モニカとの結婚式が始まろうとしている。
「タカシ様。そろそろお時間でございます」
係の人からそう声が掛けられる。
控室から出て、式場の入口の前までやってきた。
「新郎の入場です!」
係の人がそう叫び、式場の扉を開く。
大音量で入場曲が演奏され始める。
俺は扉から式場の中に入る。
当たり前だが、知った顔がたくさんいる。
モニカの母親であるナーティア。
ニムの両親であるパームスとマム。
ニムの兄サム。
執事のセバス、メイドのレインとクルミナ。
マクセルたち”疾風迅雷”。
ギルバートたち”漢の拳”。
ソフィアたち”光の乙女騎士団”。
ディッダたち”荒ぶる爪”。
ビリーたち”黒色の旋風”。
マリアやバルダインたちハガ王国の面々。
一時釈放されている元”ブギー盗掘団”の面々。
その他、ラビット亭の常連客などの姿もある。
今までの結婚式で一番の大人数だ。
俺は式場の奥の祭壇まで歩いていく。
少しそこで待機する。
そして。
「新婦の入場です!」
係の人がそう叫ぶ。
モニカとダリウスが入ってくる。
バージンロードだ。
彼女たちがこちらに歩いてくる。
「何度見ても、きれいなの……」
「僕も、いつかは白馬の王子様と……」
「モニカお姉ちゃん、きれいだよ!」
来賓席のセリナ、ソフィア、マリアがそう声を漏らす。
カトレアやレベッカも目を輝かせている。
「ラビット亭の看板娘が、立派になったな……」
「俺たちのアイドルのモニカちゃんが……」
「美しく成長したな。モニカちゃんを泣かせたら、承知しねえぞ」
ラビット亭の常連客たちから、そういった声が聞こえてくる。
確かに今日のモニカは美しい。
彼女はやや男勝りな性格をしている一方で、女性らしさも兼ね揃えている。
今日のモニカは、可憐なウェディングドレスに身を包み、女性らしさが際立っている。
俺は、モニカと初めて会った日を思い出す。
冒険者として活動を始めて間もない頃のことだった。
この世界に来てからの食事は、しばらくは宿屋の食堂や屋台での買い食いで済ませていた。
初めての外食が、ラビット亭でのものだったのだ。
彼女の父ダリウスは病床に伏せていたため、彼女が1人で切り盛りしていた。
俺はおいしい料理を堪能させてもらったものだ。
スメリーモンキーの食材が手に入ったときには、”赤き大牙”や”蒼穹の担い手”を招いて食事会を開いたこともあった。
その後、俺がゾルフ砦やハガ王国で奮闘している間は、接点がなかった。
再会したのは、俺がラーグの街に帰ってきたときのことだ。
帰ってきてさっそくラビット亭に向かったところ、店が半壊しており、モニカも足を負傷していたのだ。
俺はラビット亭の復旧作業を手伝い、そして彼女の足の治療を行った。
多額の資金援助も行った。
そしてダリウスの容態が急変したときには、俺は治療魔法を上級に伸ばすことを決意し、治療を試みた。
幸いなことに、治療は無事に成功した。
それらの出来事を通してモニカは加護付与の条件を満たし、冒険者として俺に同行してくれることになった。
その後のガロル村、メルビン杯、ウォルフ村などでの活動においても、彼女はめざましい活躍を見せてくれた。
行く先々でおいしい料理を味わいつつ自らのレパートリーに加えている。
彼女がいることで、日々の食卓が非常に充実している。
モニカは男勝りで明るい性格だ。
そして、優しいところもある。
ラビット亭の前でお腹を空かせていたニムに、食材の余りを分けてあげたことがあるのだ。
高い戦闘能力、卓越した料理の腕前、そして優しい性格。
俺にはもったいないぐらいの魅力的な女性である。
モニカとダリウスが俺のすぐ近くまで来た。
ダリウスが口を開く。
「タカシ君。モニカのことを、くれぐれもよろしく頼むぞ」
「わかりました。ともに幸せな家庭を築けるよう、がんばります」
俺はダリウスの目を見て、力強くそう言う。
ダリウスが下がり、来賓席へと向かう。
俺とモニカの結婚式がひと段落すれば、今度は彼とマムの結婚式なども控えている。
今日は忙しい。
俺とモニカで、神官のほうを向く。
街の神官が口を開く。
「新郎タカシ。あなたはここにいるモニカを、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「誓います」
「新婦モニカ。あなたはここにいるタカシを、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?」
「誓います」
俺とモニカの誓いの言葉に、神官が満足げにうなずく。
「では、誓いの口づけを」
みんなの前で口づけをすることになる。
実は、モニカとキスをするのはこれが初めてだ。
彼女は特別に奥手というわけでもなさそうだったが、なかなかきっかけがなかったのだ。
「モニカ。愛している。これからも、ともに生きていこう」
「私も愛しているよ。タカシ。毎日おいしい料理をつくってあげるね」
モニカと見つめ合う。
唇を近づけ、キスをする。
彼女の唇の感触を堪能する。
口を離す。
キスの余韻に浸るかのように、モニカと再び見つめあう。
彼女は幸せそうな笑みを浮かべている。
俺は、来賓席のほうに体を向ける。
「皆さま。本日はお忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。これからも彼女と力を合わせて、良き家庭を築けるようがんばっていきます。どうか今後もよろしくお願い致します」
「よろしくお願いします」
俺とモニカはそうまとめのあいさつを口にし、一礼をする。
来賓席のみんなから拍手がされた。
その後も、つつがなく結婚式が進行していく。
俺とモニカの結婚式は、これでひと段落だ。
次は、ダリウスとマム、それにパームスとナーティアの再婚式がある。
それがひと段落すれば、俺とニムとの婚約のお披露目会だ。
さらにその後には、モニカ、ダリウス、ナーティアによって下ごしらえされたおいしい料理が提供される食事会がある。
かつてモニカが俺やアイリスの言葉をヒントに開発したマヨネーズを使った料理。
モニカがミリオンズに加入してから巡ったガロル村、ゾルフ砦、ウォルフ村、ハガ王国などの名物料理。
そしてもちろん、もともと彼女たちが得意としていたラビット亭の定番料理なども提供される。
じゅるり。
今からお腹が空いてきたぜ。
今日はたくさん食べよう。
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