴隷堕ちか? 好きにすればいいさ」
口々に強がる女たち。
まあ、彼女たちの気持ちもわかる。
窃盗罪は殺人や放火と比べれば軽い罪とはいえ、額が額だ。
現代日本における窃盗罪も、被害額の多寡によって刑罰が上下する。
確か、20万円の窃盗で懲役1年くらいが相場だったはずだ。
それより額が少ないと、大抵の場合は執行猶予が付く。
クシャクシャのちり紙を盗んだ件については、実質的に価値のないものを盗んだとして窃盗罪自体が成立しないという判例もあった気がする。
サザリアナ王国ではどうか?
俺はまだ十分に理解しきれていないのだが、意外にしっかりとした法体制を敷いていることは確かだ。
日本の常識や感覚がそこそこ通用する。
とはいえ、黒狼団は金貨10000枚もの大金を盗んだ。
それも、王城に侵入してだ。
本人の言う通り、死刑や犯罪奴隷堕ちすらあり得るかもしれない。
「ヤケクソになるな。最後のチャンスをやろう」
「あ? 何言ってやがる」
「最後のチャンスだと?」
「そうだ。もし、俺の質問に対して素直に答えてくれるなら、減刑の交渉をしてやる。もちろん、条件はあるがな」
俺は男爵だ。
一存で減刑する権限はさすがにないが、交渉次第で減刑することは十分に可能だろう。
「「「……」」」
俺の言葉を聞いた途端、3人は顔を見合わせた。
そしてニヤリと笑う。
「ふっ。何を言うかと思えば……」
「バカじゃないの? 話せることは全部話したって言ったじゃん」
「ああ。これ以上話すことはないな。ま、聞くなら勝手にすればいいさ」
3人がそう言う。
「交渉成立だな。では、お前はこの部屋に残れ。ネスターにシェリー。こいつの尋問は任せたぞ」
尋問の際には、対象者を引き離すのが基本だ。
責めを共有する仲間がいないことによる孤独感。
他の仲間が既に話してしまうかもしれないという不安。
そういった感情により、口を割りやすくなる。
「わかった。任せてくれ」
「しっかりやらせてもらうさ」
2人がそう返答する。
精神的にも能力的にも安定しているこの2人なら、情報を引き出せる可能性は十分にある。
「次に、隣のお前だ。お前は隣の部屋に移ってもらう。ミティにナオミ。情報を引き出してくれ」
「わかりました!」
「お任せください! ハイブリッジ様!」
2人が元気よく返事をする。
パワフルなミティに、騎士見習いのナオミ。
ネスターやシェリーとは違った方向性で情報を得られる可能性はある。
「そして最後に、残ったお前だが……」
「……」
「お前は俺と一緒に来い。いろいろと聞きたいことがあるんでな……」
「へっ。好きにしやがれってんだ」
俺は、強がる最後の1人を牢屋から連れ出す。
そして、別の牢屋に移動する。
「まず、名前を教えてもらおうか」
尋問のコツは、答えても問題ない簡単な質問から始めることだ。
最初から大きな情報を吐かせようとしては、うまくいかない。
「……」
「だんまりか? おいおい、名前ぐらいはいいじゃないか。俺とお前の仲だろ?」
彼女は、黒狼団を捕らえた際にナオミを人質にして最後まで抗っていた盗賊だ。
俺の絶技により天国を味わったことがある。
実質的に俺の女になったと言っても過言ではない。
……いや、さすがに過言か?
「……キサラだ」
簡単な質問とはいえ、口を割らせた。
第一関門突破といったところだな。
「キサラね。覚えておくよ」
俺はそう言って、ニヤリと笑みを浮かべたのだった。
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