「いずれにせよ、無月が協力してくれて助かるよ。とても嬉しい」
「ふん……。配下にわざわざ礼を言うとは、もの好きな主だな」
無月がぶっきらぼうに言う。
だが、おそらくは照れ隠しだろう。
この数日、ずっとこんな感じで接してきた。
忠義度は微増を続けており、加護(微)は付与できている。
桜花城攻めまでに加護(小)を付与できるかは微妙なところだが、基本的にはこういった接し方で間違いはないはずだ。
「金剛と雷轟の様子はどうだ?」
「当面は問題ない。俺の奥義……『虚影転写の術』が効いているからな」
「それは良かった」
無月の奥義、虚影転写の術。
偽の記憶を植え付けるこの術により、金剛や雷轟は『謎の道場破りに敗北した』ことになっている。
これでしばらくは安全だろう。
「しかし、主よ」
「なんだ?」
無月が鋭い視線で俺を射抜いてくる。
「貴様、本当に桜花城を攻め落とすつもりなのか?」
「……ああ」
俺は頷く。
無月は『正気か?』とでも言いたげだ。
「それが俺の目的に合致するのでな」
「……詳しくは聞かん。俺を含めた3人の桜花七侍を単独で倒した貴様なら、きっと成し遂げるのだろうからな」
無月はそれ以上追及してこない。
彼女なりに俺の実力を評価しているのだろう。
「だが、桜花城を攻め落とした後のことは考えているのか? 個として強いだけでは、乱世を生き抜くことはできんぞ」
「それは……。まぁ、そのときはそのときだ」
俺は無月の指摘に、言葉を濁す。
藩主になれば、まずは税を軽くしてあげたいな。
だが、財政のバランスの問題もある。
その他、周囲の藩、将軍派、女王派などとの力関係も知らないし……。
具体的には、どうなっていくか分からない。
「不必要な混乱を避けるために、金剛や雷轟を生かしておいたんだ。俺が藩主になっても、引き続き桜花七侍には働いてもらうさ」
「そうか。それは重畳だな。俺もまた、表舞台に戻れるというわけだ」
無月はにやりと笑う。
碓かに、それもいいだろう。
彼女が仲間に始末されそうになったのは、隠密部隊のルールによるものだ。
俺がトップに立てば、そのあたりはどうとでもなる。
しかし……
「ふっ。別に、働き続ける必要もないんだぞ?」
「何? 俺を閑職に追いやるつもりか?」
無月が鋭い目で睨みつけてくる。
おっと、言葉足らずだったな。
誤解されてしまったようだ。
俺は言葉を続ける。
「女としての幸せを掴むのも悪くないってことさ」
「なっ……!?」
俺の言葉に、無月は頬を赤らめる。
彼女の意外な反応に、俺は虚を突かれた。
てっきり、『女扱いするな』と激怒するかと思ったのに。
「無月は美人なんだし、俺としては大歓迎だ。元気な子どもを産んでくれ。共に幸せに暮らしていこう」
「な、な、何を言うかと思えば……。俺はそのような軟弱なことに興味はない!」
無月は赤面して叫ぶ。
うーむ……。
無月は美人でスタイルもいいし、その気になればかなりモテると思うんだけどな。
彼女はそういうものを望んでいないのだろうか。
若くして桜花七侍に任じられたぐらいだし、これまでは仕事一筋だったのかもしれないな。
もう少し押してみよう。
「なぁ、そう言わずにさ……」
「ゴホン! お、俺は……少し休憩させてもらう!!」
無月は叫ぶ。
彼女はそのまま速足でその場を立ち去っていった。
そんな彼女を見送りながら、俺は呟く。
「なかなか可愛いところもあるな。……ん?」
俺の侍装束の袖が、くいっと引っ張られた。
俺はそちらへと視線を向ける。
そこにいたのは……
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