俺は宴の最中、ネプトリウス陛下と話をしている。
何やら、俺へのお礼を考えてくれているらしい。
俺としては、『ヤマト連邦の近海まで連れて行ってもらえること』と『海神石を譲ってもらったこと』で十分なようにも思える。
「いや、しかしな……。それらは、例の件の直後に決めた取り急ぎの礼だ。まだ足りぬ。他にも何か、礼をせねばならぬだろう」
ネプトリウス陛下は言う。
彼の言うことにも一理あるか……。
大きな手柄を立てた者への褒美は、時間をかけて慎重に決める必要がある。
しかしそれはそれとして、その場で何らかの褒美を暫定的に与えることもあるだろう。
感謝の気持ちというのは、早く伝えるのが大切だからな。
「でしたら、一つお願いしたいことがあります」
「ほう……。それは何だ?」
「メルティーネのことについてです」
俺は周囲に人がいないことを確認し、そう告げた。
聞かれて困ることでもないが、大っぴらに話すことでもない。
「メルティーネとな……?」
ネプトリウス陛下は怪訝な顔をする。
俺は続けた。
「俺は彼女を愛しています。俺たちのことを応援してくださると嬉しいですね」
「なんだ、そんなことか」
ネプトリウス陛下は笑う。
そして、こう言った。
「貴殿がメルティーネを妻に取るというならば、祝福しよう。国王としても、父親としてもな」
「ありがとうございます」
俺は一礼する。
ネプトリウス陛下は続けた。
「もちろん、メルティーネが貴殿との婚姻を拒むならば話は別だが」
「はい。それは本人とよく相談してみます」
俺はうなずく。
メルティーネが俺に好意的であることは、彼女の態度や行動から明らかだ。
だが、さすがに結婚となると慎重にならざるを得ないだろう。
「……ところで、それほどあっさりとご許可をいただいてよろしいのですか? 自分で言うのも何ですが、俺はどこの馬の骨とも知れぬ人族ですよ?」
「ふむ。確かに、恩人というだけでは躊躇するところだが……。貴殿はただの恩人ではなく、大恩人だからな。それに……」
「それに?」
「貴殿ほどの傑物であれば、人族の中でも相応の地位にあるはず。余の見立てでは、『ナイトメア・ナイト』というのは偽名だろう」
「……おみそれしました。さすがはネプトリウス陛下。そこまで見抜いておられたとは……」
俺は素直に称賛する。
俺はメルティーネと初めて出会ったとき、『ダダダ団』の首領リオンと戦闘中だった。
そのときの流れで『ナイトメア・ナイト』と名乗ったため、人魚の里でも同じ名前で通していたのだ。
これからヤマト連邦への潜入作戦が控えているという事情もあり、あえて本名を明かす必要はないと思っていたのだが……。
ネプトリウス陛下は、すでに俺の背景に気付いていたようである。
「偽名を用いていた無礼、平にご容赦ください。俺の本当の名前は――」
「よい」
俺の言葉を遮るように、ネプトリウス陛下は言った。
「貴殿のことだ。何か事情があるのだろう? 例えば、これから重要な使命が控えている……とかな」
「…………」
鋭い。
鋭すぎる。
やはり一国の王は違うな。
絶対に偽名を貫きたいほどではないが、できれば本名を隠しておいた方が万全なのも事実だ。
ここはお言葉に甘えるか。
「貴殿から無理に聞き出そうとは思わない。余に真の名を告げるのは、種族間で正式な友好関係を結ぶ際で構わぬ。ただ、これだけは約束してくれ」
神妙な面持ちで彼が告げたのは――
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