「桔梗! 助けに来たぞ!!」
俺は叫ぶ。
稽古場の奥に位置する雷轟の私室。
そこに、桔梗はいた。
彼女は縄で縛られており、身動きが取れないようだ。
「た、高志くん……!?」
「無事だったか、桔梗。良かった……」
俺はほっと胸を撫で下ろす。
見たところ、乱暴された様子はない。
服ははだけているが、それだけと言えばそれだけだ。
「ふはっ。こいつは驚いたな」
雷轟が部屋の奥から姿を現す。
年齢は30代~40代くらいか。
彼の服装はかなりゆったりとしたものだ。
完全にリラックスモードだったらしい。
彼は余裕の表情を浮かべたまま、言葉を続ける。
「まさか、本当にここまで来るとは……。流浪人風情にしては大したものだ」
「……お前が雷轟だな? 世間話をするつもりはない。桔梗を返してもらおう。拒否するのならば殺す」
俺は言う。
すると、雷轟は愉快そうに笑った。
「くくくっ。いきなり『殺す』とは、物騒な奴だな。あまり強い言葉を使うなよ……弱く見えるぞ?」
「世間話をするつもりはないと言ったはずだ」
「わざわざ殺されに来たのか? それほど、この小娘にご執心というわけか」
「うるさい。桔梗は俺の師匠だ。武神流を教えてもらうことで、俺の剣術はさらなる高みに登れる。彼女を失うわけにはいかない」
話をするだけでは埒が明かない。
俺は刀を抜く。
それを見て、雷轟は嘲笑した。
「はっ! そんな小さな棒切れで儂の相手が務まるかな?」
そう言って、雷轟は傍らから巨大な武器を手に取る。
それは巨大な金砕棒だった。
「お前の剣術がどれほどのものか、儂が直々に見極めてやる」
雷轟は言う。
やはり、戦うしかないようだ。
俺は無言で頷く。
「た、高志くん……!」
桔梗が叫ぶ。
彼女は泣きそうな顔をしていた。
そんな彼女を安心させるように、俺は微笑んで見せる。
そして、雷轟に対して油断なく刀を構えた。
これで3人目の桜花七侍との戦闘だ。
彼はどういった戦い方をするのか……。
慎重に見極める必要がある。
「来ないのか? ならば、こちらから行かせてもらうぞ!!」
雷轟は金砕棒を振りかぶる。
彼からこちらまで、まだ距離がかなりある。
いったい何を仕掛けてくるつもり――
「【雷轟六卦】」
雷轟は呟く。
すると、超速で雷轟は間合いを詰めてきた。
「ッ……!!」
俺は咄嗟に刀を構え、防御の体勢を取る。
だが、間に合わなかった。
金砕棒による重い一撃が俺を襲う。
俺の体は吹き飛び、壁に叩きつけられた。
「ぐっ……!」
衝撃に耐えつつ、俺は記憶を思い起こす。
今の技は、どこかで見たことがあるような……。
記憶はおぼろげだが、冒険者活動をしている中で知り合った武闘家やオーガの少女戦士が使っていた気がする。
しかし、威力や速度はそれらより遥かに上だった。
俺は壁に叩きつけられたまま、しばらく動かない。
「誰が……誰を『殺す』って? 身の程知らずが……」
雷轟はニタリと笑う。
そして、床に倒れる俺に向かって歩み寄ってくるのだった。
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