ミリオンズ会議が続いている。
魔導具『共鳴水晶』の使用方法や発動者の色合いについて情報を共有した。
「蓮華、さっきの工夫というのは具体的にどういうことだ? 『もう少し工夫すればさらに便利にできる』と言ってたよな?」
俺は蓮華に問う。
この共鳴水晶は、現時点でも十分に便利なものだ。
離れたところにいる仲間の方向を把握できる上、その仲間というのが具体的に誰なのかまで分かるのだから。
「ふむ……。それは簡単なことでござる。魔力を込める量を調整することで、発光の強さを調整するのでござる」
「発光の強さを調整?」
「然り。さすれば、『発動者はここにいる』という情報以外も伝えられるのではござらぬか? 例えば、強く光れば『発動者が窮地につき救援を求めている』など……」
「なるほどな」
蓮華が言っている内容は理解できた。
確かに、そのような使い方ができるのであれば便利になる。
例に出してくれた『強く光ったらピンチ』というのも、直感的に分かりやすいだろう。
「残念だが、それは難しいだろうな」
「何故でござる?」
「距離の問題がある。近くにいれば、さっきのニムのように少なめの魔力でも強く光る。もっと離れたら、同じ魔力量を込めても弱く光るぐらいだろう。もっともっと離れたら、先ほどの魔力量では光らなくなるだろうな。その他、山脈や結界などがあれば魔力が阻害される可能性もある」
俺はそう説明する。
距離が離れるほど伝えられる魔力が低減するのは当然のことだ。
それぞれの水晶が事前に紐付けられているため、距離に対して出力が反比例するほどではないが……。
「ふむ……」
「例えば強めに光ったとしても、近くから発動された中程度の魔力によるものなのか、遠くから発動された強大な魔力によるものなのかまでは分からない。『強く光ったらピンチ』と事前に決めておくアイディアは悪くないものだったが、実際には使えないな」
俺は蓮華にそう伝える。
難しい表情をしていたが、やがて何かを閃いたようにハッとする。
「では、こうするのは如何でござるか? 光の強弱ではなく……発光回数で判断するのでござる」
「発光回数?」
「左様。例えば、『一度だけ光ったのならば単に位置を知らせたのみ』『二度光ったのならば窮地につき救援求む』と事前に決めておくのでござる」
「なるほどな。それなら、発光の強弱に関係なく情報を伝えられる」
俺はうなずく。
蓮華が提示したアイディアは、実用性のあるものだ。
単に光らせるだけよりも、伝えられる情報が格段に増す。
地球で言えば……モールス信号みたいなものか。
いや、待てよ?
モールス信号と言えば……。
「ふっふっふ」
「タカシ殿?」
俺の含み笑いに、リーゼロッテが反応する。
「蓮華がアイディアを出してくれたおかげで、俺も新たな使い方を思いついたよ」
「「「おおっ!」」」
みんなの視線が俺に集まる。
俺はそのアイディアを、みんなに披露する。
「発光時間を『短め』と『長め』に分けておくんだ」
「えっと……。つまり、『短めならピンチ』とか『長めなら位置を知らせただけ』という感じですか? 利便性はあまり変わっていないような……」
サリエが首を傾げる。
頭が良くてしっかり者の彼女だが、やはり知らない知識や工夫を自力で思いつくのは難しいよな。
ここは俺がドヤ顔させてもらおう。
「惜しいが、少し違う。『短め+短めならピンチ』とか『長め+長めなら位置を知らせただけ』といった感じだ」
地球におけるモールス信号的なものだな。
ま、こちらの方がより簡易的なイメージだが……。
「ふむ。それならば……合計で6種類のメッセージを伝えられるわけですか」
「その通りだ」
サリエの言葉に、俺は大きくうなずく。
最大の発光回数を2とする場合、組み合わせパターンは6つ――『短』『長』『短+短』『短+長』『長+短』『長+長』となる。
義務教育のある現代日本では、これぐらい理解できて当たり前ではあるが……。
そういった体系的な教育のないこの世界において、頭の中だけでパターン数を把握できるサリエの頭脳は素晴らしい。
こうして俺たちは、ミリオンズ会議を続けていくのだった。
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