ハイブリッジ家のトーナメントが行われている。
「さあ、いよいよ一回戦最後の試合です! ハイブリッジ家の主任警備員であるクリスティ選手対、Cランク冒険者のユキ選手です!」
司会のネリーがそう叫ぶ。
「はっ。やっとあたいの出番かよ。待ちくたびれたぜ」
クリスティがそんなことを言いながらステージに上がっていく。
それに対して、対戦相手のユキが口を開く。
「……ボクも戦いたくてうずうずしてた。気合は十分……」
いや、あまり気合が入っているようには見えないが。
ユキは無表情だから、本心が分かりづらい。
「それでは、試合開始!!」
「はっ。先手必勝だぜ!」
いきなり飛び掛かったクリスティ。
軽快な動きである。
彼女の得意戦法は武闘だ。
アイリスによって日々鍛えられている。
「……」
それを冷静に見つめるユキ。
「おらおらぁ!!」
連続攻撃を仕掛けていくクリスティ。
それに対しユキは全く動かず、その場に立ち尽くしている。
腕によってガードはしているが、闘気を込めたクリスティの攻撃は強力だ。
ダメージなしとはいかないだろう。
「おおっと! クリスティ選手の怒涛のラッシュだあぁ!! ユキ選手、防戦一方です!」
「はっ、こりゃあ余裕だぜ!」
クリスティは更にギアを上げてきた。
「そろそろ決める!!」
彼女が強烈な一撃で勝負を決めにいく。
「これでどうだあああっ!!!」
ドゴォッンッッッッッッ!!!
拳を突き出しながら飛び込んできたクリスティの顔面に、カウンターで放たれたユキの正拳突きが炸裂した。
「……グハッ!」
そのまま仰向けに倒れる。
「クリスティ選手ダウン! カウントを取ります! 1……2……3……」
ネリーがカウントしていく。
だが、彼女が10カウントを終える前に、クリスティは立ち上がった。
「……ちっ! 油断しただけだ。まだまだやれるぜ!」
「……ずいぶんと頑丈なんだね。残念……」
ユキがそうつぶやく。
「それにしても、防戦一方に見えたのは演技かよ。完全に騙されたぜ」
「……うん。あれはわざとだよ。油断したバカを一撃で倒すためのね……」
「ああん!? バカだと!? 言ってくれるじゃねーか!!」
「……事実を述べたまで。バカはバカでも、タフなバカだったね。なかなか骨が折れそう……」
「はっ。だまし討ちするような卑怯者に負けるかよ!」
「……別に卑怯じゃない。勝負は勝った方が勝ち……」
ユキはなかなか達観した考えを持っているな。
現実主義的だ。
そういう考え方は嫌いじゃない。
「はっ。勝ちに拘る姿勢は認めてやるよ。最後に勝つのはあたいだけどな!!」
「……ボクも簡単に負けるつもりはない……!」
2人が互いに駆け寄る。
再び激しい攻防が始まった。
「オラァ!」
「……甘い……」
「はああぁっ!!」
「……せいっ……!!」
お互いが一進一退の攻防を繰り広げている。
「これは凄いぞぉ!! 両者とも一歩も引かない、壮絶な打ち合いです!!」
実況のネリーがそう叫ぶ。
「解説のお二方、この試合はどうなるでしょうか!?」
「そうですね。両者とも、武闘による戦いを得意としています。地力の差が勝敗を分けるでしょう」
「ふふん。あとは、奥の手をいつ使うかね。こうなった以上、二回戦のために温存している余裕はないはずよ。クリスティちゃんのあの技が……」
「それを言ったら、ユキさんのあの魔法にも注目ですよ」
「なるほど!! 解説ありがとうございました! さあ、そうこう言っている間に、ユキ選手が何か仕掛けようとしています!!」
ネリーの言う通り、ユキの魔力が高まっている。
「……凍って。アイスレイン……!!」
ユキが魔法を発動すると、ステージ上に氷の雨が降り注いだ。
何かと思えば、中級の水魔法か。
ミリオンズの面々の魔法と比べると、さほどのものではない。
いやまあ、一般的には中級の魔法でも十分に強力なのだが。
「はっ。氷の粒なんざ、簡単に避けられるぜ!!」
そう言いながら、飛んでくる氷を避けていくクリスティ。
そのまま、ユキに殴りかかった。
バキィッ!!
「手応えあり!! って、あれ?」
クリスティが殴りつけたユキの体は、ボロボロになって崩れ落ちた。
威力が高すぎて肉体を破壊した?
いや違う、あれは……。
「……ボクを捉えたと思った? それはフェイク……」
いつの間にかクリスティの背後に回っていたユキが、そうつぶやく。
「ちっ! 雪でできたデコイかよ!!」
「……これで終わり。ばいばい……」
ユキの闘気を込めたパンチがクリスティを襲う。
これは決まったか。
俺はそう思ったが……。
ヒュン!!
超速でクリスティが攻撃を回避した。
「おらあ!!」
そのままユキに攻撃を繰り出す。
「うぐっ!!」
ユキは攻撃をモロに食らった。
ステージ外に倒れ、起き上がってこない。
実況のネリーがカウントを行っていく。
「……10カウント! 勝者、クリスティ選手!!」
ネリーがそう宣言する。
「はあっ、はあっ……! な、何とか勝てたぜ」
クリスティが息を切らせ、額から汗を流していた。
少しして、ユキがフラフラと立ち上がった。
「……してやられたよ。その技はいったい……?」
「はっ。秘密だ! ……と言いてえところだが、ここまで戦った縁で教えてやるよ。これは『赤猫族獣化』だぜ」
「……獣化術の一種か。厄介な技だね。次に戦うときまでに対策しておこう……」
「望むところだぜ! 次もあたいが勝つ!!」
クリスティがそう意気込む。
さて。
これで、一回戦は全て終了した。
勝ち残っているのは、ミティ、ニム、キリヤ、蓮華、ヴィルナ、ハナ、ナオン、クリスティだ。
二回戦にも期待させてもらおう。
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