マリアたちと焼肉屋に行くことになった。
焼肉キングダムだ。
かつてミッシェルやマーチンに絡まれた思い出の焼肉屋である。
そこへ向かう道中。
「ガハハ! 焼肉だと!? いいな! 我も混ぜろ!」
「ガハハ! 俺も行くぜ!」
ギルバートとジルガが一行に加わった。
さらに。
「焼肉かい? せっかくだし、俺もご一緒させてもらおうかな」
「くくく。我が宿命の炎が肉を焦がす……」
ハルトマンとビリー、それにババンやレナウなども加わった。
かなりの大所帯だ。
焼肉屋に到着する。
中に入り、適当に座る。
俺たちミリオンズで固まって座ってもよかったが、せっかくなのである程度はバラけて座った。
俺の近くにはアイリスが座っている。
それに、マリア、ディーク、フェイもいる。
「さて。では、俺はカルビをもらおうかな」
「ボクはロースとサラダにするよ」
俺とアイリスがそう言う。
いつものパターンだ。
『マリアもお肉を食べる! いっぱい食べる!』
『マリア様。お野菜も食べましょうね』
フェイがマリアをそうたしなめる。
『ぶー。わかった!』
『いい子です。では僕は、ハラミをもらおうかな』
ディークがそう言う。
マリアを中心に、にぎやかな席になりそうだ。
肉を注文して、しばらく待つ。
何やら近くの席が騒がしい。
声が聞こえてくる。
どこかで聞き覚えのある声だ。
「くうう! どうせ俺なんかよお……!」
「荒れてるわねえ。ミッシェル」
「タカシは、成長が速すぎるんだよ。あれで剣や魔法まで使えるっつうんだからな。俺の立つ瀬がねえよ」
「今日はたくさん飲んで忘れなさい。あなたは強いわ」
「くうう!」
ミッシェルとマーチンの声だ。
それに、その他にも数人の取り巻きが同席しているようだ。
メルビン杯の残念会を開いているのかもしれない。
ミッシェルは、ガルハード杯にも出場歴のある中堅上位の武闘家である。
それなのに、やや小規模な今日の大会で1回戦負けを喫してしまった。
ステージ上では気にした様子ではなかったが、実は気にしていたのか。
俺の急成長はチートのおかげなので、少し悪い気もする。
「それにしても、私も出たら良かったかしら。私の進化した散桜拳を、ミティに見せてあげたかったわ」
「ミティも、かなり強くなっていたぜ。まあスピードはさほど変わっていなかったが。パワーと闘気量は増していた」
ミッシェルは多少落ち着いたようだ。
彼がミティのことをそう評する。
「あのときよりもさらに? それは末恐ろしいわねえ。やっぱり、出なくて正解かしら。ミッシェルの気持ちが少しわかった気がするわ」
マーチンがそう言う。
彼はスピードに秀でた武闘家だ。
ミティとの相性は、良いような悪いような微妙なところだ。
ミティが一撃を入れるのが先か、マーチンがじわじわとミティの体力を削り切るのが先か。
そういう試合になると思われる。
ミッシェルとマーチンの会話がひと段落する。
今度は、別の席が騒がしい。
モニカ、ビリー、ギルバート、ジルガの席だ。
エルメアもいる。
「ふふふ。この肉に、コショウをまぶして。30秒後にひっくり返す。これで完璧な焼き加減になる……」
モニカがそう言う。
彼女は料理人として、焼き加減にこだわりを持っている。
「くくく。まどろっこしい。我が奥義を見よ。奥義ーーブラック・サイクロン」
「ああっ。黒コショウをかけすぎだよ。ビリーさん!」
どうやら、ビリーが肉に大量のコショウをかけたようだ。
料理人のモニカとしては看過できないところだろう。
「ガハハ! どんどん焼くぞ! なあジルガ!」
「おうよ! ガンガンいくぜ!」
「ああああっ。焼いている肉の上に肉を乗せないで……。もうっ!」
ギルバートとジルガは、肉の上に肉を重ねてどんどん焼こうとしているようだ。
大雑把な彼ららしい。
モニカは制止しようとしていたが、途中で諦めたようだ。
暴走する彼らを止めようとするだけムダだろう。
せめて、彼女の分の肉だけでも上手に焼いて食べてくれることを祈ろう。
また別の席が騒がしい。
ミティ、ニム、ババン、レナウの席だ。
ギムルやカルロスも同席している。
「ふふっ。私のキングカルビ。もうすぐ焼けそうです」
ミティがうれしそうにそう言う。
「うぃー。はっはっは! そろそろ焼けたようだな! この肉はもらうぜぃ!」
「ああっ。それは私のです!」
「うぃー。早いもの勝ちだぜ!」
ミティとババンが何やら争っている。
焼けた肉を取り合っているようだ。
「わ、わたしはこちらのお肉をもらうことにしましょう。あとこのジュースと」
「僕もそうします」
ニムとレナウは遠慮がちに食べているようだ。
ミティとババンは、もう少し周りに気を配ろうな。
あんまりひどいようだと、後で注意に行く必要があるかもしれない。
そう思っていたが。
しばらくして。
「ひっく。追加のお酒を持ってこいれふ」
「僕もおかわりをお願いしますー」
ニムとレナウがそう言う。
2人とも酔っ払っているようだ。
ジュース感覚で、お酒を飲んでいたのかもしれない。
「ニ、ニムちゃん。お酒はこれ以上はやめておきましょう」
「レナウの坊主。お前もやめといたほうがいいぜぃ」
ミティとババンがそう言う。
「ひっく。いいから持ってこいれふ!」
ニムが力強くそう言う。
「ま、まあまあ……。落ち着いて……」
ミティがニムをなだめる。
ニムは酒癖が悪いようだ。
彼女には、あまり酒を飲まさないようにしたほうがいいかもしれない。
これからは気をつけよう。
さて。
周囲の様子をうかがうのもこれぐらいにしておこう。
俺たちは俺たちで、楽しく食べていこう。
肉をどんどん焼いていく。
『そろそろ焼けたかしら?』
フェイがそう言って、焼いている肉を取ろうとする。
『む! フェイ。僕の目によると、その肉はまだ少し早いぞ。あと20秒焼くんだ』
『あらそう? ありがとうね、ディーク』
ディークの二つ名は”鑑定”だ。
肉の焼き加減の把握は、お手の物といったところか。
湖水浴のときにも、フェイの体型の変化を見抜いていた。
……彼の目は、ろくなことに使っていないな。
もっと戦闘に役立てるとかはないのか。
まあ、俺が知らないだけで戦闘時にも役立てているのだろうが。
そんな感じで、肉をどんどん食べていく。
たくさん食べて、ひと段落した。
「ふう。いっぱい食べたな」
「そうだねえ。ボク、お腹いっぱいだよ」
俺とアイリスがそう言う。
『マリアもお腹いっぱい! でも、デザートも食べたいな!』
『マリア様。1つだけですよ』
フェイがそう言う。
『わかった! んーと。……このリンゴゼリーにする!』
『おいしそうですね。僕もそれにしようかな』
ディークがそう言う。
俺たちもそれぞれデザートを頼み、しばらく待つ。
「そういえば、マリアはなんでこの街にいたんだ?」
『あそびに来ただけだよ?』
俺の問いに、マリアがそう答える。
『ハガ王国とゾルフ砦は、観光客の行き来が盛んになっているのです。バルダイン陛下も、より盛んな交流を望んでおられますし』
『そうだ。姫であられるマリア様も、時々この街に遊びに来られている。それに、セリナのやつは親善大使としてあちこち回っているしな』
フェイとディークがそう補足する。
「セリナさんですか。ここから北にあるボフォイの街で、会いましたよ。マクセルさんたちと行動をともにしていました」
『あら。会われたのですね。それは奇遇でしたわね』
『彼女の活躍にも期待したいところだね。行動をともにしているマクセル君たちの腕も確かだし。……そういえば、マリア様。タカシ殿に1つ報告したいことがあるのでは?』
ディークがそう言う。
「報告?」
『あっ。あれのことだね。ちょっと待って。えーとね……』
マリアが何かを思い出すそぶりを見せる。
「タ……カシおにい……ちゃん。また……あそんでね」
マリアがたどたどしい口調でそう言う。
ん?
何か違和感があったような。
「へえ! 今、意思疎通の魔道具を使っていなかったよね? すごいね、マリアちゃん!」
アイリスがそう言う。
そうだ。
何か違和感があると思ったら、そういうことか。
俺は意思疎通の魔道具の他に、異世界言語のスキルも持っているから、気づきにくかった。
ハガ王国とサザリアナ王国が友好関係を築いてから、まだ5か月くらいだ。
このわずかな期間で、たどたどしいながらも言葉を会得したとは。
かなりの努力が必要だっただろう。
「ああ。また今度、遊びにいくよ」
俺はマリアにそう返答する。
『意思疎通の魔道具を併用しつつ会話の練習をすることで、効率的な異言語の習得が可能となるらしいですわ。王国の言語学者とやらが我らの国に来て、いろいろと教えてくれたのです』
『セリナのやつが、特に優先的に教えてもらっていてな。人族の言語の習得は、彼女がもっとも早かった。マリア様や僕たちも、最近になって力を入れ始めている』
フェイとディークがそう言う。
確かに、意思疎通の魔道具を併用すれば、異言語の習得もやや容易になるだろう。
イメージで言えば、自転車の補助輪のような感じだ。
マリアたちと意思疎通の魔道具なしで会話できるようになる日も近いかもしれない。
楽しみだ。
『あとね! 火魔法の練習もたくさんしているよ! 新しく武闘も習いたいな!』
「そうか。がんばっているんだな」
『タカシ殿の闘いを見て、目を輝かせていましたわ。剣術の代わりに、武闘を学ばれるのもいいかもしれませんわね』
『国に帰ったら、武闘を習い事の追加を、陛下にお願いしましょう』
フェイとディークがそう言う。
マリアの戦闘の方向性は、火魔法、剣術、武闘あたりか。
剣術と武闘はどちらがメインになるかわからないが、火魔法の練習は順調のようだ。
そんなことを話しているうちに、デザートが運ばれてきた。
『リンゴゼリーがきた! 食べよう!』
マリアの興味はデザートに移った。
俺たちも、デザートをおいしくいただくことにしよう。
そんな感じで、焼肉屋での食事会はにぎやかに進んでいった。
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