(ならばやはり、政治的な支配が最有力になるよな)
那由他藩の支配層をそのまま存続させることで、住民の生活は一見変わらず、余計な混乱を生じさせない。
だが、その支配層をこちらが支配することで、実質的には完全な掌握が可能となる。
この方法なら、即時に支配を確立できる。
問題は、どうやって支配層を従わせるかだ。
やり方はいくつかある。
統治者のスキャンダルを掴んで脅す。
金銭的なメリット・デメリットを提示し、懐柔する。
あるいは――本人や近親者の生命を握る。
今回は、最後の手段が最も有効だろう。
人質――それが今、俺たちと共にいる5人の子供たちだ。
那由他藩の有力者たちの近親者。
武僧たちは命を捨てる覚悟を持っていた。
だが、子供を道連れにする覚悟はなかったらしい。
だからこそ、彼らは俺たちの言うことを聞くしかない。
湧火山藩に対しても、同じような手段で支配の確立を目指している最中だ。
これが、最も確実で、最も手っ取り早い。
「……分かっているとは思うが、大人しくしていろよ」
俺は、後ろを歩く5人の子供たちに声をかけた。
彼ら彼女らは、那由他藩の上層部の近親者たちだ。
中には、老僧の孫息子も含まれている。
全体的に年齢は低く、最年長でも10歳に届かないほどだ。
まだ、物事の善悪や、この戦の本質を理解するには早すぎる年頃だろう。
それでも――彼らの目には、敵意がある。
恐怖の色が混じりつつも、時折、俺を睨みつける視線が刺さる。
当然だ。
俺は彼らの故郷を奪い、親を脅し、そして今、こうして人質として連れ歩いているのだから。
年齢は全体的に低めなので、根気よく友好的に接していけば、将来的に加護の付与も狙えなくもない。
だが、現状の忠義度はかなり低めだ。
ここから加護(小)以上まで持っていくのはかなり大変だろう。
彼ら彼女らから嫌われるのはある程度受け入れて、いずれ加護(微)まで持っていければ御の字と考えよう。
今はそれでいい。
俺の目的は彼らに好かれることではないだから。
子供たちは俺の言葉に反応しなかった。
誰一人として声を発さず、ただ、静かに歩を進める。
沈黙が、梅雨の湿った空気に溶けていく。
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