【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう

~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
猪木洋平@【コミカライズ連載中】

939話 冥府でもご一緒させてくださいませ

公開日時: 2023年2月21日(火) 12:36
文字数:2,151

 ――『勇者候補』タカシvs『聖女』リッカ。

 その戦いは、リッカの勝利に終わった。

 意識を失ったタカシに、アイリスとミティが駆け寄る。


「タカシ! ああ、なんてことに……」


「タカシ様ぁ!!!」


 2人はボロボロになった彼の姿を見て涙を流していた。


「……これで終わったです。思っていたよりも強くて、手こずったですがね」


 そんな2人とは対照的に、リッカは涼しい顔で佇んでいる。

 彼女にしてみれば、やるべきことをやったとしか考えていないのだろう。


「――【リカバリー】!」


 アイリスが上級治癒魔法を唱える。

 緑色の光がタカシを包み込む。

 しかし――タカシが起き上がることはなかった。


「そんな……どうして……!」


 アイリスが泣き崩れる。

 そんな彼女に、リッカが声をかける。


「無駄です。僕様ちゃんのとっておきの魔道具ですから。いくらアイリス=シルヴェスタの治療魔法が上達していようとも、タカシ=ハイブリッジが意識を取り戻すことはないです」


「……っ!」


 アイリスはキッとリッカを睨みつける。

 その瞳からは涙が溢れていた。


「どうして!! なんでこんなことをしたの!?」


「……」


 リッカは何も答えない。

 ただ静かに、そこに立っているだけだ。


「はああああぁっ!!」


 今度はミティがリッカに向けて剛腕を振るう。

 闘気と魔力を纏った一撃だ。

 しかしリッカはそれを難なく受け止める。


「くっ……!」


「無駄なことはやめるです。僕様ちゃんたちに、争う理由はないはずです」


「どの口が……! タカシ様の仇です!! 絶対に、絶対に許しません!!!」


 激昂するミティだったが、彼女の攻撃は全ていなされるか受け流されていた。

 素手の攻撃が通じないと判断したミティは、アイテムバッグから『大戦槌ウリエル』を取り出す。

 それを見たリッカが顔をしかめた。


「それはやめておくです」


 リッカの言葉を無視して、ミティは『大戦槌ウリエル』を振り下ろす。

 凄まじい威力の一撃だったが、それもリッカには通用しなかった。


「……やれやれですね。無闇な自然破壊は控えるべきです」


 リッカは小さくため息を吐く。

 ハンマーを受け止めた彼女の周囲には大きなクレーターが出来上がっていた。

 まるで隕石でも落ちたかのような光景である。

 しかし、当のリッカは全くの無傷だった。


「嘘……」


 ミティの顔が絶望に染まる。

 彼女は力なくその場に崩れ落ちた。


「まったく、手間をかけさせるですね。君には用がないと言っているのに、いちいち突っかかってくるなです」


 リッカはそう言うと、ミティから興味を失ったかのように視線を外した。


「申し訳ありません……。タカシ様……。仇は討てそうにありません……」


 ミティは完全に戦意を喪失している。

 涙ながらに謝罪の言葉を口にしていた。

 そして、アイテムバッグからナイフを取り出し、自分の首筋に当てる。


「せめて……。つまらぬ身ですが、冥府でもご一緒させてくださいませ……」


 彼女がそう言って自らの喉を掻き切ろうとした瞬間――


「待って! ミティ!」


 アイリスが叫んだ。

 彼女はミティのナイフを取り上げると、それを遠くに放り投げる。


「何をするんですか!? 私にはもう生きる意味がありません!!」


「ダメ! 残されたみんなはどうなるの! ミティにはミカちゃんだっているでしょ!!」


 アイリスが必死になって呼びかける。

 そんな2人の様子を見て、リッカが口を開いた。


「はぁ……。何をやってるですか? この程度のことで何を大騒ぎしているのやら……」


 呆れたように呟くリッカ。

 その言葉に強く反応したのは、やはりミティの方であった。


「『この程度』!? ふざけないでください!! あなたがタカシ様を殺したんですよ!?」


 ミティは涙をこぼしながら叫ぶ。

 そんなミティを見て、リッカは大きくため息をついた。


「だから、何の話です? 僕様ちゃんはタカシ=ハイブリッジを殺したりしていないです」


「「……え?」」


 ミティとアイリスが呆然とした表情を浮かべる。

 リッカの言葉が信じられないようだ。

 そんな彼女たちをよそに、リッカはさらに言葉を続ける。


「僕様ちゃんとタカシ=ハイブリッジの話を聞いていなかったです? 彼は『勇者候補』です。枢機卿のお気に入りを勝手に処分するなど、いくら聖女の僕様ちゃんと言えども簡単にはできないですよ」


「でも……帰るか死ぬかの二択だとか言っていたじゃん……」


「その二択は、強い言葉で脅しただけです」


「トドメにはタカシ様の胸にナイフを突き立てて……」


「このナイフは魔道具ですよ。対象者の意識を奪う強力な効果があるです。そんじょそこらの上級治療魔法であっても、すぐに意識を取り戻させることはできないです。ちなみに刃に見える箇所は魔力で形成されていて、殺傷能力はないです」


「……」


「……」


 唖然とした表情のまま固まる2人。

 彼女たちを尻目に、リッカは再び口を開く。


「全ては、タカシ=ハイブリッジをラーグへと引き換えさせるためです。君たちにはヤマト連邦で果たすべき使命があるですから。殺すはずがないです」


 その言葉を聞いたミティは、ゆっくりと立ち上がった。

 そのままふらふらとした足取りで、倒れているタカシの元へと向かう。

 意識は失っているが、よく見れば呼吸しているし心臓も動いている。


「よかった……。よかったです……」


「うう……タカシ……」


 彼女たちは小さくそう呟いた後、大粒の涙を流したのだった。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート