無事にキメラを倒した。
俺、ユナ、ミティ、アイリス、モニカ、ニム。
冒険者のアルカ、ウィリアム、ニュー。
ジャンベス。
ウォルフ村の戦士たちに、警備兵たち。
さらに、ドレッド、ジーク。
アカツキ総隊長。
ガーネット隊長、オウキ隊長、カザキ隊長、ダイア隊長。
総力戦だった。
「あはは。かわいそうに。怖かったかい? よしよし」
「がうう……」
アルカが、戦闘不能となったキメラにそう声をかける。
キメラはまだ生きている。
俺はとどめを刺そうとしたのだが、アルカに制止されたのだ。
どうやらテイムを試みるようだ。
キメラのテイムに失敗した上で、回復したキメラがまた暴れだしたら厄介だ。
念のため、ガーネットとオウキが側で待機している。
カザキとダイア、それに警備兵たちは、街の現状を把握するためにこの場を離れていった。
「ふん。さて、俺たちはディルム子爵の様子を見に行くか」
「ははっ! お供致します」
「……俺も行くぞ……」
ウィリアム、ニュー、ジャンベスがそう言う。
ディルム子爵のところに向かうようだ。
俺たちもディルム子爵の現状は気になるが、それよりも優先することがある。
「ふふん。さあ、シトニとクトナを探しにいくわよ!」
俺たちミリオンズとウォルフ村の戦士たちは、ユナの言葉に従いその場から離れようとする。
しかし。
「待て! お嬢ちゃんたち」
アカツキ総隊長がそう言って、俺たちを制止する。
そういえば、彼はディルム子爵の配下だった。
キメラという共通の脅威を取り除いた以上、今度は俺たちとまた敵対するわけか。
俺は武器を構える。
「落ち着け、タカシ。俺はお前たちと今さら争う気はない」
「……? ディルム子爵を裏切るということですか?」
「いや……。裏切るわけではない」
俺の問いに、アカツキが首を振る。
「おう。俺たちがサザリアナ王国に掛け合ったところ、ウェンティア王国に苦情を入れてくれたんだよ。遠距離でも会話できる魔道具でな」
「…………然り。どうやらウェンティア王国としても本意ではなかったらしい。近いうちに、ウェンティア王国からこのディルム子爵領へ、調査隊が派遣される予定だ」
「そうですか。うまくいったようですね」
思っていた以上に、サザリアナ王国やウェンティア王国の判断と行動が早い。
それに、何やら俺が知らない便利な魔道具もあるようだ。
遠距離でも会話できる魔道具か。
携帯電話みたいなものか。
「おう。それで、サザリアナ王国の転移魔法士の助けを借りて、ウェンティア王国の王都に直接事情を説明しにいった。ウェンティア王国からのディルム子爵の捕縛令状の写しを預かって、ウォルフ村に戻ってきたんだよ」
「…………そこで、このアカツキ総隊長たちが捕縛されていたのを見たというわけだ」
ドレッドとジークがそう説明する。
転移魔法の使い手は、めずらしいものの一定数はいる。
王国のお抱え転移魔法士にお世話になったようだ。
「ディルム様の捕縛令状が出された以上、領軍の俺たちとしてもそれに協力せざるを得ない。ドレッド殿たちにそれを説明し、ディルム様の捕縛の手伝いをしにこの街に帰ってきたのだ」
「なるほど。そういうことでしたか」
「その連れ去られたという2人がどこにいるのか、確かなことはもちろん俺たちにはわからない。ただ、心当たりはある。おそらくディルム様の屋敷の離れだろう。案内しよう」
アカツキの案内のもと、屋敷の敷地内を進んでいく。
俺、ユナ、ミティ、アイリス、モニカ、ニム。
ドレッド、ジーク、ウォルフ村の戦士たちだ。
キメラが暴れていたこともあり、屋敷の使用人などはほとんどが避難済みのようだ。
本館らしき場所には人がいない。
一方で、離れには人の気配がある。
あそこにシトニとクトナが無事にいればいいのだが。
離れに近づいていく。
中から声が聞こえてくる。
壁越しなので普通の人はまだ聞こえないだろうが、俺は聴覚強化レベル1を取得しているからな。
盗み聞きは得意なのだ。
「なんだか外が騒がしかったですねえ。クトナ」
「……大きな獣が暴れていたみたい。シトニ姉さんは気を抜き過ぎ……」
シトニとクトナの声だ。
どうやら無事のようだ。
一安心だな。
「はあ。ふかふかのベッド。極楽ですね。これでモフモフたちがいれば言うことないのですが。ディカルさんにお願いしてみましょうかね」
「……私はこんな生活は嫌だよ。外に出たい……」
姉のシトニは、物腰が柔らかく一見社交的だが、意外と怠惰だ。
妹のクトナは、無愛想で一見内向きの性格だが、意外と行動派だ。
姉妹でこうも性格がちがうとはな。
盗み聞きをしつつも、離れへと歩みを進めていく。
ユナが部屋のドアに手をかける。
勢いよく開け放つ。
「ふふん。シトニ、クトナ。助けにきたわよ」
「おう。もう安心だぜ」
「…………然り」
ユナ、ドレッド、ジークがそう言う。
「あら。ユナさんではないですか。それにドレッドさんとジークさんも。どうしましたか?」
「……助けにきてくれたに決まってるじゃない。姉さんはボーッと生きすぎ……」
のんきなシトニに、クトナがそう突っ込む。
ボーッと生きてんじゃねーよ!
この様子だと、もしかすると救出は要らなかったのか?
「そうでしたか。それはありがとうございます。ここの生活も悪くなかったですが、そろそろ帰りましょうか」
「……ドレッドさん。助けにきてくれてありがとう……。それにジークさんとユナも」
クトナがそうお礼を言う。
「おう。いいってことよ。大切な仲間を助けるのはあたり前のことだからな」
ドレッドがそう言う。
ドレッドとクトナの間に、なんとなくいい雰囲気が流れる。
フラグが立っているようだ。
なんでだよ。
俺もがんばったのに!
冒険者志望のクトナをミリオンズに勧誘する計画が……。
「ふふん。そんな顔しないの。タカシのがんばりは、私が知っているわ」
ユナが俺の手を握り、そう言う。
にっこりとほほえんでくれている。
かわいい。
「ああ。ありがとう。そう言ってくれると、がんばったかいがあった」
そうだ。
ユナが加護付与の条件を満たしてくれただけでも、成果としては十分じゃないか。
彼女にはぜひ正式にミリオンズに加入してもらいたい。
そして、ゆくゆくは俺のハーレムメンバーに入ってほしい。
それに、クトナの件も諦めるにはまだ早い。
ハーレムとしてクトナを誘うのは厳しいかもしれないが、普通にパーティメンバーとして勧誘するのはありだ。
クトナ、ドレッド、ジークあたりをミリオンズに勧誘してみるか。
今後のウォルフ村の状況次第ではあるが。
俺の力や財力を使えば、クトナを半ばムリヤリ俺の女にできるかもしれないが……。
ドレッドと少しいい雰囲気だったし、あまり気は進まないな。
俺は寝取られものが大嫌いなんだ。
寝取りものは大嫌いというほどではないが、寝取られた側にもどうしても感情移入してしまうので、やはり嫌いだ。
クトナとドレッドの進展が自然消滅した場合はまだしも、俺から積極的に動くことは気が進まない。
まあ、そもそもクトナが俺の力や財力でなびくとも限らないしな。
シトニとクトナが帰り支度を整えていく。
ドレッド、ジーク、村の戦士たちがそれを手伝っている。
俺たちミリオンズとアカツキは特にやることもないので、部屋から出ておく。
「ふふん。タカシ、ミティ、アイリス、モニカ、ニムちゃん。みんな、ありがとうね。感謝しているわ」
ユナがそうお礼を言う。
「どういたしまして。タカシ様を想う仲間ですので」
「ボクは困っている人を見過ごせないからねー。気にしないでよ」
ミティとアイリスがそう言う。
「私は成り行き上かな。帰ったら、ウォルフ村の名物料理をもっと食べさせてね」
「わ、わたしも食べたいです!」
モニカとニムがそう言う。
「そうね。村に帰ったら、盛大に宴を開きましょうか。名物の激辛料理を振る舞ってあげるわ。ちょうど、祭りの時期だしね」
「ちょっと待ってくれ。そんな金があるのか?」
誘拐やキメラの暴走の件であやふやになっているが、そもそも発端はウォルフ村のディルム子爵に対する借金だ。
「ああ。その件なら俺も少し聞いているぞ。ディルム様の側近のシエスタが、強引な手法で水増ししたそうじゃないか。当然、無効になるだろう。我らがウェンティア王国は、無法国家ではないからな」
アカツキがそう言う。
ひと呼吸おいて、彼が言葉を続ける。
「それにしても妙だ。ディルム様は、かつては民衆思いのすばらしい領主だった。だからこそ、俺は志願してこの領軍に入ったのだが……。ここ数年で変わってしまわれた。一体何があったのだろうか」
ふむ。
民衆思いの領主が、横暴になった。
どこかで聞いたような話だな。
平和を愛するオーガの族長が、人族の国へ侵攻した。
仲良しだった友だちが、ある日を境に嫌がらせをしてくるようになった。
現ハガ王国やガロル村での事件に似ているように思える。
俺が考え込む。
ふと、物陰に人の気配を感じた。
「……む? そこにいるのはだれだ!」
「うふふ。見つかってしまいましたか。お久しぶりですね、みなさん」
どこかで見覚えのある女だ。
どこか……。
どこかで……。
「ええと。誰だっけ?」
「私は知らないな」
「わ、わたしも知りません」
モニカとニムがそう言う。
彼女たちが知らないのであれば、俺が知らなくてもおかしくはないだろう。
「タカシ様。現ハガ王国の遺跡にて交戦した女です」
「確か、センという名前だった気がするなー。何を企んでいるのかは知らないけど」
ミティとアイリスがそう言う。
「なるほど。しかし1回会っただけの人を覚えているとは。さすがの記憶力だ。ミティ、アイリス」
「えへへ。ありがとうございます」
「それほどでもないよー。でも、ありがとうね」
俺の言葉に、ミティとアイリスがうれしそうにそう言う。
「うふふ。何をイチャついているのですか。わたくしも、お強いタカシさんのことは気に入っていますのに。ひどいですわ」
センが冗談めかしてそう言う。
……冗談だよな?
センは妖艶な美女だ。
年齢は20代中盤くらいか。
10代後半のミティ、アイリス、モニカ、ユナ。
4人ともかわいくて美人ですばらしい女性だ。
そして、10歳を少し超えたぐらいのニムと、まだ8歳ぐらいのマリアも、将来は美人になりそうな片鱗がある。
しかしセンはまた違った魅力がある。
大人の魅力だ。
まあ20代中盤なら俺とさほど年齢が変わらないので、俺から見れば大人というほどでもないかもしれないが。
「それは光栄だな。センといったか。俺の女……じゃない。俺たちの仲間になるか?」
俺はセンにそう問いかける。
途中で本音が漏れてしまいそうになったが、ミティやアイリスにジロリと見られた気がしたので慌てて訂正した。
「うふふ。何も気にせず、気ままに冒険者として日々を過ごす。とても魅力的な提案ですわね」
ん?
思ったよりも好感触だ。
これはワンチャンあるか?
「よし。ではさっそく……」
「しかし、そういうわけにはいかないのです。わたくしには使命があります。救ってくれた恩を仇で返すわけにはいきませんの」
センがそう言う。
「何か事情があるのか。内容次第では力になれるかもしれないが?」
「うふふ。いけない。わたくしとしたことが、つい話しすぎてしまいましたわ。今の言葉は忘れてください。わたくしのこれからの行動を知れば、タカシさんたちが止めないはずがないですもの。わたくしたちが行動をともにすることはありえませんわ」
「…………」
「今回の騒動でも、ウォルフ村の制圧作戦やキメラの暴走により、たくさんの被害が出たはずです。そして、わたくしの本当の目的はこれ……。ディルム子爵家に代々伝わる、紅蓮の水晶ですわ。なんでも、ずいぶん昔に赤狼族から友好の証として贈呈された代物だとか。厳重に保管されていたので、盗み出すのに苦労しましたわ」
「ふふん。聞いたことがあるわ。炎の精霊の祝福がされている水晶ね」
「いったい、その紅蓮の水晶とやらを手に入れてどうするつもりだ」
俺はセンにそう問う。
「うふふ。タカシさんたちには関係のないことです。焼け死にたくなければ、もうわたくしに関わらないことですね。おとなしく、南部のラーグの街やゾルフ砦あたりで平和に過ごしているのがいいでしょう」
「ずいぶん親切だな。ということは、次のお前の企みは南部以外で行われるということか」
「……! 本当に、タカシさんと話しているとつい口を滑らせてしまいますわ。これ以上ボロが出ないうちに、退散させていただきます。では、ごきげんよう」
センはそう言って、影の中へ消えていった。
特殊な転移魔法かなにかだろう。
彼女の気配はなくなった。
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