「……というわけで、ナオミちゃんをハイブリッジ家にスカウトしたわけだ」
俺は屋敷に戻ると、ナオミをベッドに寝かせて、ミリオンズのみんなに事情を説明した。
ちなみに、ナオミはまだ目覚めていない。
「なるほど。タカシ様がそうおっしゃるのであれば、いいと思います」
「よく知らない子だけど、マジメな子なんでしょ? なら、ボクも反対なんかしないよー」
ミティとアイリスが賛成してくれた。
他のみんなも、特に異論はない様子だ。
「そ、それにしても、なんだか疲れ果てているみたいですね」
「無理もないよ。一時的にとはいえ、タカシと張り合ったんだもん」
「ふふん。将来性は抜群ね」
「マリアも、お姉ちゃんがたくさんできて嬉しいなっ!」
ニム、モニカ、ユナ、マリアは、ナオミを見て感想を言い合う。
「ナオミの実力は本物だ。彼女を登用したことは、必ずやハイブリッジ家の利益となるだろう」
「わたくしもそう思いますわ」
「ふむ。なおみ殿の剣術は発展途上にある。共に研鑽を積めば、より高みに到達できるでござる」
リーゼロッテと蓮華も、ナオミのことは評価してくれている。
「……ですが、かなり疲れ果てている様子ですね。私が治療してあげましょう。【ヒール】」
サリエがナオミの治療を始めた。
彼女は、治療魔法レベル5を持っている。
治療魔法は外傷や病を主に癒やす魔法なのだが、疲労を取り除く効果も一定程度はある。
「……あ、あれ? ここは……?」
「おっ! 起きたか。おはよう」
「え? あ……。ハイブリッジ様……。アタシ、負けたんですか?」
「そうであるとも言えるし、そうでないとも言える」
試合という形式で見れば、最後まで立っていたのは俺だ。
ナオミが負けてしまったと言っていいだろう。
だが、ナオミの目的はハイブリッジ家に登用されることだった。
その目的は無事に達成できる見込みとなっている。
それを考慮すれば、ナオミの勝利と言っても過言ではないだろう。
疲労困憊で記憶が怪しいナオミに、俺は改めて登用の件を説明する。
「ナオミちゃん。改めて紹介する。こちらが、俺の愛する妻たちだ」
俺はミティやアイリスたちを紹介していく。
ハイハイレースのときにも一度会っているが、あのときはまさかナオミがハイブリッジ家に来るとは思っていなかった。
それに、あのときはニムやユナは不在だったしな。
「皆さま、よろしくお願いいたします。王都騎士団の元見習い、ナオミと申します。ハイブリッジ家の末席に加えていただければ幸いです」
ナオミはベッドの上で姿勢を正して挨拶をした。
「ああ、そう固くならないでくれ。俺たちは仲間だからな」
「はい! ありがとうございます! 末永くよろしくお願いいたします!」
ナオミが元気いっぱいに返事をする。
この子は本当に明るくて良い子だ。
俺には勿体ないくらいの良い子が来てくれたものだ。
俺たちミリオンズは、それぞれナオミと挨拶を交わす。
さらに、ハイブリッジ男爵領に帰還したあとのことも話していく。
「ナオミちゃんに頼みたいのは、街中の治安維持か、あるいは魔物の間引きだな」
「街中の見回りですか? わかりました。それなら得意分野です」
「おお、そうなのか。それは心強いな」
「はいっ!」
ナオミは、王都騎士団でも見習いとして街を巡回する任務に就いていたらしい。
ならば、街の治安を守ることにも慣れているはずだ。
「ハイブリッジ男爵領の領都であるラーグには、治安維持隊という組織が存在する。おそらくそこに配属されるだろう。なかなかに腕利きの隊長がいるんだ」
名前はナオンだ。
そう言えば、彼女も王都騎士団の出身だったな。
「承知しました。それでは、明日から隊の先輩方に相談して、引き継ぎや脱退の処理を進めていきます。今日のところはこれで……あっ!?」
ナオミがベッドから立ち上がろうとする……が、その途中でバランスを崩した。
俺は慌てて支えてあげる。
「大丈夫か?」
「はい。ちょっと力が入らなくて……」
「体が悲鳴を上げているようだな。試合であんなムチャをするからだぞ」
ナオミの闘気弾の威力はかなりのものだった。
油断していたとはいえ、一時的に俺の闘気弾に競り勝ったくらいだ。
あれは相当にムリをしてひねり出していた闘気だったらしい。
「すみません……。ハイブリッジ様に少しでもアタシの成長をお見せしたくて……」
「そういう気持ちは嬉しいけど、それで君がケガをしたりしたら、元も子もないじゃないか」
「はっ! 仰る通りです!」
「これからは、もっと自分の身体を大切にしてくれよな」
「はいっ! 気を付けます」
「よし。なら、今日はここの部屋に泊まっていけ」
「へ? それは……」
ナオミが顔を赤く染めた。
まだ幼さが残る顔だが、こう見えても10代中盤なので立派な女の子だ。
そんな少女が赤面している姿はとても可愛いかった。
「ええっと、それはどういう……?」
ナオミがモジモジしながら聞いてくる。
ダメだったか。
ドサクサに紛れて、ねじ込めるかと思ったのだが。
(いや、まだだ)
諦めるにはまだ早い。
諦めたらそこで試合終了だ。
「いやぁ、ナオミちゃんも疲れているだろう? その体で家まで帰るのは大変だと思ってな」
「は、はい。お気遣いありがとうございます。ですが、これぐらいなら気合いで何とか……。それに、両親が心配しますし……」
ナオミは実家ぐらしだったか。
それならば、連絡なしで遅くなれば心配してしまうだろう。
「オリビア」
パチンッ。
俺は指を鳴らして合図を送る。
「はい。何なりとお申し付けくださいませ」
すると、部屋の隅に控えていたオリビアが現れた。
相変わらず、いつの間にいるのか把握しづらい。
神出鬼没だな。
「ナオミちゃんの実家に連絡してくれ。今夜はハイブリッジ男爵家で預かるってな」
「畏まりました。すぐに手配いたします」
「ええ~! あ、あの……?」
「遠慮はいらない。君はもうハイブリッジ家の一員なんだ。家族の面倒を見るのは当然のことだよ」
「うぅ……。は、はい。わかりました」
「ああ、それと、俺にはマッサージの心得もあるんだ。闘気の使いすぎで疲労が溜まっているナオミちゃんの体をほぐしてあげよう」
「はい。ありがとうございます」
ナオミは観念したように言った。
こうして、俺はナオミをこの高級宿の一室へ泊まらせることに成功したのだった。
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