俺はリオンと共に、オルフェスの沖合に転移した。
月明かりのみが周囲を照らす海上。
俺は重力魔法で空を飛びながら、リオンと向かい合っている。
「ハァッ!!」
リオンが拳を突き出す。
俺はそれをサッと避けた。
「チィッ! ちょこまかと!!」
リオンが苛立った様子で言う。
さっきまでは、そこそこ狭い地下室で戦っていた。
その状況でも、彼は俺に有効打を与えられなかったのだ。
ましてや、今は縦横無尽に飛び回っている状態である。
英霊ベテルギウスの力を宿した彼の潜在能力こそ脅威だが、使いこなせてない今は相手にならない。
「この……っ!」
リオンが俺から少しばかり距離を取った。
そして――
「くらえっ! 【ドラゴニック・バースト】ぉっ!!!」
両手から闘気を放った。
凄まじい闘気弾がこちらに向かってくる。
「ほう。龍神ベテルギウスの必殺技というところか。面白い」
リオンの判断は理にかなっていると言える。
近接戦闘では、慣れない力を制御することは難しい。
だが、遠距離攻撃ならば話は別だ。
力任せにぶっ放せば、とりあえずは形になる。
「――【影壁・三連】」
俺は素早く魔法を唱えた。
奴の闘気弾の威力は高そうなので、最初から三連だ。
しかし――
バリンッ!
バリバリンッ!!
3枚の壁が、あっさりと打ち破られてしまった。
「なかなかの威力だ……」
俺は防ぐことを諦め、回避に専念することにする。
「逃がすかっ! ――【龍神波動】!!」
リオンが腕を振りかざし、そこから闘気を飛ばした。
一発目よりも威力は低そうだが、狙いはきっちりと俺を捉えている。
「甘いな」
俺はその攻撃を、急下降しながらヒラリとかわす。
「まだまだぁ!! ――【龍神脚】!!」
リオンが上空から蹴りを放ってきた。
これは――避けきれない。
「ぐっ……!」
ドッパーン!
リオンの蹴りを受けた俺は、海へ叩き落された。
(ダメージは……さほどでもない。水面の方向は……)
俺は冷静に状況を把握する。
ステータス操作のチートにより様々なスキルを取得している俺は、水中での活動能力も常人に比べれば高い。
特に有用なのは『視力強化』だ。
単に遠くのものが見えるようになるだけでなく、他にも様々な副次的恩恵がある。
海水の中で目を開けても、特に問題なく視界を確保できるのもそのおかげだ。
バシャッ!
俺は水中から脱出し、再び海上へ浮上した。
「ふむ……。意外にやるじゃないか」
「クッハッハ! ようやく龍神ベテルギウスの力が馴染んできたようだ!! お前のような怪しいザコなど、敵ではないぞ!!」
リオンが笑う。
実際、彼の動きは少しずつ良くなってきている。
今の俺にはやや厳しい相手かもしれない。
「…………」
「クッハッハ! どうした? 強大な力を前にして、言葉も出ないのか!?」
リオンが勝ち誇ったように言う。
だが、俺は至って平静だ。
「――そんなに嬉しいか?」
「当然だ! この最強の力があれば、お前に勝てる! ゆくゆくは『ラウンド・ワン』の座を手に入れることすら――」
「そんな借り物の力で有頂天になるとは、ずいぶんと安い男だな」
「なにぃ!?」
リオンが怒りの形相を浮かべた。
どうやら、図星だったらしい。
「お前のその力は、あくまでも『英霊』の力に過ぎない。英霊の力を借り受けて変身しているだけで、お前自身は何も変わってはいない。ただの劣化版だ」
「黙れっ! この私を侮辱したこと、必ず後悔させてやる!!」
リオンがまた襲いかかってきた。
俺はそれを避けつつ、思案する。
(ダダダ団のアジトで戦っている時、俺は力を抑えて戦っていた。俺の正体がタカシ=ハイブリッジ男爵だとバレないようにするために……)
得意の火魔法や水魔法を封印。
自慢の武器『紅剣アヴァロン』も不使用。
普通の鉄剣や拳を使いつつ、影魔法をメインに戦ってきた。
リオンごときはそれで十分に対処できると思ったのだが――
ドゴォッ!
彼の拳が俺の脇腹を直撃する。
「ぐはっ……!」
俺は大きくふっ飛ばされる。
重力魔法により空中で体勢を整えるが、ダメージはそれなりにある。
「クッハッハ! たとえ借り物の力だろうと関係ない! お前を倒せるなら、なんだっていいんだよ!!」
リオンが叫ぶ。
その顔は自信に満ち溢れていた。
「……そうか」
「なんだぁ? やっと諦めがついたのか? まぁ、潔く負けを認めると言うのであれば、命だけは助けてやらんでも――」
「英霊の力に対抗するには、今のままではダメらしい。ならば、対処法は一つ」
幸い、ここは海の上だ。
ダダダ団のアジトでは全力を出せなかったが、ここなら大丈夫。
周囲に被害は出ないし、目撃者もいない。
「俺の真の実力――その一端を見せてやろう」
俺はリオンを見据え、静かに宣言したのだった。
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