【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう

~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
猪木洋平@【コミカライズ連載中】

1002話 見世物

公開日時: 2023年4月25日(火) 12:13
文字数:2,111

 リーダー格のヨゼフが倒れても、他のチンピラたちは撤退しなかった。

 俺を取り囲み、リンチを続けている。


「はぁ……はぁ……。くそっ……。いい加減に……しろ……っ」


 俺は息を荒らげつつ、必死に演技を続ける。

 というか、闘気や治療魔法を最小限に抑えている今、普通に痛みを感じてはいるのだが。

 チンピラたちは飽きることなく、俺を痛めつけ続けている。


「オラ! オラッ!! オラァッ!!!」


「死ねや! このクソガキが!!」


「ぶっ殺せ!!」


 チンピラたちが口々に叫びながら、俺を殴ったり蹴ったりしている。

 彼らの顔にはもはや嗜虐的な喜びはなく、ただひたすらに俺をいたぶることに興奮しているようだった。


(いてっ! ……おいおい、こいつら容赦ないな。やり過ぎだろ。少しばかり回復しておくか……)


 俺は無詠唱で治療魔法を発動する。

 無詠唱だと出力がかなり下がるのだが、今回は特に問題ない。

 効き目が強すぎると、チンピラたちに気付かれるからな。

 治療魔法の使い手はそれなりに珍しいし、目立つことに繋がってしまう。

 それは避けたい。


「くたばれぇっ!!」


 チンピラが飛び蹴りをしてくる。

 俺はわざと吹き飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がる。


「ぐはっ!?」


 俺は苦悶の声を上げた。


「あはははははは! ざまぁみろ!」


「これでもう起き上がれねぇだろ!」


「へへっ!  そのまま死んでくれ!」


 チンピラたちが笑い合う。

 そして、俺から視線を外してサーニャちゃんの方を見た。


「あ、ああ……。そんにゃ……。お客様が……」


 彼女は非常に怖がっている様子だ。

 まぁ、それはそうか。

 昨晩泊まってくれた客が、自分のためにチンピラに立ち向かってくれた。

 しかし力及ばずボコボコにされた上、飛び蹴りで派手に吹き飛ばされたのだ。

 俺だから無事だが、一般人で当たりどころが悪ければ死んでしまっていた可能性すらある。


「さぁ、本題に戻ろうぜ」


「へへへ……。借金を返してもらおうか」


「なぁに、今日はとりあえず利子の分だけでいいからよぉ……。嬢ちゃんの体で払ってくれや」


「い、いやっ! やめてくださいにゃっ!」


 チンピラの一人がサーニャちゃんの腕を掴む。

 サーニャちゃんは怯えたような声を出した。


「や、やめてください! 彼女に手を出さないで!!」


 俺は慌てて立ち上がり、大声で叫ぶ。

 勇気を振り絞って少女を守ろうとする非力な男――という精一杯の演技だ。


「お、まだ生きてたか?」


「しぶとい奴め。ま、ちょうどいい」


「こういうのはよ、女の前で男をボコボコにしてやればいいんだよな。そうすりゃ、女はビビって言うことを聞きやすくなる」


 ゲスな話をしているな。

 まぁ、理にはかなっているが……。


 例えば、サーニャちゃんに言うことを聞かせたければ、最も有効なのはもちろんサーニャちゃん本人を痛めつけることだ。

 しかし、その場合は彼女の女性としての価値が下がるリスクがある。

 顔・胸・足のような目立つ部分への傷をつけるのはマズイだろう。


 一方で、目の前で男たちをボコボコにすれば、女性本人は何も傷つかない。

 にもかかわらず恐怖心は植え付けることができるので、結果的に言うことを聞かせやすくなるというわけだ。


「へっ! オラァッ!!」


「ぐあっ!!」


 チンピラが俺を殴りつけてくる。


「はっはー! いいぞーっ!!」


「やっちまえーっ!!」


「もっとやれーっ!!」


 取り巻きのチンピラたちによる歓声が上がる。

 完全に見世物になっているな。


「ほら、早く立てよーっ!!」


「ぐっ……! うぅ……っ」


 俺はヨロヨロと立ち上がる。

 結構、ガチで痛くなってきた。

 いざとなれば治療魔法があるので、特に恐怖心はないのだが……。


 いい加減にムカついてきたぞ。

 闘気を開放してボコボコにしてやりたいが、そうなると目立ってしまう。

 いや、チンピラ相手に無力ながらも立ち向かっている時点で、かなり目立ってしまっているのだが……。

 これぐらいは許容範囲のはずだ。


「ちぇすとーっ!!!!」


 チンピラが正拳突きを繰り出してくる。

 俺はその攻撃を食らい、後方へと吹っ飛ぶ。

 マズイな……。

 この騒動の収め方が分からなくなってきたぞ。

 このまま負けてもいいのだが、その場合はサーニャちゃんがピンチになってしまう。


「うおっ! すげーっ!!」


「さすがは兄貴だぜ!」


「ヨゼフ兄貴の仇は討ったぞぉ!!」


「へへっ! これで心置きなく、あの嬢ちゃんを手籠にできるってもんだ!」


「そうだ! その通りだ!」


「へへへ……。楽しみだぜ~!」


 チンピラたちは盛り上がっている。

 俺はこうして倒れ込んだままでいれば、この場をやり過ごせる。

 考えなしに首を突っ込んでしまったミスを考えれば、多少痛めつけられただけで終われば御の字だが……。

 もちろんそうするわけにはいかない。

 俺は敢えて治療魔法を使わないまま、ヨロヨロと立ち上がる。


「あん? おいおい、あいつまだやる気なのか?」


「マジかよ! 正気じゃねぇ……」


「おいおいおい……」


 チンピラたちはドン引きした表情を浮かべている。

 俺の強さ自体は大したことなくとも、しつこすぎて不気味さを感じているのだろう。


「お、俺の……」


「「……?」」


 チンピラたちが怪訝な顔をして、俺を見てくる。


「俺の女は……誰一人……! 死んでも、やらん!!!」


 俺は渾身の力を込めてそう叫んだのだった。

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