「……? 動いてきませんね」
「やりづらいな。どういう理屈で浮いているんだ、あれは?」
「……『血統妖術』と言っていた。おそらく、門外不出の妖術を使っているはず。予測は困難……」
戦闘態勢に入った3人娘は、樹影の行動に警戒する。
彼女の妖術により、一度は撃破された蒼天、夜叉丸、巨魁の体が宙に浮いている。
具体的には、地面から30センチほど。
攻撃しようと思えば普通に届く距離だが、安易な攻撃をためらわせる雰囲気もある。
「ふふっ。あははははっ! さぁ、踊り狂え!! 【傀儡術・八雲之舞】!!!」
樹影が叫ぶ。
同時に、宙に浮かされていた蒼天たち3人が激しく動き始めた。
まるで操り人形のように勝手に動いている。
その動きは、人体としての限界を超えたものだ。
「な、なんだ!? これは!!」
「くっ……速い! 植物妖術の詠唱時間を稼ぐ隙が……」
「……駄目。対人剣術の常識が通じない……!」
流華、紅葉、桔梗の3人は、暴走する3人を相手に劣勢となった。
明らかに油断し手加減してくれていた前の戦いとは違う。
そして同時に、油断せずに正面から全力を出しているわけでもない。
3人の動きは変幻自在で奇々怪々。
予測が難しく、また速すぎてこちらの攻撃が当たらないのだ。
「く、くそっ! てめぇら、卑怯だぞ! 一度は負けたくせに……!!」
流華が蒼天たち3人に文句を言う。
だが、そのの声は届かない。
「無駄だ! このひよっ子どもは、私の支配下にある! 精神性は甘っちょろくとも、それなりに鍛えられてはいるからな! これが有効活用というものだ!!」
樹影が勝ち誇る。
彼女の『血統妖術』は凄まじく、3人の体を完全に支配しているようだ。
「くっ……! このっ……!!」
「……出し惜しみはなし。全てを出し尽くす……!!」
「オレだって、何とか突破口を探してみせるぜ!」
紅葉、桔梗、流華が奮闘する。
彼女たちはタカシの加護(小)の恩恵を受けている。
能力面での急激な成長に実戦経験が追いついておらず、突発的な事象への対応力はまだまだだ。
だからこそ、戦いの中で成長する余地がある。
そのはずだ……。
だが、樹影の『血統妖術』が、3人の成長を上回っていた。
「くくっ。目の前の相手だけに気をとられているな? 私への警戒が甘いぞ」
「なにっ!?」
「青二才を操って高みの見物をしている……とでも思ったか? そんなわけがなかろう。――【天華封陣】!!」
樹影が唱える。
次の瞬間、紅葉たちの周囲の地面に謎の紋様が現れた。
「な、なんだ……!?」
「くっ……! 動けない……!」
「……これは、まさか結界!? 男たちが動いた軌跡が、妖術の陣に……!」
紅葉たちが焦る。
3人娘の周囲が緑色に光り輝いている。
その光は、紅葉たちの体にまとわりつくように動き……。
「あ……」
「お……」
「う、うぅ……」
3人の体から力が抜けていく。
樹影の妖術により、力が封じられているのだ。
ほどなくして、彼女たちは完全に脱力し、そのまま地面に倒れてしまった。
「わははははっ! 無様だなぁ、小娘ども!! 私のことを『おばさん』と呼ぶからこうなるのだ!!」
樹影が高笑いする。
3人娘は辛うじて意識を保っているものの、立ち上がることができないでいた。
「く……。こんな妖術があるとは……。た、高志様……」
紅葉が最後にそう呟く。
だが、その声が高志に届くことはなかった……。
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