「よし、やるぞ!」
「はい! どうぞ!」
紅葉が元気な声を上げる。
よし……。
俺も覚悟を決めると、彼女の背中を指でなぞった。
「あぅっ!」
紅葉がビクッと反応する。
ふむ……。
やはり、かなりくすぐったいようだな。
だが、『エンプフィントリヒ・ユングフラウ』の効果で、俺の指の軌跡を正確に読み取っているはずだ。
さぁ、当てられるものなら当ててみろ!
俺は全力で指を滑らせる。
「ん……っ」
紅葉は身体をくねらせて、俺の指の軌跡から逃れようとする。
だが、俺は逃がさん!
「あ……っ、ん……っ」
「どうした? ちゃんと集中してくれ」
「わ、分かってます……。でも、くすぐったいんです……!」
「頑張って耐えてくれ。続いて、これはどうだ?」
「あぅっ!」
「こっちもくすぐったいか。では、これは?」
「あっ! そ、そこは……」
「ほう、ここが良いのか? なら……こうだ!」
「やぁっ!!」
紅葉が可愛すぎる声を上げる。
なんだかいけないことをしている気分になってくるが、実際には背中に指を這わせているだけに過ぎない。
「はぁ……。はぁ……」
紅葉の息づかいが荒くなってきた。
首筋までうっすらと赤く染まってきている。
「どうだ? もうギブアップか?」
「ま、まだまだです!」
「その意気だ」
俺は再び、彼女の背中を指でなぞる。
「ん……っ!」
紅葉は必死に声を抑えている様子だが、俺の指の動きに合わせて身体がピクン、ピクンと震えるのが可愛らしい。
その後も、新技『エンプフィントリヒ・ユングフラウ』の効果量をしっかりと確認するため、俺は心を鬼にして彼女の背中に指文字を書き続けた。
そして……
「はぁ、はぁ……。高志様、終わり……ましたよね?」
「ああ、終わったぞ」
紅葉は息を切らせながら、俺に尋ねる。
俺は彼女の背中から指を離すと、大きく息を吐いた。
肉体的には別に疲れていないが、精神的疲労が激しい。
とても可愛らしい紅葉を前に、自制心を総動員して平静を保つ必要があったからだ。
「では、紅葉。答え合わせだ。君の背中に書いた文字は……」
「えっと……そ、それは……」
「ん? ひょっとして、分からなかったのか?」
背中の皮膚感覚はさほど鋭敏ではない。
普通ならば的中させるのは意外に難しいものだ。
しかし、『エンプフィントリヒ・ユングフラウ』を発動中の今ならば分かると思ったのだが……。
俺の問いかけに、紅葉は首を振る。
「い、いえ! ちゃんと分かりましたよ!」
「では、答えてみてくれ」
「えっと……。す、『好き』……です」
「ふむ……」
紅葉が顔を真っ赤にして、背中に書かれた文字を回答する。
なるほど、『好き』か。
「正解だ。見事だぞ、紅葉」
「あ……ありがとうございます! わ、私も高志様のことはお慕いして――」
「頑張ったご褒美だ。今夜は紅葉が『好き』な食べ物をたくさん食べさせてあげよう」
「へ?」
紅葉が目を丸くする。
そして、次の瞬間には……。
「高志様の鈍感……」
彼女はそう言って、小さく頬を膨らませるのだった。
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