風魔法の鍛錬から数日が経過した。
「マズいことになりましたね……」
「ああ。俺の判断ミスだよ。みんな、済まなかったな……」
ミティの言葉を受け、俺はそう謝罪する。
謝罪相手は、ミティ、蓮華、レイン、雪だ。
「いえっ! タカシ様は悪くありません! 悪いのは騎士団の奴らです! タカシ様のセンスを理解できないとは!!」
「……まぁたかし殿の感性はともかくとして、それに従ったのは拙者たちでござるからな。たかし殿に全責任があるわけではござらぬ」
「ううぅ……。こんな写真が出回っては、もうお嫁にいけません。ふぇへへ。はぁ、はぁ……」
「……冷静に考えて、未婚女性がしていい格好じゃなかったね。これは男爵さんの元に嫁ぐしかない……」
4人がそれぞれそんなことを言う。
俺たちを悩ませるもの。
それは、王都に張り出された手配書だった。
『WANTED! 王都に変態集団出現!!』
オパンツ戦隊を名乗る変態集団が目撃された。
情報を持つ者は、迅速に王都騎士団まで情報提供されたし。
もしくは、下記の人相書きに基づき被疑者を直接引き渡してくれても構わない。
レッド仮面―――懸賞金貨30枚(DEAD OR ALIVE)
グリーン仮面――懸賞金貨10枚(ONLY ALIVE)
イエロー仮面――懸賞金貨10枚(ONLY ALIVE)
ピンク仮面―――懸賞金貨10枚(ONLY ALIVE)
ブルー仮面―――懸賞金貨10枚(ONLY ALIVE)
「まさか、指名手配されるとは……。ご丁寧に写真付きで……」
レッド仮面――つまり俺だが、頭部を赤い女性ものの下着で覆い、股間に赤いブーメランパンツのみを穿いている写真が貼られている。
あのとき駆け付けてきたイリーナやレティシア、もしくは一般騎士に撮られてしまっていたらしい。
「タカシ様だけ懸賞金貨の枚数が多いですね! あの一瞬で誰が最も強大な存在かを見抜くとは、そこだけは騎士団の奴らを評価してやってもいいでしょう!!」
「それはどうかなぁ……。単純に、パッと見で一番ヤバいのが俺だというだけの話のような……」
頭部を女性もののパンツで覆っているのは、隊員全員の共通事項だ。
一方で、体のほとんどを露出しているのは俺だけである。
グリーン仮面やイエロー仮面たちは、ちゃんとヒーローコスチュームを着込んでいたからな。
この異世界では馴染みのない服だろうが、それでも俺の格好よりは遥かにマシだったはずだ。
誰が見てもぶっちぎりでヤバいのは俺だっただろう。
懸賞金貨も一番高い上、俺だけ『DEAD OR ALIVE』……つまり生死不問だし。
「下着で顔を覆っているので、私だと気づく人はまずいないでしょう。しかし、鋭い人なら気づく可能性も……? 『げへへ。お嬢ちゃん、騎士団に突き出されたくなければ……わかっているな?』なんて。はわわ……だめぇ……」
「おーい、レイン……?」
妄想の世界に入ってしまったレインに声をかける。
彼女は本当に被虐趣味があるよなぁ。
尻叩きの欲望だけじゃなくて、そんな方向性の欲望まであったとは。
何とか妄想だけにとどめてほしいところだ。
俺は大抵の趣味には付き合う。
だが、寝取られ関連の趣味だけは受け入れられない。
脳が破壊されてしまう。
「はっ!? す、すみません! つい!」
「……まぁ気持ちはわかる。こんな手配書を貼られたらね。ただ、今は落ち込んでいる場合じゃない。まずはこの窮地を脱しないと……」
雪がそう指摘する。
一見落ち着いているが、彼女も恥ずかしがっている様子だ。
まぁ、自分がパンツを被った写真を王都中に貼り出されたらなぁ……。
顔のほとんどが隠れている上、画質もさほど良くないのがせめてもの救いか。
よほど雪に詳しい者でないと、ブルー仮面の正体に気づくことはできないだろう。
そう、例えば――
「ちょっといいかしら! 雪がここにいるって聞いたのだけれど!」
バンッ! という音と共に、扉が開かれる。
入ってきたのは、月だった。
「……どうしたの? 月姉ぇ」
「次の狩りの打ち合わせをするわよ! ――あら? あなたたちもその手配書を見たのね」
「……う、うん。とんでもない変態集団が出たみたいだね……」
雪はすっとぼけることにしたようだ。
オパンツ戦隊の正体を知っているのは、隊員たち本人のみ。
あとは、カンの良いアイリスや聴覚に優れたモニカあたりが勘づいているかどうかと言ったところだ。
月が知っているはずもないし、わざわざ変態行為を教える必要もない。
「本当に凄まじい変態たちよね。特にこのレッド仮面とかいう奴の変態っぷりは尋常じゃないけど……ある意味、男だから変態行為もギリギリ理解できなくもないわ」
月がそんなことを言う。
男の露出狂は、彼女にとってまだ理解できる存在のようだ。
それが妥当な考えなのかは置いておくにして、少なくとも彼女はそう考えているのだろう。
「私が信じられないのは他の4人よ! 女なのに、こんな変態男に従って! 顔にこんなものまで被って! まったくもう! 恥ずかしくないのかしら!!」
月がぷんすか怒りながら言う。
そんな彼女だったが、ふと言葉を止めて手配書に見入る。
「……あれ? この人たち、どこかで見たことがあるような気がしてきたわね……?」
ギクッ!
ま、マズいぞ!
どこかで見たことがあるどころではない。
レッド仮面、グリーン仮面、イエロー仮面、ピンク仮面、ブルー仮面。
その正体は、今彼女の目の前にいる。
俺、ミティ、蓮華、レイン、雪だ。
ちっ!
カンの良いガキは嫌いだよ……。
「特にこのブルー仮面は、何度も見ている体付きのような……」
月が思案顔になる。
これはかなりヤバい。
月と雪は、花と合わせて三姉妹だ。
当然、妹である雪の体付きは何度も見ているのだろう。
このままでは気付かれるのも時間の問題か。
「……き、気のせいじゃないかな……?」
雪が冷や汗をかいている。
普段は無口でクールな彼女が焦っている姿は新鮮だ。
「うーん。そうかしら? 後少しで誰か分かりそうなのだけれど……」
月が手配書を持ったまま、首を傾げる。
このまま思いつくまで放置するわけにはいかないな。
「はいはい、この手配書は俺が預かるから」
「あっ、ちょっと! ハイブリッジ男爵!」
「ちょうど、王都騎士団には顔を出そうと思っていたんだ。何か有用な情報がないか聞いてくるよ」
有用な情報も何も、オパンツ戦隊の正体は俺たちなわけだが。
どうにか、『誓約の五騎士』のイリーナかレティシア中隊長あたりに話を通して、指名手配を取り下げてもらわないと……。
チンピラに襲われていた女性を助けるためだったと説明すれば、きっと分かってくれるはずだ。
そんなわけで、俺はみんなを残し、単身で騎士団のところに向かうことにしたのだった。
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