「さて、みんな忘れ物はないな?」
「はい! 大丈夫です!!」
「ボクは、そもそも大したものは持っていてないしねー」
「お土産用の食材もたくさん買い込んだし、問題ないよ」
俺の言葉に、ミティ、アイリス、モニカがそれぞれ答える。
騎士団に別れを告げてから数日後。
俺と仲間たちは、いよいよ出発することになったのだ。
「こ、この王都で売られていた苗木も購入しておきました」
「ふふん。私は特に何をしたわけでもないけれど、いざ離れるとなると名残惜しいわね」
「そうだねっ! でも、いい思い出になったと思う!」
ニム、ユナ、マリアがそれぞれの思いを口にする。
盗賊団の捕縛作戦などはあったものの、王都訪問の本来の目的は俺が叙爵式に参加することだ。
彼女たち自身は、何か大きな目的があったわけではない。
思い思いの時間を過ごしていた。
「私は有意義な時間を過ごせました」
「そうですわね。わたくしも同じ気持ちです」
「リーゼさんは、おいしいものを食べていただけじゃないですか……」
「ええ。今回の滞在では素敵な料理をたくさん食べることができましたわ」
「……私は、各貴族家への挨拶回りで結構忙しかったのですけどね……」
リーゼロッテが満足げにしている横で、サリエがぼそりと呟く。
彼女は、ハイブリッジ男爵家を代表して各貴族家に挨拶回りをしてくれていたのだ。
当主本人の俺は、盗賊団の掃討作戦などで忙しかったからな。
彼女は頼りになる。
「拙者は、ずっと王都騎士団の鍛錬に混じっておった。大変有意義な時間であった」
「はい。私も勉強になりました」
「ふっ。お行儀のいい騎士サマの剣術も、悪くはなかったぜ」
蓮華、レイン、キリヤの3人もそれぞれ充実した日々を送れたようだ。
特にレインは、今回の滞在で通常の加護を得て、ミリオンズに加入したからな。
成長という意味では、俺たちの中でもトップクラスだ。
「それじゃ、そろそろ行くとするか」
俺たちは馬車に乗り込む。
もちろん1台には入り切らないので、数台に分けている。
俺たちは非常に大所帯だ。
先ほど口を開いた面々だけでも12人もいる。
後は――
「ふふふ。可愛い我が子たちよ。王都で学んだことを今後に活かすんだぞ」
「あうー」
「きゃっきゃっ!」
「あうあ!」
俺の実子である、ミカ、アイリーン、モコナが声を上げる。
3人が生まれたのは、8月中旬。
王都に向けて出発したのが、9月初旬。
王都のハイハイレースに出場したのが、9月中旬。
そして今日は、10月末頃だ。
生後2か月半といったところか。
日本における一般的な赤ちゃんの成長スピードはどれくらいだったかな?
……ええと。
確か、早ければそろそろ首がすわり始めるぐらいだったような気がする。
そして生後半年で寝返りや座ることが可能になり、生後9か月でハイハイができるといったところか。
だが、この3人の成長に関してその常識は必ずしも通用しない。
なにせ、生後1か月程度でハイハイレースに出場して好成績を収めたからな。
生後2か月半となった最近では、つたい歩きができそうな雰囲気すらある。
この調子なら、言葉を話し始めるのにもそれほど時間が掛からないかもしれない。
「ピピッ! 王都周辺のマッピングは完了済みです」
「人族の街は良く分からないけど、大きな街だったねぇ」
ミリオンズの人外構成員であるティーナとドラちゃんがそう言う。
「護衛としての任務を全うできて良かったです」
「まだ油断はすべきではないぞ」
「そうさね。領地に帰るまでが護衛任務だよ」
護衛兵のヴィルナ、ネスター、シェリーが言う。
ネスターとシェリーは、今回の滞在中に奴隷身分から解放された上、結婚まで果たした。
しかも、加護(小)も得ている。
今後もハイブリッジ家に末永く仕えてくれるだろう。
「みなさまの身の回りのお世話はお任せくださいませ」
「もちろん赤ちゃんの世話もします~」
オリビアとクルミナがそう言う。
彼女たちは、まだ加護(微)にとどまっている。
今回の滞在でほんのりと距離を詰められたし、ラーグの街に帰ってから改めてチャンスを伺うか。
「……護衛はボクたちに任せて……」
「役目はしっかりと果たすわ」
「花ちゃんも頑張っちゃうよ~」
雪月花が意気込む。
彼女たちとも、今回の滞在で距離を詰めることができた。
雪と花には加護(小)を付与できたし、月もあと一歩のところまでは来ている。
ここまでのメンバーは、ラーグの街から王都に行くときと同じである。
その他の一般兵も変わらず同行している。
違いがあるとすれば、先導してくれていたベアトリクスの一団がいなくなったことだ。
彼女はシュタインと共に、一足先にヤマト連邦に向かったからな。
そして逆に、行きにはいなかったメンバーも新たに加わっている。
「いよいよ、ハイブリッジ様のご領地に……。未熟なアタシですが、精一杯頑張ります!」
そう意気込むのはナオミだ。
彼女は王都騎士団の見習い騎士の職を辞し、ハイブリッジ家に仕えることを選んでくれた。
加護(小)も付いているし、得難い人材である。
「どんな街なんだろ……? ドキドキするね、お父さん」
「ああ。だが、どんなところだろうと、ハイブリッジ様のために尽力するだけさ」
少女ノノンとその父ニッケスがそう言う。
ノノンには加護(小)を付与済み。
ニッケスにはまだだが、彼はかつて”岩塊”の二つ名を持っていたCランク冒険者だ。
活躍が見込めるだろう。
もちろん、彼の妻も同行している。
「難しいことは分からないのです。ボクは料理の経験を積めればそれでいいのです」
「ラーグの街は行ったことがありません。あたしも楽しみにしています」
料理人ゼラとハーピィの少女レネがそう言う。
彼女たちはそれぞれ、モニカやマリアと仲を深めていた。
その結果、ラーグの街へ同行することになった。
ゼラは、料理の見識を深めて経験を積むため。
レネは、ハガ王国への帰りがてらラーグの街を観光するようなイメージらしい。
どうにか距離を詰めて、末永くハイブリッジ領の住民になってもらいたいところだ。
「はぁ……。とうとうオレも鉱山奴隷か……」
「私ももう終わりね……」
女盗賊のキサラと闇カジノの元案内人トパーズが呟く。
もちろん、彼女たちの仲間の盗賊たちも連れてきている。
西の森の奥地にある採掘場で働いてもらうのだ。
一般的に採掘場は過酷な環境であるため、彼女たちの表情は暗い。
だが、それも実際に働き始めたら変わるだろう。
ハイブリッジ家が管理する採掘場は、それなりに労働環境に気を使っているからな。
「ハイブリッジさまぁ……。どこまでも付いていきますぅ……」
俺に熱っぽい視線を向けるのは、31歳未婚の女性アビーだ。
違法賭博で捕まった彼女だが、いろいろあってお咎めなしとなった。
そして、尋問を担当した俺に惚れ込んでくれたようだ。
王都からラーグの街に引っ越すことにしたらしい。
彼女には加護は付いていないし、特別な技能もない。
だがまぁ、付いてきてくれることは悪いことではない。
やる気があれば、それなりに仕事は転がっているものだ。
ハイブリッジ領は急速に発展していることもあり、人手不足気味だしな。
最悪の場合は、俺が愛人として養ってやってもいい。
まだ手は出していないが、この様子だと拒まれることはないだろう。
「よし。我が領地に向けて、出発だ!!」
こうして、俺たちハイブリッジ男爵家の一行は王都からラーグの街に向けて出発したのだった。
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