ハルク男爵邸の執事セルバスから俺たちへ、執事を紹介してもらうことになった。
セルバスの叔父であるセバスだ。
セバスは隣街に住んでいるそうだ。
セルバスから連絡してもらい、数日後にこの街に来てもらう予定である。
それまで、俺たちはハルク男爵の屋敷に泊めてもらった。
そしていよいよ、今日が顔合わせの日だ。
ハルク男爵邸の一室でソファに座って待機する。
ハルク男爵やサリエは同席していない。
紹介者であるセルバスは、部屋の隅で控えている。
「ふう。どんな人が来るだろうか。緊張するな」
「そうですね。優しそうな人が来てくれるとうれしいですが」
「まあどんな人でも、しっかり仕事をしてくれるのなら助かるね」
俺、ミティ、アイリスがそう言う。
モニカ、ニム、ユナも少しそわそわしている。
コンコン。
ドアがノックされる。
ドアが開かれる。
初老の男性が部屋に入ってきた。
若い女性を2人連れている。
彼らがこちらに顔を向ける。
「皆様。私がセバスでございます。以後お見知りおきを」
初老の男性がそう言う。
気品のある佇まいだ。
「初めまして。俺はタカシといいます」
俺は立ち上がり、そうあいさつをする。
ミティたちも合わせて名乗っていく。
それぞれがあいさつを済ませ、ソファに座る。
若い女性2人だけは立ったままだ。
「それで、タカシ様。執事を探しておいでだと伺いましたが」
「ええ。俺たちはCランクの冒険者パーティで、ラーグの街の屋敷に住んでいます。冒険者活動で屋敷を空けることも多いので、留守中の管理や普段の家事など、取り仕切ってくれる人を探していたのです」
「なるほど。タカシ様たちミリオンズの噂は聞き及んでおります。私も微力を尽くさせていただきましょう。家のことは私にお任せいただき、冒険者活動にご専念くださいませ」
セバスがそう言う。
「ありがとうございます。仕事内容やお給金のほうは……」
「仕事内容については、屋敷の管理全般をお任せください。私は一度引退した身ですし、それほど多くの報酬は望みません。ただし……」
「ただし?」
「この者たちをメイドとして働かせていただきたい。経験を積ませたいのです。そして、いくばくかの報酬をいただければありがたく思います」
セバスがそう言って、2人の少女に視線を向ける。
10代前半くらいか。
ニムよりは年上だろうが、ミティやアイリスよりは年下だと思う。
「セバスさんと合わせて3人の雇用ですか。ええっと。具体的なお給金は……」
執事やメイドの給料の相場がわからない。
日本の感覚だと、どれくらいだろう?
経験の浅い新人でも、1か月で最低15万円から20万円ぐらいは要るよな。
それを取りまとめる立場の者にはもっと要る。
そう考えると、セバスと2人メイドを合わせて、1か月で金貨100枚近く必要かもしれない。
俺たちのパーティ資金は金貨1000枚以上ある。
余裕で払えるものの、固定費として毎月金貨100枚近い出費になると、結構痛いかもしれない。
「そうですな。具体的には……」
セバスが俺に対して耳打ちしてくる。
ふむ。
想定したよりも安いな。
それぐらいなら、まあいいか。
「ええっと。正直ありがたいですが、その額でよろしいのでしょうか?」
「私は一線を退いた老体ですし、この者たちは新米ですので。もちろん、それを言い訳にして仕事に手を抜いたりは致しませんが。……それから、私に対して丁寧な口調は不要です。これからは主従の関係となりますので」
セバスがそう言う。
まあ本人たちがその額で納得しているなら、俺としてはもちろん問題ないが。
「わかりました。……わかった。俺は構わない。みんなもいいよな?」
「そうですね。メイドさんが来てくれるなんて、なんだかお金持ちになったみたいです!」
ミティがそう言う。
お金持ちになったみたいじゃなくて、実際にお金持ちになりつつあるわけだが。
ミティはまだまだ庶民感覚が抜けないようだ。
まあ俺もだけど。
「ボクもいいよー。贅沢をする気はないけど、これで冒険者活動や治療回りに専念できるようになるしね」
「ふふん。私も構わないわ。留守を任せられる人がいるのは、ありがたいわね」
アイリスとユナがそう言う。
執事やメイドを雇って家事などを任せるのは、一般的には贅沢なことだ。
自分たちでやったほうが、安く済む。
しかし俺たちの場合は、家事などを行っている時間の代わりに冒険者活動や治療回りをしたほうが稼げる。
そう考えると、セバスやメイド2人を雇う分の出費のもとは取れる可能性が高い。
「私もだいじょうぶだよ。でも、料理は私の領分だから譲らないよ。手伝ってくれるならありがたいけどね」
「わ、わたしも、庭の管理はゆずりません!」
モニカとニムがそう言う。
彼女たちは、それぞれ自分の領分にこだわりを持っている。
手伝いぐらいならまだしも、本格的に委ねることは避けたいようだ。
「かしこまりました。出過ぎた真似をせぬよう、お手伝いに徹するように心がけます。……さあ、2人とも。自己紹介しなさい」
セバスがそう言って、メイドの2人を促す。
2人がそれぞれ1歩前に出る。
「レインです。よろしくお願いします!」
「クルミナです~。精一杯働かせていただきますね~」
2人がそう言って、礼をする。
なかなかかわいい2人だ。
レインはボーイッシュ系の美少女。
元気がいい。
クルミナはおっとり系の美少女。
癒やし系だな。
仕事で甘やかしたりすれば、忠義度を稼げないかな。
加護を付与できれば、ミリオンズの一員になってもらうことも検討したい。
もしくは、家事術や料理術などを強化して、メイドのエキスパートになってもらうのもありだ。
そしてゆくゆくは俺のハーレムメンバーに……。
ゾクッ。
突然寒気がした。
俺は振り向く。
ミティとアイリスだ。
彼女たちからの視線が冷たい気がする。
俺の思考が読まれているのか?
マズイ……。
落ち着け。
よく考えると、この2人メイド……レインとクルミナに手を出すのは避けたほうがよさそうだ。
ハルク男爵が俺を信用して、セルバス経由でセバスを紹介してくれた。
そしてそのセバスが、経験を積ませたいという理由で格安の給料で彼女たちを俺に紹介してくれたのだ。
ハルク男爵、セルバス、セバスたちの信用を裏切るわけにはいかん。
「ああ。こちらこそよろしく。まずは俺たちの屋敷を見てもらわなくてはな。いつ頃、ラーグの街に出発できる?」
「もちろん本日の出立でも問題ありません。タカシ様がたのご都合に合わせさせていただきます」
「わかった。では本日中に用意を整えて、明日の朝に出発することにしよう」
「かしこまりました」
セバス、レイン、クルミナとの顔合わせはこうして無事に終了した。
明日、ラーグの街に向けて馬車で出発する予定だ。
もちろん、行きと同じく馬車を利用する。
この馬車も、ハルク男爵からもらったものだ。
彼にはお世話になりっぱなしだな。
もとは俺とアイリスの治療魔法に対するお礼だが。
少しこちらがもらいすぎな気もする。
いずれ、何らかの形でお礼を返したいものだ。
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