「おう、ナイトの兄ちゃん! 飲んでるか?」
「ああ、もちろんだ」
俺は人魚族のおっさんたちと酒を酌み交わしていた。
ここは海中だが、特殊な加工がされた酒は普通に飲める。
どういう理屈か俺も分からんが、細かいことを気にしてはいけない。
俺は勧められるままに、どんどん杯を重ねていく。
「いい飲みっぷりだなぁ! よしっ、俺たちも飲むぞ!!」
「「おおっー!!」」
おっさんたちも、俺に負けじと酒を飲み始めた。
何とも陽気な光景だ。
しかし……。
(女っ気がないな……)
俺は嘆息する。
おっさんたちと酒を飲むのも楽しいのだが、やはり美少女とイチャイチャしながら飲みたい。
それが男としての自然な欲求だろう。
ついさっきまでは、侍女リマとイチャイチャしていた。
だが、リマは引っ込んでしまっている。
なんでも、『主役であるナイト様を私が独占するわけにはいきません。名残惜しいですが、ひとまずお別れです』とのことだ。
言っていることは分からないでもないので、俺は受け入れた。
彼女と入れ替わるようにしてやって来たのが、この作業員のおっさんたちというわけである。
「ところで、最近の防壁補修作業はどうだ?」
「ん? 俺たちの仕事の話か?」
「そうだ。ちゃんと捗っているのかと思ってな。俺はめっきり顔を出せなくなったし……」
俺は作業員たちに尋ねた。
彼らといっしょに仕事をしたのは、およそ1週間ぐらい前のことだったか。
力仕事がひと段落してからは、結界魔法の方を手伝ったり、再び治療岩に顔を出したりしていた。
「おう、もちろんだ! あのとき、ナイトの兄ちゃんが基礎部分を手伝ってくれたからな!! 大助かりだったぜ!!」
「ほう?」
どうやら、途中から顔を出さなくなったことを怒ってはいないらしい。
まぁ、そうでなければこれほど陽気に酒を飲んだりしていないだろうが。
「防壁としての役割は、すでにある程度は果たせているぞ。エリオット殿下がリトルクラーケンを仕留め、ナイトの兄ちゃんがアビス・オクトパスを仕留めてくれた。それ以外の低級の魔物は、防壁を突破することができない」
「あとは念のため、さらに防壁の完成度を上げていくだけだぜ。なぁに、大変だが危険はない仕事さ。ナイトの兄ちゃんに頼ってばかりじゃいられねぇ!」
「そうか……。それは何よりだ」
俺はホッとする。
女好きな俺だが、別に男はどうなってもいいなどとは思っていない。
共に補修作業に励んだ仲間として、彼らのことは大切に思っている。
加護(小)の条件を満たした者はいないものの、加護(微)は軒並み達成している。
今の彼らなら、そう遠くないうちに防壁を完璧な状態まで仕上げてくれることだろう。
「よし! ナイトの兄ちゃんの旅立ちを祝って、飲み比べだ!! みんな、グラスを持て!!!」
「「「おおーっ!!!」」」
作業員のおっさんたちは杯を掲げる。
とても元気だ。
(このノリ……)
俺は苦笑する。
おっさんたちがむさ苦しいのは、人族も人魚族も変わらないらしい。
だが、活気にあふれた姿は見ていて気持ちのいいものだ。
「よし! 俺も飲むぞ!!」
俺も杯を持ち上げる。
こうして、楽しい宴会はまだまだ進んでいく……。
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