俺は秘密造船所で自分が『タカシ=ハイブリッジ男爵』であることを知ってもらった。
次に警備兵たちの視線が向かったのは、俺の両隣に立つモニカとニムだった。
俺を知らなかったのだから、当然彼女たちも紹介が必要だろう。
「ハイブリッジ卿、そちらの方々を紹介してもらっても……?」
ゴードンが遠慮がちに声をかけてくる。
一般兵だけでなく、秘密造船所の総責任者である彼ですら、モニカとニムの顔を知らないか。
彼女たちは、俺の第三夫人と第四夫人なのだが……。
まぁ、当主本人や第一夫人ならまだしも、第二夫人以降は知名度が落ちてしまうのも仕方ない。
普通は表舞台に出てくることもないしな。
そもそも、知名度が低いからこそオルフェス訪問に付いてきてもらったわけだし……。
「あぁ……そうだな。せっかくの機会だ。彼女たちには自己紹介してもらおうか」
俺はモニカとニムに視線を向ける。
すると、二人は一歩前に出て、まずは警備兵たちに向かって軽く会釈をした。
それだけで、警備兵たちの間にどよめきが起こる。
(な、なんという美しい兎獣人の女性なんだ……。見ろ、あの素晴らしい体を……)
(ああ、あんなにスタイルの良い女性は見たことがない……。顔もきれいだし、胸もなかなかに大きいぞ……)
(バカめ。本当に素晴らしいのは……あの美脚だ。あのすらっと伸びた細い足に……しっかりと付いた筋肉……。最高じゃないか……)
(わかっていないな。隣の犬獣人の少女だって負けてはいないぞ……)
(ああ。あの整った顔立ちに……きれいな灰色の髪……)
(そして……あの膨らみかけのおっぱい……。あの胸に抱きしめられたいものだ……)
モニカとニムの姿を見た警備兵たちは、小声で何かをつぶやく。
しかし、その内容は俺にも聞こえていた。
ニムはともかく、兎獣人のモニカにも聞こえているはずだ。
(俺の妻に色目を使いやがって……。万死に値する! ――と言いたいところだが……)
2人が俺の妻であることを、彼らは知らないだろう。
知っていて寝取りを画策しているのなら、その命を持って償わせるが……。
そうでないなら、俺が手を下すべきじゃない。
俺は心の中でそう思いつつ、2人の自己紹介を見守る。
「私は、タカシの第三夫人のモニカだよ」
「わ、わたしは第四夫人のニムです」
モニカとニムは、それぞれ自分の名前と立場を明かす。
すると、警備兵たちから驚きの声が上がった。
「だ、第三夫人と第四夫人!?」
「ええええええっ! お二人とも、ハイブリッジ卿の奥様だったとは……!」
「第三夫人のモニカ様と言えば……Bランク冒険者の『雷脚』として有名なお方!」
「第四夫人のニム様は、同じくBランク冒険者で『鉄心』の二つ名をお持ちだったはず……」
「どちらも、俺たちなんかが懸想していい相手ではなかったんだ……」
警備兵たちが次々と声を上げる。
……ふむ。
どうやら、モニカとニムのことも知っているようだな。
俺たちの顔は知らずとも、名前や二つ名は知っていたということか。
「ふふっ。私たちのことを知っているようだね」
「え、えへへ。ちょっと照れちゃいます」
「まぁ、私たちも有名人になったもんだよねぇ……。タカシのおこぼれみたいなものだけど……」
「はい。タカシさんのおかげですよね。そして、わたしはそんなタカシさんの妹ではなくて、奥さんです!」
ニムが少しだけ自慢げに言う。
このオルフェスへ訪問するにあたり、ニムには俺の妹という設定で付いてきてもらっていた。
俺のことを『兄さん』と呼んで仲良くしてくれるので、とても可愛らしい妹ができた気分で嬉しいのだが……。
やはり、少しばかりの不満が溜まっていたようだ。
妹より、妻として認識されたかったのだろう。
俺はニムの頭を優しく撫でる。
「うぅ……! えへへ~!」
嬉しそうな表情で喜ぶニム。
その様子を見ていて、警備兵たちも羨ましそうな表情を浮かべていた。
「……それでは、ハイブリッジ卿。ご紹介をいただいたことですし、そろそろ本題に入ってもよろしいでしょうか?」
「ん? あぁ、そうだな」
ゴードンが話を進めてくれる。
俺としては、モニカやニムともっとイチャつきたかったが……。
それはまた今度でも構わないだろう。
「ハイブリッジ卿が来られた理由は、例の隠密小型船の件ですよね?」
「あぁ、そうだ。ダダダ団は壊滅したことだし、改めて完成の目処が立ったんじゃないか?」
「はい。すでに作業は再開しております。よろしければ、一度ご覧になりませんか?」
「ふむ……。そうだな。見せてもらおうか」
俺たちはゴードンの案内に従い、秘密造船所の中を進む。
そして、いくつかの部屋を通り過ぎて最奥部へと到着したのだった。
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