俺は秘密造船所の警備兵と戦っている。
それなりの強者が10人いたが、やはり俺の敵ではなかった。
順調に撃破し、残るはリーダー格を含む2人だけになった。
「もう戦いをやめよう。これ以上やっても、お前たちに勝ち目はないぞ?」
俺は再び投降を呼びかける。
しかし、彼らはそれを受け入れない。
「黙れっ! お前こそ観念しやがれっ!」
「そうだっ! 俺たちの意地を見せてやるっ!」
彼らは最後の力を振り絞るように、一斉に飛びかかってきた。
カウンター攻撃を入れるのは容易いが、あまりやり過ぎるのも良くない。
「【剛拳流・動かざること山の如し】」
俺は闘気を開放し、防御に徹する。
彼らの攻撃が俺にダメージを与えることはなかった。
「なっ……何だこの力は……!?」
「まるで山を相手にしているようだ……!」
動揺する男たちに向けて、俺は告げる。
「悪いが、このまま終わらせてもらうぞ。威力は控えめにしておくから、頑張って耐えてみてくれ」
そう言って、俺は拳を構えた。
男たちが覚悟を決めたように構える中――
「【剛拳流・疾きこと風の如し】」
俺は一気に距離を詰める。
そして、二人の腹部に強烈な一撃を叩き込んだ。
「「ぐはぁっ!」」
男たちはそのまま倒れ込んでしまった。
「ふぅ……」
これで全員倒したな。
我ながら見事な戦いぶりだったと思う。
まぁ、相手もなかなかの手練れだったが、俺にとっては準備運動のようなものだな。
特に苦戦することなく勝利することができたので、満足感に浸っていた俺であったが――
「ぐっ……。このまま負けてられっかよ……」
「俺たちだって……使命があるんだ……!」
「この場所は俺たちが守る……!!」
なんと、10人の警備兵はまだ意識を保っていたのだ。
ダメージは負っているものの、立ち上がろうとしていた。
タフだなぁ……。
「使命――つまり、この秘密造船所を守り抜くということか?」
俺が問いかけると、リーダー格の男が驚嘆の声を上げた。
「お、お前! どこでその言葉を!?」
「ふっ……。我ら『ダークガーデン』の情報網を侮ってもらっては困るな。――というのは冗談で、真相はこれさ」
俺はここで、仮面を外した。
ついにネタバラシである。
謎の侵入者『ダークガーデン』の男の正体。
それは、話題のハイブリッジ男爵家当主であり、Bランク冒険者でもある。
あの有名なタカシ=ハイブリッジ男爵だったのだ――
「お、お前は……!」
「ふふふ。驚いたか。まぁ仮面を被っていたからな。お前たちが気付かなかったのも無理は――」
「だ、誰なんだ?」
「……え?」
「いや、だから、いったいどこの誰なんだ? 思わせぶりに仮面を取っていたが……」
リーダー格の男が首を傾げる。
他の面々も、俺の顔に心当たりがないようだ。
「俺だよ! 俺、俺!! どこかで見たことがあるだろ?」
「いや、知らないが」
「嘘だぁ!」
「本当だが」
「えぇ~……?」
なんか全然驚いてくれないんだけど……。
いや、確かに俺と彼らに面識はなかったのだが、知っていても不思議じゃないよな?
俺は男爵家の当主であり、Bランク冒険者だぞ!
特別表彰者として『紅剣』の二つ名も持っているし、各地の冒険者ギルドには顔写真付きの張り紙もあったりなかったりするはずだ。
「なぁ、本当に俺のことを知らないのか……?」
「あぁ。知らんな」
「俺も知らねぇ」
「俺もです」
誰も彼もが首を横に振る。
そんな馬鹿な……。
俺はそれなりに有名人だと思っていたのだが、もしかしてそうでもないのだろうか……?
うーん……分からん……。
あ、一つの可能性に思い当たった。
「この服装がマズかったのか?」
俺は今、黒い装備に身を包んでいる。
大きなマントを始め、全体的に黒っぽい色合いになっているため、普段のイメージと異なるのかもしれない。
ここは一つ、装備を変えて証明するとしよう。
「よし、ちょっと待ってろ」
俺は着替えるため、今着ている黒っぽい装備を脱いでいく。
そして、とりあえずパンツ一丁にまでなったときだった。
「むっ! お、お前は……!?」
「まさか……!?」
ようやく気付いてもらえたようだ。
しかし、パンツ一枚になったこのタイミングで気づくか?
まぁ、黒い装備による先入観がなくなっているだろうし、有り得なくもないか……。
「そう! 俺こそが――」
「変質者かっ!? 『オパンツ戦隊・レッド仮面』にそっくりだ!!」
「あの赤いブーメランパンツ……間違いねぇ!!」
「なんでやねん!」
思わず関西弁でツッコんでしまった。
なんでそうなるんだよ!
「待て待て待て! ほら、着替えは最後まで見ろって!」
俺は慌ててそう言う。
そして、急いで普段の服装に着替えていく。
「むむっ!? とても質の良さそうな服に……」
「あれはオリハルコンアーマーでは!?」
「そして剣は……真紅に輝く魔剣!!」
「気付いたか!? よし、今度こそ正解だろう!? さぁ、俺が誰だか言ってみろっ!」
俺が期待を込めて問うと、兵士たちは互いに顔を見合わせる。
そして――
「えっと……。もしかして……タカシ=ハイブリッジ卿でしょうか?」
「ああ、そうだ!」
「「……えっ!? ええぇぇぇっっ!?」」
俺が頷いた瞬間、彼らは絶叫したのだった。
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