サーニャちゃんとの再会後、借りている自室へと向かう俺。
ノックをすると、中からモニカとニムの元気な返事が返ってきた。
しかし、俺が扉を開けた瞬間、目を疑った。
「えっ……!? ……!!??」
俺は思わず立ち止まってしまう。
なぜならば、部屋のベッドで半裸の男が寝転がっていたからだ。
「お、おかえりなさい。兄さん」
「たっちゃん! 会いたかったよ~! ……って、あれ? どうしたの?」
「……」
俺の姿を見て、にこやかな笑みを浮かべる2人の女性。
もちろんニムとモニカだ。
そこまではいい。
だが――
(えっと……どういう状況なんだ……これ……)
思考停止してしまう俺。
2人が、半裸の男の側でタオルなどの準備をしていたからだ。
なぜそんなことをしているのか理解できない。
というか、目の前の男は何者なのか?
まさかとは思うが――
(う、浮気か……?)
俺の中に嫌な予感が広がる。
自分も浮気しまくっておいて何だが、浮気されるというのは辛いものだ。
俺が自分自身の行為を棚上げしているというのもある。
だがそれ以上に、動物の一種としての根源的な本能が拒絶反応を示しているのだ。
モニカとニムが浮気したなら、俺は――
(いやいやいやいや! 落ち着け! 早まるな! まずは状況を把握だ!!)
俺は心を鎮める。
そして、改めて男の方を見た。
年齢は40代……いや、30代くらいだろうか。
背が高めで、体も鍛えられている。
なかなかのイケメンに見えなくもない。
(ほ、本当に浮気なのか!? こんな奴のどこがいいんだ!? 俺の……俺の方が……!!)
俺は愕然としながら、心の内で叫ぶ。
しかし、声に出す勇気が出なかった。
(俺の方が……何だと言うのだろうか? 俺は……俺という存在は……)
俺は特にイケメンではない。
身長はやや高いが平均の範囲内だし、知力もボチボチだ。
転移時に得た『加護付与』や『ステータス操作』というチートは持っているものの、別に自力で得た能力というわけでもない。
当然、それらの能力を活用して得た『Bランク冒険者』や『サザリアナ王国男爵』という地位も、自力で得たものではないと言える。
チートのない本来の俺なら、今頃はDランク冒険者として四苦八苦していたことだろう。
演技のために『Dランク冒険者タケシ』という存在を設定したが、あれこそが俺の正体という見方もできる。
1人の女性だけならともかく、モニカやニムのような美少女を2人も同時に連れ回していることが分不相応だったのだ。
「えへへ……、びっくりした?」
「あ、ああ……。驚いたよ……」
「え、ええと、実はですね……」
「実は……?」
俺は、モニカとニムの言葉を待つ。
まるで死刑宣告を受ける前の罪人の気分だった。
2人の表情が妙に明るいのが気になるが……。
それほどまでに、俺という伴侶への不満が溜まっていたということだろうか……。
「私たちね……」
「はい……」
ついに判決を受けるときが来たか……。
俺は覚悟を決める。
「この人を海岸線で見かけたから、回収したおいたの!」
「……はい? 海岸線? 回収?」
「そ、そうです! 兄さんの気配を感じて向かった海岸線で、この人を見つけたんです! ひょっとして、ダダダ団の頭領なんじゃないですか? 兄さんが戦っていた……」
「ん? ダダダ団……? あっ……」
俺はそこでようやく気づいた。
ベッドで寝かされているのは、ダダダ団の頭領リオンだ。
(『三日月の舞』とのアレコレでその場に放置してきてしまったが、よく考えたら結構マズかったな……)
仮にも『ダダダ団』の頭領が、海岸に倒れているなんて普通はあり得ない。
見つけてくれたのがモニカとニムで良かった。
これなら、今後いくらでも対処のしようがある。
MPが徐々に回復してきた今なら、俺の影魔法などを駆使して衛兵の詰所や冒険者ギルド付近に置いてくることが可能。
あるいは、秘密造船所の所長ゴードンに引き渡すのもアリだろう。
「ふふっ。これで良かったんでしょ? かなり消耗している様子だったし……」
「ああ。そうだな。消耗している彼をずっと放置していたら、そのうち死んでいたかもしれない。さすがはモニカとニムだ」
「え、えへへ……。兄さんのためなら、いくらでも頑張れちゃいます!」
「あー、ずるーい! 私だって頑張ってるもん!!」
頬を赤らめて喜ぶ2人。
どうやら俺への不満はなさそうである。
むしろ、俺のためになればと積極的にリオンを介抱している。
その気持ちは嬉しい。
嬉しいのだが、俺ではない半裸の男を世話されるのは、何とも言い難い寝取られ感がある。
いや、2人にその気はないし、リオンに至っては意識すらないので、完全に俺の被害妄想なのだが……。
嫌なものは嫌なのだ。
「よし、ここからは俺が彼を世話するよ。2人はゆっくり休んでいるといい」
「えっ……。でも……たっちゃんは夜通し戦って、疲れているんじゃ……」
「そ、それに、今日も予定が入っていますよ。隣にある魔導工房の方が、挨拶に来てくれるはずです」
「確かに疲れているが、簡単な対応ぐらいは問題ないさ。いいから、2人は休んでいてくれよ」
俺の有無を言わせぬ言葉に、2人が折れる。
「は、はい。では、後はお願いします!」
「りょーかい! よろしくね~」
こうして俺は、リオンの介抱を始めるのであった。
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