西の森の奥地で、盗掘団の捕縛作戦を行っている。
メインの拠点でブギー頭領とジョー副頭領を撃破した。
今は第ニの拠点で、幹部クラスの男女や下っ端戦闘員たちと対峙しているところだ。
幹部クラスの男女は、強者の風格がある。
男はパルムス。
女はナディアだ。
それに、男が使役しているらしき大型の犬が1匹。
名をリッキーという。
さらに、下っ端戦闘員たちも数は多いので無視はできない。
「よし。俺は、あのナディアという女を相手取る!」
「わかった。あのパルムスという男と犬は、ボクとミティで戦うよ」
「がんばりましょう。むんっ!」
俺、アイリス、ミティがそう言う。
「ガハハ! では、我はそこらの下っ端どもを蹴散らそう!」
「俺もそうするよ。タカシ君たちは、あの2人に集中してくれ。なかなかの強者だと思う」
ギルバートとマクセルがそう言う。
「わかった。各自、健闘を祈る!」
俺の言葉を皮切りに、俺たちは少し距離を取る。
相手に囲まれないように、背中を預けて戦うのもありだったが。
俺たちの技には、高威力のものもある。
近くで戦って同士討ちをするのは避けたいという判断だ。
俺はナディアと対峙する。
「さて。お前の相手は俺だ。確か、ナディアと呼ばれていたか」
「ええ。まあ仮の名前だけどね。本当の名前は忘れてしまったから」
ナディアがそう言う。
記憶喪失か。
訳アリのようだな。
年齢は40代くらいか。
兎耳が生えている。
モニカやストラスと同じく、兎獣人だろう。
仮面で顔を覆っているので、全体の顔立ちはわからない。
「女だろうと、犯罪者相手に容赦はせんぞ」
「ブギー頭領は、私たちの命の恩人。彼の夢を邪魔するのなら、私も全力で相手になるよ」
俺とナディアの戦闘が始まる。
「まずはくらえ! ……エアバースト!」
風魔法レベル1のエアバーストだ。
空気の塊を発射する。
殺傷能力は低いので、対人戦でも気軽に使いやすい魔法だ。
さらに、目に見えない攻撃をどう対処するかという点で、相手の実力を測ることもできる。
「ふんっ。甘いよ!」
ナディアが軽い身のこなしで回避する。
やはり兎獣人だけあって、脚力に優れているようだ。
そのままナディアが俺に接近してくる。
「はああ……! 旋風脚!」
ナディアの強烈な回し蹴りだ。
俺は何とか受け止める。
「くっ。なかなかやるな」
「君もね。私の足技を受け止めるなんてね。でも、私は足技だけじゃないよ」
ナディアがそう言う。
何かする気か……?
彼女の足は俺が抑えている。
何かしてくるとすれば、手か。
俺は、彼女の手に注意を払う。
すうっ。
ナディアが大きく息を吸う。
「曲技、火吹男!」
ナディアが口から火を吹いてきた。
「うっ。男じゃなくて女じゃ……」
いや、こんなツッコミをしている場合じゃない。
冷静に見れば、大したことのない火力だ。
しかし俺はナディアの思わぬ攻撃に、ひるんでしまった。
「せいっ!」
「ぐはっ!」
俺のスキを突いて、ナディアが蹴りを叩き込んでくる。
火にひるみ、やや防御がおろそかになっているところを狙われた。
体勢を立て直す必要がある。
「まだまだ行くよ! 曲技、湯けむり殺人事件!」
ナディアが足をバタつかせ、砂埃を発生させる。
脚力の活かし方には、こんなものもあるのか。
いや、感心している場合じゃない。
「何が湯けむりだ。砂埃じゃないか……」
砂埃でナディアの姿を見失ってしまった。
どこだ……?
「はあっ!」
「くっ!」
俺はナディアの蹴りを間一髪回避する。
俺は視力強化レベル1と気配察知レベル2を取得しているからな。
多少の砂埃で条件が悪くなろうとも、相手の攻撃を察知することは可能だ。
「へえ。なかなかやるねえ」
「そりゃどうも。ギルド貢献値5500万ガルは伊達じゃないんだ」
俺はそう言う。
これで戦意を失ってくれたりはしないかな。
「なるほど。長期戦は不利かもしれない。私の奥の手で倒してあげよう」
ナディアがそう言って、闘気を開放する。
彼女が近くの木に向かっていく。
「行くよ! 曲技、木にノボロー!」
ナディア足だけで木を軽快に登っていく。
そのまま頂上に達する。
「曲技! 打ち上げ花火!」
木の頂上で、ナディアが大きくジャンプした。
「はああ……。旋風カカト落とし!」
ナディアのカカト落としだ。
なるほど。
落下の勢いを利用して、技の威力を上げようという狙いか。
だが。
「空中では身動きが取れんだろう!? ……凍てつけ! アイスボール!」
正面から勝負に付き合ってやる理由もない。
魔法で狙い撃ちだ。
とはいえ、火魔法は殺傷能力が高すぎる。
ここは、新しく覚えた水魔法レベル2のアイスボールで攻撃だ。
「身動きが取れない? そうでもないよ。青空歩行!」
ナディアが空中でもう1度ジャンプした。
「なにっ! バ、バカな!」
ナディアの思わぬ挙動に、俺は動揺する。
空中でジャンプだと。
モニカ以外にもできる者がいたとは。
ナディアはアイスボールをかわし、再び俺へカカト落としを繰り出してくる。
「ぐっ!」
俺はそれを間一髪ガードする。
少しダメージを負ったが、何とか耐えきることができた。
「本当にやるねえ。……おっと」
俺のアイスボールが、ナディアの顔をかすめていたようだ。
彼女の仮面の留め具が壊れ、仮面が落ちる。
彼女の顔立ちがあらわになる。
「えっ。そ、その顔は……?」
ある人物に似ている顔立ちだ。
俺は動揺し、思考がしばらく停止する。
そうこうしている間に。
「そこまでだよ! 加勢にきたよ! ナディアさん、パルムスさん!」
乱入者だ。
乱入者がそう言う。
俺はその言葉に思考を取り戻し、みんなの様子を確認する。
ミティ、アイリス、パルムス、リッキーは、まだ交戦中のようだ。
ややミティとアイリスが優勢といったところか。
マクセルとギルバートは、あらかたの下っ端戦闘員を片付け終えている。
あと一握りを蹴散らせば、俺やミティに加勢してくれるだろう。
そして、乱入者だが。
「お前は……。”白銀の剣士”ソフィア! 盗掘団と顔なじみだとはな! 堕ちるところまで堕ちたか!」
俺はそう言う。
「何も知らないくせに好き勝手なことを……。もういい、まずは無力化させてもらう。みんなが消耗している今なら……」
「ふん……! 消耗しているから何だ。街での模擬試合を忘れたのか? お前程度では、俺に勝つことはできんぞ!」
ラーグの街での模擬試合では、俺はソフィアを軽く撃破した。
彼女は何やら奥の手がありそうではあったが、奥の手があるのはこっちも同じだ。
俺の奥の手……獄炎斬、百本桜、フレアドライブあたりを使えば並大抵のやつは相手にもならない。
俺の勝ちは揺るがないだろう。
だがーー。
「「「「……疲れた者たちに、一時の安らぎを。ララバイ」」」」
ソフィアたち”光の乙女騎士団”の4人がそう言う。
彼女たちが、何やら合同魔法を発動したようだ。
唐突に、強力な眠気が俺を襲ってきた。
「う……。なんだ、これ……?」
眠い。
眠すぎる。
これはいったい……?
「「ZZZ……」」
ミティとギルバートは、あっさりと眠ってしまっている。
マズイぞ。
戦闘能力ではこちらに分があると思って、油断していた。
このような搦め手があったとは。
「どうやら睡眠魔法のようだね……。ここまでの使い手がいるなんて……。ZZZ……」
マクセルは少し抗っていたものの、眠りに落ちた。
ついでに、ナディアやパルムスも眠っている。
どうやら、範囲内をターゲットにした魔法のようだ。
無事なのは、術者である”光の乙女騎士団”の4人だけか。
俺とアイリスも、かろうじてまだ起きてはいるが。
眠い……。
「くっ。タカシ、しっかりして。ボクたちが眠ったら、全滅だよ」
アイリスがそう言う。
彼女にはあまり効いていないのか……?
いや、彼女の口元に血が流れている。
口元を噛んで眠気を抑えているのか……。
「アイリッシュ、俺はもう疲れたよ……。なんだかとっても、眠いんだ……」
「ボクの名前はアイリスだよ……。寝ぼけないで……。タカシ」
マズイぞ。
本格的に眠い。
アイリスも眠そうにしている。
俺もアイリスのように口元を噛んで……。
「次でとどめだよ」
ソフィアがそう言う。
彼女たち4人が、詠唱を始める。
「「「「……疲れた者たちに、一時の安らぎを。ララバイ」」」」
ソフィアたちから、睡眠魔法の追撃がされた。
「ア、アイリス……。ZZZ……」
「タカシ……。ZZZ……」
とうとう、俺とアイリスも眠ってしまった。
そうして、俺たち先遣隊は全滅した。
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