「くっ……。マズイぞ、これは……」
俺は頭を抱える。
なぜならば、俺の周囲には群衆が詰めかけていたからだ。
いや、それだけなら特に問題はなかった。
領主である俺が領民たちに囲まれるのは珍しいことじゃない。
「あの大樹はなんだ……?」
「知らないのか? 昨日、領主様たちが植えられていたんだぜ!」
「昨日植えたばかりであれほどの成長を?」
「知らねえよ! でも、なんかいきなり成長したらしいぜ! なんでも、魔力で成長するタイプの木だとか」
「それにしてもデカイな……」
群衆たちが口々に呟く。
西門付近にあるこの聖樹(?)は、とても大きい。
西門を利用する者なら、誰でもその存在に気付くだろう。
ま、それはいい。
外壁のすぐ外に植えてしまったという点では失敗だったが、致命的なミスというわけでもない。
問題は――
「それで、どうして領主様はあんなことに?」
「さぁ……?」
「あの名高いハイブリッジ男爵様だぜ? きっと、俺たちには理解できない高尚なお考えがあってのことに違いない」
「確かに……。今までの男爵様の行動を見ていれば……」
「そうか? 俺には、下半身を丸出しにした変態にしか見えないが……」
「なっ!? く、口を慎め! 不敬罪で捕まるぞ!」
群衆が騒ぎ出す。
彼らが指摘している通り、俺の下半身は丸出し状態だ。
とても目立つ大樹があり、その幹に下半身丸出しで俺が佇んでおり、それを群衆が取り囲んでいるといった図式だ。
一部は好意的に解釈してくれているようだが、一部は完全に犯罪者を見る目になっている。
俺を指差してヒソヒソと噂話をしている奴もいる。
なんで、こんなことになったのだったか……。
「そうだ、千だ。俺は昨晩、千と楽しんだのだった。いやしかし、あれは本当に彼女だったのか?」
彼女は、ベアトリクスやシュタインと共にヤマト連邦に向かっている。
こんな場所にいるはずがない。
「泥酔状態で見た夢か、はたまた幻か……? しかし、確かに俺には彼女の体を楽しんだ記憶と感触がある。俺のモノがどうして傷だらけになっているのかは疑問だが……」
俺は自分のマグナムに視線を落とす。
自慢のマグナムは、なぜか傷だらけになっていた。
夜の機能面に影響が出るほどの大傷はないが、ちょっとした擦り傷がたくさんある。
まるで、荒い木の表面にでも擦りつけたかのような状態だ。
「ふぅー。落ち着け、タカシ=ハイブリッジ。KOOLになれ。冷静に状況を分析するのだ」
俺は深呼吸する。
そして、周囲の様子を確認し、とある事実に気付いた。
「こ、この穴は……!?」
聖樹の幹に、横穴があいている。
それはちょうど、立った状態における俺の股間あたりの高さにあった。
直径は数センチぐらいだろうか。
そこからは、ドロリとした粘液が滴っていた。
樹液……なのか?
「よもや、よもやだ。泥酔していた俺は、この木の穴にモノを突っ込んだとでもいうのか?」
思わず顔をしかめる。
俺としたことが、なんという失態だ。
高潔なハイブリッジ男爵家当主の遺伝子を、こんなところで無駄遣いしてしまうとは。
ストライクゾーンの広さに定評のある俺だが、さすがに木は守備範囲外である。
「だが、しかし……。これはこれで……」
この気持ちはなんだろう?
木の幹にあいた横穴に入れるとは。
まるで、木の妖精とエッチをするかのようではないか。
「くっ! なんてことだ! 俺はこんなことで興奮を覚えるような男ではないはずだ!」
いかんいかん、俺としたことが。
このままでは、変態になってしまう。
蓮華との露出プレイやレインとの尻叩きプレイですら、ギリギリ許容される(?)レベルだというのに。
俺は自らの性癖を疑った。
だが、体は意志とは反して正直なものだ。
「ほう……。これはなかなかだな……」
気がつけば、俺は木の幹にあいた横穴の感触を楽しんでしまっていた。
どのようにしてあけられた横穴なのかは知らないが、表面はそれなりにざらついている。
常人であれば、快楽を得るどころかむしろ痛みを感じるであろうその感触が、今の俺にとっては心地よいものであった。
肉体強化や夜戦術のスキルを持つ俺は、モノの頑強さも増しているのだ。
「ふっ。まさか、木相手に欲情するとは……」
俺は自嘲気味に笑う。
だが、そんなときであった。
「タカシ様! お気を確かに!!」
「お館様! しっかりしてください!!」
ミティとレインの声が聞こえる。
ハッとして顔を上げると、そこには彼女たちの姿があった。
「おお……どうした? 二人共」
「どうしたって……。それはこちらのセリフです!」
「私はお館様がされることに口を出すつもりはありません。ですが、その……これはいくらなんでもやりすぎかと」
「ん? ああ、しまった!!」
二人の言葉の意味を理解し、俺は叫んだ。
そうだ。
今の俺は、群衆に囲まれた状態なのだった。
昨晩の出来事を思い出したり現況を理解したりするのに集中して、すっかり忘れていたぜ。
「す、すげぇ……」
「見たか? 今の……」
「さすがは領主様だぜ! 木に欲情されるとは!!」
「ありえねぇだろ、普通!」
「ぼ、僕の街にあんなヤバい奴がいたなんて……」
「おい、バカ! 聞こえたら殺されるぞ!! 俺は知らんからな!」
「お前だって言ってるじゃねーか」
群衆の間で囁かれる声が、俺の耳に入ってくる。
プラスの感情もマイナスの感情もあるが、共通しているのは『領主は想像以上にヤバい奴だった』という類の思いのようだ。
「こ、これはマズイな……」
「はい、そうですね。とりあえずここは、一刻も早く立ち去るべきかと……」
「私に任せてください。――【ワープ】」
レインの空間魔法により、俺たちはその場から一瞬で消え去る。
そして、群衆の視界外へと短距離の転移をした。
聖樹――あれは危険なものだ。
しかし一方で、上手く扱えばハイブリッジ男爵領にとって有益な存在になりそうな予感もする。
ニムによって適切に管理してもらうことにするか。
(ふふ……ビックリした……。昨晩、あんなにたくさん絞り取ったのに、また魔力をもらえるなんてね……。人間さん、これからも期待しているからね……)
足早に立ち去る俺の背後から、なにやら声が聞こえたような気がしたが、きっと空耳だろう。
とりあえず窮地を脱した俺は、ハイブリッジ男爵邸への帰路につく。
さて。
次の用事を済ませていくことにしようかな。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!