リンドウの街を視察してから数日が経過した。
今日もサクサクと用事を片付けていこう。
「よく来てくれたな。トミー、そしてアランよ」
俺はハイブリッジ邸の第二リビングで二人を出迎えていた。
ここは俺がリーダーを務める大型クラン『ビリオンズ』の活動拠点でもある。
そしてトミーはCランクパーティ『緑の嵐』のリーダーであり、アランはDランクパーティ『紅蓮の刃』のリーダーだ。
「いえ。タカシの旦那から呼ばれて、断る理由はありませんよ」
「俺もです。我が神からお声掛けをいただき、恐悦至極に存じます」
多少の方向性の違いはあるが、二人とも俺を慕ってくれているのが分かる。
その割には加護(微)に留まっているのが残念なところだが……。
原因はなんだろう?
単純に考えれば、二人が男なことか。
俺が今までに加護を付与してきた者を整理してみよう。
通常の加護は、ミティ、アイリス、モニカ、ニム、ユナ、マリア、サリエ、リーゼロッテ、蓮華、レイン、リン、ロロ。
12人全員が女性だな。
幼女のリンとロロを除けば、俺と体の関係もある。
やはり、付与者の俺が男である以上は、相手方は女性である方が忠義度を稼ぎやすいと考えて間違いないだろう。
加護(小)は、トリスタ、ヒナ、セバス、キリヤ、ヴィルナ、バルダイン、ニルス、ハンナ、クリスティ、ベアトリクス、シュタイン、ネスター、シェリー、ナオミ、ノノン、花、雪、イリーナ、レティシア、ラフィーナ、ナオン、キサラ、トパーズだ。
男が7人、女性が16人である。
見ての通り女性に大きく偏っているのだが、全員が女性である通常の加護と比べれば偏りが小さい。
それに、女性が16人とは言っても、現状で俺とそういう関係になく、かつ今後もその予定がない者がいる。
ヒナ、ヴィルナ、ハンナ、シェリーの4人だ。
それぞれトリスタ、キリヤ、ニルス、ネスターというお相手がいる。
通常の加護はともかく、加護(小)までであれば、俺と男女の仲にならずとも十分に付与を狙えると考えていいだろう。
実際、今目の前にいるトミーとアランも、加護(小)まであと一歩なのだ。
ここは頑張って稼いでおきたい。
「そう言ってくれて嬉しいよ。まぁ、座れ」
俺はソファを勧める。
二人が腰かけたタイミングで、レインがお茶を持ってきてくれる。
彼女はすっかり俺の専属メイドとして馴染んでいる。
新たに数人のメイドも雇用したので、今やハイブリッジ男爵家の重鎮メイドであると言っても過言ではない。
「それで、ご用件は何でしょうか? 我が神よ」
「あー……。そうだな。用事と言っても、そんなに大したことじゃないんだが……」
「何か問題でも?」
「いや。実はな……」
俺は今回の用件を切り出す。
リンやロロの狩りの件だ。
危ないので、定期的に彼女たちの狩りに同行してやってほしいという内容である。
トミーについては、以前からたまに同行してくれていたと聞いている。
だが、彼にも生活というものがある。
幼女の狩りに同行するのはボランティアのようなものなので、そう高頻度では付き合いきれないだろう。
そこで、ハイブリッジ男爵家から正式に依頼することにしたのだ。
「なるほど……。あの子どもたちですか。俺は特に話したことがありませんでしたが、我が神がそう仰るのであれば、是非もありません」
「ありがとう。よろしく頼むよ」
まずはアランが快諾してくれた。
彼は、リンやロロと交流がなかったようだ。
ハイブリッジ邸にはたまに出入りしているので、顔ぐらいは知っているようだが。
まぁ、アランの外見はチンピラだからな。
それに、俺と初対面の時に酒を頭にぶっ掛けてくるぐらいにはイキっているような奴だし……。
幼女からすれば、話しかけにくかったのだろう。
「トミー。お前はどうだ?」
「へい。もちろん、受けさせてもらいやすが……」
「何か問題でも?」
「いや。なんつーか、その……。どうして俺に言わずに狩りに出かけてしまったんだろう、と……。これでもチビっ子たちには優しく接してきたつもりなんですがね」
トミーがそう言う。
アランとトミーは、やや雰囲気が似通っている。
というか、近接系の20代・30代の男性冒険者は、大抵が彼らのような雰囲気だ。
よく言えば適度な風格があり、悪く言えば少々威圧的に見える。
しかしそんな中でも、細かい差異はある。
トミーはアランに比べてやや接しやすいタイプだ。
「リンたちは賢く優しい子だからな。毎日のようにトミーに付き合ってもらうのに気が引けたのだろう」
「でも……」
「それに、外壁に抜け穴があったのも大きいだろうな。あれがなければ、迷惑を承知でトミーに声を掛け続けるか、あるいは狩り自体を諦めて敷地内で稽古でもしていたかもしれん」
「……穴、ですかい?」
「ああ。知らなかったのか? 西門から少し離れたところから、外に出られるようになっているぞ」
「……マジっすか!? どうしてそんなことに?」
トミーは驚いていた。
知らなかったらしい。
まぁ、俺も数日前に知ったばかりだが。
「経年劣化だろう。定期メンテナンスを行う業者もいたんだが、どうやらサボっていたようでな……」
「……業者が手を抜いていたわけですか。それで、チビっ子たちが危険に晒されたと……」
「何はともあれ、まずは危険を予防する。俺とニムの土魔法で修繕しておく予定だ。それに、他にちょっとした案もある。これを機に、この街の防衛力は高まると思ってもらっていい」
ミリオンズやハイブリッジ男爵家配下の面々は強力だ。
魔物や盗賊が襲撃してこようとも、何の問題もない。
だが、防衛を特定の者たちの戦闘能力に頼っていると、どうしても安定感に欠ける側面がある。
ヤマト連邦の件などで街を離れている場合もあるし、あるいは街に滞在はしていても夜間で寝てしまっていることもあるからな。
その点、外壁を修繕し補強すれば、恒常的な防衛力の向上が期待できる。
「なるほど、それならば問題なさそうですね。それで業者の方は……」
「住居を訪れたのだが、不在でな。どうやら逃げてしまったようだ。終わってしまったことは仕方ないし、一言文句を言うぐらいで済ませてやるつもりだったのだがな……」
メンテナンス業務をサボった。
これは債務不履行であり、契約違反である。
とはいえ、本来ならいくらかの金を払ってもらうだけで済む話だ。
今回の場合は、業者側にとって不幸なことに、ハイブリッジ男爵家が重用している幼女が抜け穴を通って外に出てしまい、しかも魔物との戦闘で危ない目に遭った。
拡大解釈すれば貴族への不敬罪とも言える。
が、俺はそこまで事を大きくするつもりはない。
悪意があって抜け穴を意図的にあけたのならまだしも、多少メンテナンスをサボった程度で不敬罪を適用するのは大げさだ。
まぁ、リンやロロが死亡していたりすれば、こんなに冷静ではいられなかっただろうが……。
「業者が逃げてしまったのですか。……その業者の後始末、俺がやってもいいですか?」
「できるのか?」
「へい。任せてくださいや。始末は俺がつけます」
「分かった。では、頼もう。リンたちの狩りへ同行する任務と上手く両立させつつ、業者を追跡して探してくれ」
「了解しましたぜ!」
トミーが請け負ってくれたので、一安心だ。
これで、俺は外壁の修繕に注力できる。
土魔法で補強しつつ、もう一つの案を試してみる感じだな。
ニムと強力して進めていこう。
あとは、サリエや花あたりも連れていってみようかな。
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