「た、高志くん……! 本当に待って!!」
「止めるな、桔梗。俺はあいつを……殺す!!!」
俺の中で闇が蠢く。
人に対して、これほどの殺意を抱いたのは初めてかもしれない。
記憶を失った俺ではあるが、そんな気がした。
「高志くん……!!」
桔梗の叫び声は耳に入らない。
俺は刀の柄に手をかけた。
「雷轟、覚悟しろ……!!」
「だ、駄目だよ! そこまですることない!!」
俺は刀を抜く。
その刃を、倒れている雷轟の首筋に向けた。
そんな俺を止めるべく、桔梗は俺の前に立ち塞がる。
「お願い……。いつもの優しい高志くんに戻って……」
「……いつもの俺?」
「うん……。私の知ってる高志くんは、人を斬らないよ……。特に、勝負がついている相手を斬ったりなんて絶対にしない……」
「…………」
俺は雷轟に突きつけていた刀をそのまま止める。
殺した方が確実だ……。
桜花藩の戦力を削ぎ、ミッションの達成確率を上げることに繋がる……。
何より、桔梗の貞操を奪った男を許すべきではない……。
そんな闇の声が俺の心に響いていた。
「た、高志くん……!!」
桔梗は必死に叫び続ける。
俺はしばらくの間、刀を握ったまま立ち尽くしていた。
……自分という存在が分からない。
記憶を失う前の俺は、いったいどのような人物だったのか?
どんな人たちと関わってきたのか?
敵対者を容赦なく殺すタイプだったのか?
性善説に基づいて敵対者の更生に期待するような甘い男だったのか?
全てが分からない。
……今の俺は、本当に俺なのか?
「高志くん……!」
桔梗が叫ぶ。
彼女は俺の胸に飛び込んできた。
そして、ぎゅっと抱きついてくる。
「……桔梗」
「私は、高志くんがどんな人でも、ずっと味方だよ……!」
「……」
「そうだ、えっと……」
「……?」
「あのね、おっぱい揉む……?」
桔梗は、恥ずかしそうに言った。
一瞬、聞き間違いかと思った。
明らかに場にそぐわない発言だったからだ。
「……何?」
「ご、ごめん……。変なこと言って……」
桔梗が顔を真っ赤にする。
しかし、その言葉の意味するところは理解できた。
彼女は俺の心を落ち着けようとしてくれているのだ。
美少女の魅力的な体は、全てを癒やす。
記憶喪失の俺でも、そんな世界の理は忘れていない。
「まだそんなに大きくないけど……。高志くん、稽古中とかもずっとおっぱい見てたから……」
「そうだな。ずっと見ていた」
「ううっ……!?」
桔梗が恥ずかしそうにする。
だが、彼女は俺の目をまっすぐ見てきた。
その瞳には決意のようなものが宿っているように見える。
「高志くんが望むなら……。私、何でもするよ……。それに、何だってしてくれていい」
「桔梗」
俺は彼女の言葉を遮る。
そして、その体を優しく抱きしめた。
「……ありがとう」
「た、高志くん……!?」
「大丈夫だ。俺はもう迷わない」
俺は刀を鞘に納める。
そして、雷轟の手足を拘束した。
……殺すのではなく、あくまで拘束だけにとどめたのだ。
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