アビス・オクトパスと戦闘中だ。
奴の攻撃により、俺の左足の拘束が解けた。
「墓穴を掘ったな、タコ野郎」
「ギュルルルッ!」
俺の言葉に、奴は触手を伸ばして攻撃してきた。
それを俺は回避する。
そして――蹴りを放った。
「はあっ!!」
俺の蹴りがアビス・オクトパスに直撃する。
肉弾戦が有効ではなくても、全く意味がないわけではない。
「ギュッ……!?」
俺の蹴りを受けたアビス・オクトパスは苦悶の声を上げる。
奴の体勢が崩れた、今がチャンスだ。
「来い、鉄剣」
俺はアイテムボックスから、適当な剣を取り出した。
紅剣アヴァロンとかの方が高性能だが、海中で使うとサビそうだからな。
これぐらいが無難だ。
「くたばれ、タコ野郎」
「ギュルッ……!?」
俺はアビス・オクトパスの触手を斬り落としながら近づくと、奴の体の中心部分に剣を突き刺した。
海の中で剣を振り回すのは少々難儀だったが……。
それでも何とかなったようだ。
「ギュルルッ! ギィィイイッ!!」
アビス・オクトパスが苦しそうに悶える。
抵抗する触手の動きが鈍ってきた。
俺はその隙に、更に攻撃を加える。
「終わりだ」
最後にアビス・オクトパスの頭部を斬り裂く。
それと同時に――奴の動きが止まった。
どうやら、絶命したらしい。
「おおっ……」
「すげぇな……!!」
周囲にいた作業員たちが驚きの声を上げる。
俺はそんな彼らに向き直って、言った。
「大丈夫か? 怪我はないか?」
「お、おう……。大丈夫だ」
リーダー格の男が答える。
どうやら、治療魔法の出番はなかったらしい。
「そ、それにしても……兄ちゃんすげぇなぁ! こんな化け物を倒すなんてよ!!」
リーダー格の男は興奮した様子で言う。
その言葉に、作業員たちも賛同するように頷いた。
「大したことはない」
「謙遜するなって!! いやしかし……本当に助かったぜ……」
まぁ、俺がいなければ危なかったのは事実だろう。
この場にいるのは、作業員たちばかりだからな。
防壁を補修できていれば、地の利を活かして多少は戦えただろうが……。
補修の最中に襲われては厳しい。
「みんなが無事で良かったよ。……それより、思わぬご馳走が手に入ったな」
俺はそう言って、アビス・オクトパスの死体を眺める。
巨大なタコだ。
さぞや食い出があるだろう。
「なにっ!? アビス・オクトパスを……食べるつもりか?」
「ん? ああ」
リーダー格の男が尋ねる。
俺は頷いた。
「もしかして、毒があったりするのか? だったら無理して食べはしないが……」
「あ、いや……。別に毒があるって話は聞いたことないが……。人族ってのは、タコを食べるのか?」
俺はアビス・オクトパスを指さしながら言う。
スキル『異世界言語』で魔物名は『オクトパス』と翻訳されている。
それに、人魚族の面々はこいつを『タコ』とも呼んでいた。
地球におけるタコと細かい違いはあるだろうが、大きく異なる存在ではないだろう。
ならば、食用としても問題はないはずだ。
「そうか。タコを食べる種族もいるんだな……」
リーダー格の男はそう言うと、考え込んでしまう。
どうしたのだろうか?
「ま、無理することはない。俺一人で食べるよ」
「いや、待ってほしい! 俺にも……いや、俺たちにも食べさせてくれ!!」
「……ほう?」
「人族の兄ちゃんが生魚を食ったんだからな! 俺たちだって、人族の食文化に歩み寄る努力をすべきだろう!?」
リーダー格の男が叫ぶ。
その言葉に、他の作業員たちも頷いていた。
どうやら、限定的ではあるが人族と人魚族の相互理解が進んでいるようだ。
タコを食べるのは人族の食文化ではなく、俺――日本人の食文化なのだが、細かいことは置いておくか。
「うむ、いいだろう」
俺は頷く。
そして俺たちは、タコを調理し堪能した。
種族を超えた交流は、こうして順調に進んでいくのだった。
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