「こ、ここですぅ。西の草原に出る抜け穴がありますぅ」
「なるほど……。さすがはリン先輩です」
「…………(そろりそろり)」
わたし、ノノンさん、ロロちゃんの3人は、街の外壁までやって来ました。
本当は、普通に門を通っていきたいのですが。
子どもだけで出ようとすると、止められてしまうのです。
それでもどうにかして外に出て狩りの練習をしたいと考えたわたしたちが見つけたのが、この抜け穴です。
トミーさんやヒナさんに付いてきてもらった方が安全ではありますが、毎日付き合ってもらうわけにもいきませんし。
「だ、だいじょうぶですかぁ? 足場が悪いので気をつけてくださいぃ」
「これぐらいなら問題ありません。――あっ!?」
ノノンさんがバランスを崩しますが――
「…………(ぎゅっ)」
ロロちゃんが支えてくれます。
「ありがとうございます、ロロさん。助かりました」
「…………(にこっ)」
ロロちゃんは力が強くて頼りになります。
それに、細かい作業も得意です。
その反対にすばやく走ったりするのは苦手なようなので、そこはわたしのがんばりどころです。
「こ、ここが抜け穴ですぅ。少し小さいので気をつけてくださいねぇ」
子どもじゃないと通れないぐらいのサイズです。
まずはわたしが抜けます。
次にノノンさんが挑戦しますが――
「――あっ! お、お尻が引っかかっちゃいました!」
彼女のお尻が穴につっかえてしまったようです。
うっかりしていました。
わたしやロロちゃんなら問題ないサイズでも、年上のノノンさんならこうなってしまう可能性はあったのに。
うう……。
これは、わたしの判断ミスです。
こんな失敗をしているようじゃ、ご主人さまのお役に立てません。
壁の外側には、わたし、そしてノノンさんの上半身。
壁の内側には、ロロちゃん、そしてノノンさんの下半身があります。
ここはわたしたちで何とかしないといけません。
「だ、大丈夫ですかぁ? 今、引っ張りあげまぁ……」
「…………(むんっ)」
「んひぃっ!?」
突然、ノノンさんが変な声をあげます。
「ロ、ロロ先輩? い、一体何を……?」
「…………(ぐいっ)」
「あ、あの……、ちょ、ちょっと待っ……。あふぅっ!」
「…………(ぐっ)」
「ひっ……、ひゃめっ……。はふぅっ……。ふわっ……、ふわっ……。ひゃんっ!」
「…………(ずぷっ)」
「ひゃっ……、ひゃめてくだしゃ……、ひょれ以上はぁ……」
何が起きているのでしょうか?
ノノンさんの表情が目まぐるしく変わっています。
わたしの目からは、視界一杯の大きな壁、そして小さな抜け穴につっかえたノノンの上半身しか見えていません。
「…………(すぽっ)」
「ちょ!? ど、どうして靴を脱がせるのですか?」
「…………(こちょこちょ)」
「あっ!? そ、そこだめですぅ……、く、くすぐらな……、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ」
「…………(ぐりぐり)」
「ひあっ!? あっ……、あっ……、あっ……、あっ」
「…………(くにっくにっ)」
「はひぃぃぃぃ!!」
抜け穴にハマったまま、ノノンさんが大きく体を動かします。
何が起きているのかサッパリわかりません。
ですが、これはチャンスです。
ガッチリとハマっていたノノンさんの体と抜け穴の間に、少しだけスキマができました。
「こ、こっちからも引っ張りますぅ!」
「…………(ぐっ!)」
「んあああぁああ!!」
わたしとロロちゃんが力を合わせてノノンさんを引っ張ると、ずるりと抜けてきました。
ノノンさんも大きな声を出して気合いを入れてくれていましたね。
3人の力を合わせた結果です。
「はぁ、はぁ……。ひ、ひどい目に遭いました……。ひょっとして、これが新人イジメっていうやつなのでしょうか?」
「へ?」
「リン先輩、ロロ先輩、私に至らないことがあるなら改善します。だから、何卒お怒りを鎮めてくださいませ」
ノノンさんは何の話をしているのでしょう?
これはただの不慮の事故だったのですが。
「わ、わたしは怒ってなんかいませんよぉ。ノノンさんとは仲良くしたいと思っていますぅ」
「そうなのですか? ではなぜ、ロロ先輩はあんなことを……?」
「あんなことですかぁ?」
「はい。私のお尻に指を入れたり、足の裏をこしょこしょくすぐったり……」
ノノンさんがとんでもないことを言います。
ですが、さすがに勘違いでしょう。
ロロちゃんがそんなことをするはずが――
「…………(こくっ)」
「ロロちゃん!?」
わたしは驚きの声を上げてしまいました。
まさか壁の向こうでそんなことがされていたなんて。
「…………えっとね……」
ロロちゃんが小さな声で説明してくれました。
ノノンさんが目の前で穴にハマって、焦ってしまったそうです。
それで咄嵯に、お尻を押そうとして変なところに指が入ったり、足を押そうとして足裏をくすぐるような形になったりしたと。
「な、なるほど。そういうことだったんですねぇ」
「た、助けようとしてくれたのですね。わかりました。ありがとうございます」
わたしとノノンさんは納得しました。
ちょっとしたハプニングはありましたが、狩りに支障はなさそうです。
「ノノンさん、靴を履きましょうかぁ。……あれ、パンツが少し濡れているようですけどぉ……」
「えっ!? こ、これは……」
ノノンさんの顔が赤く染まります。
「そ、そういうことでしたかぁ。仕方ないことですよぉ」
「ち、違うんです! これは、別に感じたりしてなんか――」
「くすぐられて暴れたときに、オシッコが出ちゃったんですよねぇ? わたしもようやくオネショをしなくなったばかりなので、気持ちはわかりますよぉ」
「――あ、はい。そうですね」
ノノンさんは何かを言いたげにしていましたが、途中でうなずいて口を閉じました。
きっと恥ずかしかったのでしょう。
わたしだって、オネショをしたときはすごく恥ずかしいです。
ご主人様に見られたときなんか、恥ずかしくて泣いてしまったこともありました。
「ロロちゃん、替えのパンツを出してあげましょう」
「え? どうしてただの狩りで替えのパンツなんかを用意して――って、もしかしてそれはアイテムバッグですか!?」
「…………(こくり)」
驚くノノンさんに、ロロちゃんが自慢げに頷きます。
ハイブリッジ男爵家のみんなには、とてもいい服やアイテムが支給されています。
それはわたしやロロちゃんみたいな子どもでも同じです。
高性能すぎるものだと悪い人に狙われるかもしれないらしくて、ミティさまやサリエさまがお持ちのアイテムバッグよりは性能が低いものですが、それでも十分すごい品です。
「わー! すごーい! ロロ先輩はアイテムボックスを持っているのですね!」
「えへへぇ。ロロちゃんはすごいんですよぉ」
「…………(どや)」
ロロちゃんが自慢げに胸を張ります。
そして、ノノンさんの着替えも無事に終え、わたしたちは西の草原に向けて歩き始めたのでした。
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今回は、725話「女盗賊キサラへのくすぐり尋問」以来のくすぐり回でした。
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