【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう

~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
猪木洋平@【コミカライズ連載中】

1717話 桜花城の天守閣にて

公開日時: 2025年4月14日(月) 12:10
文字数:1,120

 俺が深詠藩を引き上げてから、一週間ほどが経過した。


 桜花城の天守閣、その最上階。

 風が静かに障子を揺らし、外の空気が薄く城内へと忍び込んでくる。

 昼過ぎの陽光は穏やかで、障子越しに差し込む光が、畳の上にぼんやりとした格子模様を描いていた。

 俺はその中に身を沈め、静かに耳を澄ます。


「……西方から接近中だった炎神の気配が、また遠のいていったか。あれは何だったのだろう……?」


 つぶやきは、広間に低く響いた。

 独り言にしては明瞭すぎたその声だが、誰も応じる者はいない。

 ただ、天守の壁の中で風がくぐもったようにざわめいた。


 炎神の気配。

 まるで遠くの空からこちらを窺っているかのような、得体の知れぬ熱。

 だが、それは突然、潮が引くように消えていったのだ。

 まるで、何かを求めて旅立った者が忘れ物に気付いて立ち止まった末、元いた場所へ引き返してしまったかのように。


 桜花藩の西方には、内海が広がる。

 その海の向こうにある『四神地方』――華河藩や紅炎藩といった藩がひしめき合う、神気濃度の高い土地。

 あのあたりから届いた気配は、確かに炎神のものだった。

 しかし、それがなぜこちらへ来て、そしてまた去っていったのか、その理由までは読み取れなかった。

 神々の行動は、人の理屈では測れない。


「神とやらと接触するチャンスだったが、まぁいいか。必ずしもメリットに繋がるわけではないしな」


 つぶやきながら、俺は近くの机に手をかけた。

 その上には、未開封の書簡が幾つも山となっている。

 封を切れば、配下からの報告や併呑した諸藩の情勢、商人たちの情報が雪崩のように押し寄せてくる。

 だが今の俺には、それらの現実的な問題よりも、遠ざかっていった炎神の意図の方が、よほど気になっていた。


 炎神と接触していれば、新たな加護を得られた可能性はある。

 そうなれば、俺の火魔法や火妖術は、ひとつ上の領域に進めたかもしれない。

 しかし同時に、神の機嫌を損ねていた可能性もある。

 その結果、この桜花城ごと灰にされていたかもしれないのだ。


 感覚的には、『7のメリットに対して3のリスクがある遭遇イベント』といったところか。

 冷静に考えれば悪くない確率だが、致命傷の可能性を孕んでいる以上、是非にと歓迎するようなものでもない。


「それに、今の俺には確実な道がある。スキルポイントを確実に得られる、近麗地方の征服だ。運ではなく実力で強くなる方が、俺の性に合っている」


 そう自分に言い聞かせながら、肩の力を抜く。

 俺のチートスキルは便利な一方で、即座に最強に至るようなお手軽チートではない。

 いわゆる成長系チートというやつだ。

 ある程度はズルだが、ある程度は地道な努力で積み上げてきた自分自身の実力だ。

 焦る必要はない。

 高みを目指すのに近道はないのだ。

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