俺たちハイブリッジ家を乗せた馬車が王都に到着した。
門を潜ると、活気のある街並みが広がっていた。
「やはり王都ともなれば凄いな……。それにしても……」
俺は周囲を見渡す。
すれ違う人々からチラリと見られることはあるが、話し掛けられることはない。
「そりゃそうだ。私たちが貴族であることは馬車から察せられる。わざわざ絡んでくる命知らずはいない」
「……なるほど」
俺の呟きに、シュタインが答えてくれた。
「だが、何事にも例外はある」
「え?」
「……ほら、来たぜ」
シュタインが顎で指した方向を見ると、数人の騎士たちがこちらに向かって来ているのが見えた。
「……お迎えか?」
「いいや。あれは、王都騎士団の人間だろうな」
「王都騎士団……」
俺の配下であるナオンは元王都騎士団の小隊長だ。
なかなかに強い彼女が小隊長止まりだという点で、騎士団の平均レベルは相当なものだと思われる。
「あの鎧の色を見る限り、中隊長のようだ」
「へぇ。中隊長か」
騎士団の大まかな序列として、上から順番に団長・副団長・大隊長・中隊長・小隊長といった感じらしい。
ちなみにベアトリクスに今のポジションは中隊長で、いずれは団長や副団長になるだろうとのことだった。
「……」
「おいおい。まさか、戦う気じゃないだろうな」
「いや、別に戦わないけど」
「なら、黙って見てろ。貴族の私たちとはいえ、王都騎士団と敵対なんかしていられないぞ」
「はいよ」
シュタインの言葉通り、俺は大人しく待つ。
近づいてきた騎士たちは俺たちの前で立ち止まった。
「失礼。ソーマ騎士爵とお見受けしますが」
「ああ、その通りだ」
シュタインが答える。
「私の名前はレティシア。王都騎士団の中隊を任されております」
騎士の1人が言う。
シュタインが言っていた通り、中隊長のようだった。
20代くらいの女性なのに中隊長とは、かなりのやり手だな。
「それで、何かようかな?」
「はい。”聖騎士”の二つ名を持つソーマ騎士爵にお願いしたいことがありまして……」
「ほう。どんなことだ?」
「実は、私たちに稽古を付けていただきたいのです」
「稽古? それはまたどうして……」
「私たちは王都でも上位に位置する実力者だと自負しています。しかし、実戦経験は乏しく、有事の際にも対応できないかもしれません」
「ふむ」
「そこで、サザリアナ王国でも有数の実力を誇るソーマ騎士爵に指導していただければと思いまして」
「なるほどね……」
シュタインが思案するように腕を組む。
「どうでしょうか。お引き受けいただけないでしょうか」
「同じ国に忠誠を誓った仲間だ。もちろん構わないさ」
「ありがとうございます!」
こうして、聖騎士ソーマは中隊長レティシアに稽古をつけてあげることになった。
せっかくなので俺も付いていく。
ハイブリッジ家を乗せた馬車は、とりあえず宿屋を探しに街の中央部に向かった。
徒歩で俺に同行するのは、蓮華、キリヤ、レイン、その他数名だ。
俺たちはレティシアとシュタインの後ろを歩く。
そして、騎士団の訓練場らしき広場に到着した。
「では、これより特別演習を行う」
「「「はい!!」」」
演習場に整列した王都騎士団の面々が返事をする。
「まずは、各自の実力を見せてもらう。レティシア中隊長、お前からだ」
「かしこまりました」
レティシアが剣を抜き、構える。
「いきますよ」
そう言った瞬間、彼女の姿がブレたように見えた。
そして、次の瞬間にはもうシュタインの目の前まで迫ってきている。
「ほう!」
シュタインが感心したように声を上げた。
「ハッ!!」
レティシアが上段から斬りかかる。
「甘いっ」
それをシュタインが弾き返す。
「くぅ!?」
「ふむ。なかなかやるじゃないか」
「まだまだです!! はぁああああああっ!!!」
再び、斬撃を繰り出す。
今度は突き技だった。
「うおっ! とと……」
シュタインはなんとか避けるが、剣は頬を掠めた。
「ちぃ……!」
「惜しかったな」
「まだですッ!!!」
「はは。元気な奴だな……」
その後も、激しい攻防が続いた。
お互い一歩も引かない。
「へえ……。あのレティシアとかいう子、なかなかやるなぁ……」
俺は思わずそう呟く。
シュタインの実力は確かだ。
何せ、俺と同じく武功を評価されて貴族になった男だからな。
そんな彼と互角に渡り合っているのだ。
相当な手練れである。
そして、結構な美人だ。
思わず見惚れてしまいそうになる。
俺が彼らの戦いを注視しているときだった。
「あのぉ……」
「ん? 俺か?」
「はい……」
声を掛けてきたのは、騎士の1人。
レティシアの部下らしき少女だ。
「なんだ?」
「あの、ソーマ騎士爵様の部下の方ですか?」
「ああ、まあそんなものかな」
本当はシュタインと同格の騎士爵なのだが、この場では適当に言っておこう。
俺の方が後輩だし、部下と言われて完全に間違っているわけではない。
「ア、アタシは見習い騎士のナオミと言います」
「ナオミちゃんね。よろしく」
「はい。それで、あの……。よろしければ、アタシにも稽古を付けていただけないでしょうか?」
「へえ」
なんとも意外な申し出だなと思った。
「どうして、俺に?」
「その、アタシも強くなりたいのですが……。さすがにソーマ騎士爵様に教えてほしいとは言いづらくって……」
「ははは。なるほどねぇ。シュタインより格下の俺なら、頼みやすいと」
ちょっと失礼なことを言われている気もするが、この程度で傷つけれるほど俺のプライドは高潔ではない。
「ダメ……でしょうか」
「いいや、全然構わないよ」
俺は快諾する。
「ありがとうございます!」
「じゃあ、早速始めるか」
「はいっ!」
こうして、俺は見習い騎士のナオミに稽古をつけてあげることになったのだった。
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