【コミカライズ】無職だけど転移先の異世界で加護付与スキルを駆使して30年後の世界滅亡の危機に立ち向かう

~目指せ! 俺だけの最強ハーレムパーティ~
猪木洋平@【コミカライズ連載中】
猪木洋平@【コミカライズ連載中】

1703話 俺は…取り返しのつかないことを…

公開日時: 2025年3月31日(月) 12:10
文字数:1,052

 戦いが終わった広場に、深い静寂が訪れていた。

 焼けた石畳の上には、ところどころに焦げた麺の破片が散り、うどん出汁の染みが暗い模様を描いている。

 戦闘の名残りを感じさせる香ばしい出汁の香りが、空気にかすかに漂う中――琉徳は、巨麺兵の中から這い出てきた。

 そして、呆然と立ち尽くした。


 倒れ伏した巨麺兵の残骸が、まだ微かに湯気を上げている。

 そこら中に剥がれ落ちた天ぷら装甲が散乱しており、戦の終焉を静かに物語っていた。


「……これを……俺がやったのか……」


 呻くような独白が、誰に届くでもなく、広場の石に吸い込まれていく。

 リーゼロッテが静かに歩み寄る。

 踏みしめるたびに、小さく麺が裂ける音がした。

 広場の中央で、彼女はほんの一拍、琉徳の表情をじっと見つめた。


「……終わりましたわね」


 その声には、勝者の驕りはなかった。

 ただ、深い慈しみと哀しみに似た響きがこもっていた。

 その声音が、琉徳の内側で眠っていた何かをそっと揺り起こす。


 琉徳は顔を上げた。

 目の奥に渦巻いていた黒いモヤが、いつのまにか晴れている。

 何かに憑かれていた男の面影はなく、ただ、何かを見失いかけた若き武士の素顔があった。


「俺は……俺は、いったい……なぜ……」


 震える声が漏れる。

 その声には、力もなく、ただ、迷子のような弱さだけが漂っていた。


「まるで、夢の中にいたような……気がする……。だが、それは夢じゃなかった……そうだよな……」


 リーゼロッテはゆっくりと頷いた。

 その仕草は、まるで冬の朝に灯された蝋燭のように、そっと彼の心を照らした。


「ええ。でも、目が覚めたのなら、それでいいんですわ。琉徳殿、あなたが本当に守りたかったもの、もう一度見つめ直してみてくださいまし」


「守りたかったもの……」


 琉徳の呟きは、まるで失くした鍵を思い出そうとするかのように、慎重だった。

 彼の手が、かつて操っていた巨麺兵の残骸に触れる。

 ヌルくなった麺の感触が、指先に哀しみとして染み込む。


「うどんは戦いの道具ではない……。俺はそんなことすら忘れていた。そして俺は……取り返しのつかないことを……」


 その言葉の後に続く沈黙は、広場全体を包み込む喪失感の音だった。

 彼は配下に命じて紅乃を闇討ちさせ、彼女の右腕を再起不能にした。


 彼女のうどんを打つ手は、いつも誰よりも誠実だった。

 嘘をつかない、真っ直ぐな手。

 だが、それを台無しにするよう指示したのは、他ならぬ琉徳である。

 今の紅乃に、もはやうどんは打てないはず。

 次期藩主の琉徳すら超えるうどん職人の未来は閉ざされ、素晴らしいうどんは永遠に失われたのだ。

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