「桔梗、まずは医者に診てもらおう」
「え? 別に大丈夫だけど……」
「雷轟に乱暴されたのだろう? なら、診察してもらうべきだ」
俺は告げる。
起きてしまったことは仕方ない。
過去を悔やんだり、罪人に罰を与えたりすることは後でもできる。
最優先すべきは、被害者である桔梗のケアだ。
「乱暴って……。ただ、服を切り裂かれただけなんだけど……」
「えっ? でも、『ヤられた』って……」
「だから、それは無理やり服を切られただけで……。碓かに嫌だったけど、高志くんが助けてくれたし、もう気にしていないよ」
「なんだって!?」
俺は驚愕する。
何やら、言葉の問題で意思疎通に少しばかりの齟齬があったようだ。
結局のところ、桔梗は誘拐され、服を切り刻まれたものの、そういう行為そのものは未遂に終わったらしい。
いや、誘拐されてふんどしを奪われるというだけでも、年頃の少女にとってショッキングな出来事だろうが……。
犯人を躊躇なく即処刑するほどの凶悪犯罪ではない……かもしれない。
被害者の桔梗も、血みどろの処刑シーンなんて見たくないだろうし……。
桔梗の意向に従って雷轟の殺害を踏みとどまった判断自体は、とりあえず正解としておこう。
「ごめん……。私のせいだよね……」
「いや、桔梗は悪くない。悪いのは、俺の早合点だ」
俺は自らの頭を叩く。
そんな俺の様子を、桔梗が微笑ましそうに見ている。
「ふふっ」
「どうした?」
「いつもの高志くんだなって……。優しくて、ちょっと助平で……。でも、いざというときは頼りになる」
「俺はそんな男なのか?」
「そうだよ。短い付き合いだけど……。高志くんのことはそれなりに分かってるつもり!」
桔梗は胸を張る。
そんな彼女を見て、俺は不意に悪戯心を覚えた。
「ほう? なら、俺が考えていることも分かるか?」
「え……?」
俺は桔梗の胸を凝視する。
彼女は顔を真っ赤にし、胸を押さえた。
「高志くん……!?」
「分かるのか?」
「い、いや……その……」
「どうなんだ?」
「わ、分かる……。分かるよ……」
桔梗は真っ赤な顔で俯く。
俺はそんな彼女に歩み寄り、その体を抱き寄せた。
そして、その耳元で囁くように告げる。
「さっきの続きをさせてくれ。俺は、桔梗が欲しい」
「た、高志くん……」
「駄目か?」
「……いいよ。高志くんの好きなように……して……」
「ああ。そうさせてもらうよ」
俺は桔梗の体を堪能する。
雷轟によって辱められる直前だった彼女の記憶を、上書きするように……。
闇に侵食されそうだった心を取り戻すように……。
俺たちは甘いひとときを過ごすのだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!