俺はダダダ団アジトの地下にて、首領のリオンと向かい合っている。
すぐに攻撃しても良かったのだが……。
この部屋には、大量の本、謎の水槽、不思議な魔法陣など怪しいものがたくさんある。
リオンはベラベラと情報を話すタイプのようなので、もう少し話を聞いてみることにしたのだ。
「……それで? お前の理想とやらのために、『英霊』の力を利用すると? 最終的に、お前は何をしたいのだ?」
「決まっている。我が悲願……『不老不死』だ!」
「……『不老不死』?」
リオンの言葉に、俺は首を傾げる。
またとんでもない言葉が出てきたな。
現代の地球に比べれば、魔法という不可思議な技術があるため多少は現実味のある言葉のようにも聞こえる。
実際、重力魔法による『空中浮遊』、治療魔法による『難病治療』、空間魔法による『転移』『異空間への収納』などの現代科学では到底説明できないような奇跡がここには存在する。
しかし、それでもさすがに『不老不死』を実現させるとなると話は別だ。
そもそも、人は『死』から逃れられない生き物だ。
どれだけ医療が進歩しようと、どんなに画期的な発明が生まれようと、『死』は必ず訪れる。
それを覆すことなど、できるはずがない。
「バカなことを言うな。『死』は絶対だ。『不老不死』なんてありえない」
「ふん……。その顔は信じていないな? だが、私は本気だ」
「英霊の力を借りれば、不老不死になれると?」
「部分的にはその通りだが、正確に言えば違う。英霊の力は、あくまで不老不死を実現するために必要な要素の一つ。他にも様々な要素がある」
「ほぉ……。興味深いな」
俺は思わず感心する。
英霊以外にも、不老不死を実現するために必要なものがあるということか。
実現すれば、ミティやアイリス、モニカやニムといった愛する妻たちといっしょに末永く幸せに暮らせるかもしれない。
不老不死は不老不死で大変そうだが……。
そのデメリットを考えるのは、それがある程度実現できそうだと目処がついてからでも遅くない。
「例えば、他に何が必要なんだ?」
「人魚の血、不死鳥の羽、古龍の逆鱗、そして賢者の石が必要だ」
「……賢者の石?」
俺は思わず聞き返す。
人魚・不死鳥・古龍といった存在も気になるが、それよりまず気になるのが賢者の石だ。
ファンタジー作品の中でも、その扱いの方向性はずいぶんと異なる。
この世界には存在しないと思っていたが……まさか実在していたとはな。
「そうだ。サザリアナ王国の全国民――あるいは新大陸に住む中級以上の魔法使いを全員といったところか。それらの命と引き換えに作られると言われる究極の素材だ。この私ですら、お目にかかったことはないがな。研究の総仕上げまでには用意するつもりだ」
「……」
駄目だこりゃ。
不老不死は魅力だが、さすがに犠牲となる人数が多すぎる。
例えば『ミリオンズ』の現メンバー11人を不老不死にするだけでも、サザリアナ王国の全国民の11倍の犠牲者が必要となる。
それだけの人の死を犠牲に身内だけが不老不死を得られたとして、末永く幸せな暮らしを送れるとは到底思えない。
「……ちなみに、お前の年齢はいくつだ?」
「45歳だ」
「なら、あと30年は生きられるな。その間に他の方法を考えろ」
不老不死を研究すること、それ自体を止める必要はない。
そういった研究から治療魔法や医療が発展するかもしれないしな。
もし平和的に寿命を延ばせるようになれば、利益は大きい。
高齢化とかの問題は、そのときに考えればいいことだ。
彼にはぜひとも、穏便な方向性で研究を続けてほしい。
「無茶を言うな。不老不死は我が悲願……お前のような怪しい奴に言われたぐらいで方向性を変えられるか」
「そうか……。なら、やはりお前を排除するしかないようだ。全国民の犠牲など、さすがに看過できん」
「やれやれ……。お前も私の研究に興味を持ってくれたと思ったのだがな」
リオンは肩をすくめる。
彼はダダダ団の首領だが、どちらかと言えば研究者タイプだな。
いかにもなチンピラのヨゼフとは雰囲気が異なる。
「まぁいい。私の研究を邪魔する者は誰であろうと排除するまでだ」
「……俺に勝てるつもりか? チンピラどもは排除済み……お前1人でどうこうできるわけがない。不老不死の研究も未完成なのだからな」
「クッハッハ! 確かに、今の私は部下なしの丸腰状態だ。不老不死の研究も未完成……。だが、何も問題はない。研究の副産物はたくさんあるのだからな!」
リオンは自信満々の笑みを浮かべる。
どうやら、何か奥の手があるらしい。
……少しだけ警戒しておくとしよう。
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