「無月、お前……」
「ふん、俺がどうした?」
そこにいたのは無月だった。
彼女は腕を組みながら、こちらを睨みつけている。
そんな無月に対し、流華は……。
「姉御! 教えてくれてありがとう!」
「あ、ああ……。別に大したことじゃない」
無月は照れたように顔を背ける。
彼女は桜花七侍の一角で、隠密行動を得意としている女忍者だ。
元スリで隠密行動系の能力を伸ばしていこうと思っていた流華の指導者として、彼女は適任だった。
しかし、まさか無月がここまで流華にデレるとは……。
「流華に色々教えてくれて感謝する」
「……構わんさ。俺は貴様との勝負に負け、命を救われた。借りは返す」
「そうか……」
数日前の桔梗拉致事件に、彼女は関与していた。
彼女は桔梗の行方を追う俺を邪魔してきたので、俺は彼女を撃破した。
そして、命までは奪わなかった。
そこまでだけなら、たまにある話だろう。
敵対者は殺しておいた方が後々の面倒になりにくい一方で、勝負のついた相手を無闇に殺すことに忌避感を覚える者も多いだろうからな。
しかし、無月に関しては特殊な事情があった。
俺によって無力化された彼女は、仲間であったはずの隠密部隊によって首にクナイを突き刺されたのだ。
しかもそのクナイには毒が塗ってあったようで、単純な出血治療に加えて、治療魔法も併用しないと命が危うかった。
無月にとって、俺は『勝負のあとに命を見逃されただけでなく、仲間からの始末からも守ってくれた命の恩人』ということになるわけだな。
「俺は貴様の配下になったんだ。配下は主に従うさ」
「そうだな……」
俺は頷く。
無月が協力してくれるのは大きい。
見ての通り、流華の先生として忍術を伝授してくれている。
流華が隠密行動をマスターすれば、桜花城攻めにおいていろいろと捗るだろう。
そうでなくとも、単純に自衛能力を強化してくれているというだけでも助かる。
「だが、戦闘には期待するなよ。実際に戦った貴様なら理解しているだろうが、俺の戦闘能力はさほど高くない」
「残念だが、それは仕方ないところだな」
俺は、無月以外の桜花七侍とも戦ったことがある。
頑強な肉体を持つ金剛、そして雷鳴流師範の雷轟だ。
無月を含め、3人のいずれもチート持ちの俺の敵ではなかった。
しかし、その中でも差はある。
攻撃力なら雷轟、防御力なら金剛が優れていた。
一方の無月は、素早さに優れていたが攻撃力・防御力に特筆すべき点はない。
本人も言っている通り、その戦闘能力は低めだ。
おそらく、桜花七侍でも最弱レベルだろう。
まぁ、隠密行動には優れているので、総合的に見て無能というでは決してないのだが。
残りの桜花七侍を1対1で打ち破ってくれるとは期待しない方がいい。
桜花城攻めについては、無月に頼り切るのではなく、やはり自分で作戦を考えていく必要がある。
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