「なるほど……。高橋様は、桜花城に用があるのですか……」
「ああ。俺の記憶の手がかりがそこにある……かもしれない」
俺はイノリに答える。
今は俺、イノリ、カゲロウの3人で話し合っていた。
他の面々は俺の『エリアヒール』によって回復しており、日常に戻っているはずである。
「桜花城には、強力な結界が張られています。外部の者はそう簡単には侵入できません」
イノリが真剣な表情で言う。
俺は首を傾げた。
「結界か……。俺の剣で斬れないかな?」
「き、斬る? そんなことは不可能……いえ、高橋様ならもしかして……」
イノリがブツブツとつぶやく。
記憶があやふやなのだが、俺はなかなかの強者だったらしい。
イノリやカゲロウの様子からも、それは推測できる。
「ところで、イノリに一つ言いたいことがある」
「は、はい……?」
イノリが緊張した面持ちでこちらを見る。
俺はそんな彼女を真正面から見据えた。
「『高橋様』って、他人行儀じゃないか? どうせなら、『旦那様』とか呼んでみないか?」
「な……っ!? そ、そんな不埒なこと……」
イノリが頬を赤らめる。
そんな初心な反応に、俺は思わず興奮してしまった。
イノリの肩に手を置くと、顔をグッと近づける。
「いいじゃないか。俺は君を愛している。何も問題はないはずだ」
「も、問題だらけです! 私たち、出会ってまだ一日も経っていないのですよ? そんな人をいきなり『旦那様』だなんて……」
「時間など関係ないさ。俺たちの愛の前ではな」
俺はイノリに言う。
彼女にも、カゲロウと同じく加護(微)を付与できている。
決して嫌われているということはないだろう。
「で、ですが……」
イノリがモジモジとしながら言う。
そんな彼女に、俺はさらに顔を近づけた。
そして、耳元で囁くように告げる。
「イノリが懇願するから、処女だけは奪わずに済ませたんだぜ? 愛する君のため、将来を考えて行動したんだ」
「う……うぅ……」
イノリが顔を真っ赤にする。
俺はそんな彼女の頭を撫でた。
「だから、な? 『旦那様』と呼んでくれ。それだけでいいんだ」
「で、でも……。私は巫女として、地下遺跡を守護していく義務があります。結婚など……その、まだ早いというか……」
イノリが俯いたまま言う。
その話を出されると弱いな……。
余所者の俺には、イノリが背負っているものの重さが分からない。
「なら、せめて『高志』と名前で呼ぶぐらいはしてほしい」
「は、はい……」
イノリは恥ずかしそうに頷くと、俺に身を寄せる。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「高志……様」
「いい子だ」
俺は思わず彼女を抱きしめる。
イノリは抵抗せず、むしろこちらに腕を回してきた。
俺はそんな彼女の唇にキスを――
「ええい! 何をしておるか!!」
しようとしたところで、カゲロウが間に割って入ってきた。
「むっ……邪魔をしないでくれ」
「黙っていられるものか! 高志殿の今後の話をしていたのに……。いい加減にしてくれ! そもそも、私というものがありながらイノリ殿にまで手を出すなんて……!」
カゲロウが涙目で叫ぶ。
彼女は床に両手をつくと、がっくりとうなだれた。
俺はそんな彼女に優しく声をかける。
「すまないな。だが、俺はカゲロウのことも愛しているぞ」
「高志殿……」
カゲロウが顔を上げる。
そんな俺たちを見て、今度はイノリがため息をつくのだった。
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