「あ、あの、リンゴを買っていただけませんか?」
「……ん?」
俺は思わず聞き返す。
ええっと……そう、俺はラーグの露天通りを歩いていたところだ。
成長チート付きで異世界転移した俺だが、今のところあまり上手くいっていない。
異世界ファンタジーと言えば、美少女奴隷。
そんな思いから奴隷を購入しようとしたこともあった。
だが、移送中の死亡事故があったとかで奴隷商会がバタバタしており、とてもじゃないが手続きできなかった。
なので、まずは冒険者になってみようと思ったのだが……。
そちらも微妙だった。
スキルはあっても、怖いものは怖いのだ。
手取り足取り教えてくれる先輩冒険者でもいれば話は別だっただろう。
だが、世の中そんなに甘くない。
自分なりに工夫して、1日に数匹程度の魔物を狩るのが精一杯だ。
今の俺は、貧乏で将来性のないEランク冒険者。
食費もできるだけ削っており、露天通りの安い店で済ませることが多かった。
だから、今もこうして露天通りを歩いていたわけである。
「リンゴ……か」
俺は、目の前にいる少女を見る。
年齢にして10歳ぐらいだろうか?
全身が薄汚れていて、顔つきも少し暗い。
おそらくは、この街の貧困層なのだろう。
ここには生活保護のような制度もないし、現代日本における貧困問題よりも深刻なのかもしれない。
俺は貧乏仲間として、少しシンパシーを感じた。
「ああ、もらうよ。いくらだい?」
「ひ、ひとつ鉄貨3枚です」
少女はおずおずと言った。
鉄貨3枚?
かなり安いな……。
日本で言えば、リンゴ1個30円ぐらいだろうか?
食費を削っている俺としては、大助かりだ。
「2つもらうよ。お釣りはいらない」
「あ、ありがとうございます」
少女は嬉しそうにリンゴを2つ差し出す。
俺はそれを受け取り、少女に銅貨1枚を渡した。
貧乏仲間として勝手にシンパシーを感じていたが、彼女の方が俺より生活が苦しそうだ。
少しでも彼女の生活の足しになればと思ったのである。
――その後、犬獣人の子からリンゴを買うのが日課になった。
俺はEランク冒険者として、地道に活動している。
稼ぎはイマイチで、生活にあまり余裕はない。
そんな中、彼女から買える割安のリンゴは頼みの綱だった。
「今日もリンゴを2つもらおう。いつもありがとな」
「い、いえ。こちらこそ、ありがとうございます。いつも多めに払っていただけて、助かってます」
「まぁこれぐらいはな。じゃあ、また明日」
俺は少女に手を振ると、その場を立ち去ろうとする。
だが……少女は俺の裾を掴んできた。
「どうした?」
「あ……。ご、ごめんなさい……」
「いいよ。それで? どうした?」
俺は再び少女に向き直る。
だが、少女はずっともじもじしている。
「あの……。ごめんなさい、何でもないです」
「そうか……。何か困ったことがあったら言ってくれよ?」
俺は笑顔で言う。
そして再び立ち去ろうとした。
だが――
「……っ! お、お兄さん、待って……!!」
「おわっ!?」
少女は俺に向かって飛びついてきた。
俺は慌てて少女を受け止める。
「あ、あの……。わたし、その……」
「どうした? 言いたいことがあるんだろ? ゆっくりでいい。落ち着いて」
俺は少女の頭を撫でる。
彼女は意を決したように顔を上げた。
「お、お兄さん……わたしの名前はニムといいます」
「ニムか。いい名前だな。俺はタカシ。改めてよろしく」
「はい……。それで、あの……」
ニムは再びもじもじしている。
俺は優しく尋ねた。
「どうしたんだ? ゆっくりでいいから話してごらん?」
「あ、はい。その……タカシさんにお願いがあります」
「うん。何だい?」
「わ、わたしを……。わたしたちを、助けてください!!」
ニムは俺にすがりついてそう言ったのだった。
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