覚醒したタカシが幻影たちを撃破する少し前――

「むぅ……。巫女イノリからの連絡はまだ来ないのか？」

「はい……。数十年の貯蔵妖力が使用された形跡はあるのですが……」

　地下遺跡の守護者であるイノリからの連絡が途絶えて１時間。

　里長カゲロウを始めとする里の忍者たちは、彼女からの連絡を待っていた。

「まさか……イノリ様は侵入者に敗北してしまったのでしょうか？」

「ありえん。彼女の特殊な妖術は……対象の魂を精査し、そのあらゆる可能性を再現した幻影を使役する。対象者にもよるが、前例によるとその数は最低でも３つ。我らでも使役できる『鏡像カウンターアバターズ』の上位種だ」

「はい。それは承知しておりますが……」

「地下遺跡という特殊な力場において、確かな血筋と処女性を持つ巫女が、長い年月をかけて貯蔵された凄まじい量の妖力を消費して発動する秘技……。それが『英霊纏装・並行幻影の術』だ。『鏡像カウンターアバターズ』のように自己と対等な相手との１対１ですら、容易には勝てん。まして、自分とは異なる方向に進化した複数の自己を相手取るなど、私なら考えたくもない」

「仰る通りです。しかし、先日の侵入者の件もありますし……。妙な胸騒ぎがするのです」

　部下の言葉に、カゲロウは腕組みをする。

　そして、大きく溜め息をついた。

「ふぅ……。確かにな。先日の超人集団は厄介だった。この短期間に、あのレベルの侵入者が二組も攻めてくるとはな……。何かの前触れか？」

「はい、カゲロウ様。これはただの予感ですが、里の存亡に関わる一大事の可能性があるかと……」

　部下の言葉に、カゲロウがうなずく。

　そして、彼女はゆっくりと口を開いた。

「うむ……。これは、巫女イノリの敗北も想定して動く必要がありそうだな。里長としては不本意だが……」

「では、具体的はどのように……？」

　部下の言葉に、カゲロウが腕を組む。

　そして、彼女が口を開こうとした、そのときだった。

　ドッゴーン！！！

　グラグラグラ……。

　里の地下から強烈な爆発音が聞こえてきた。

　それと同時に、凄まじい衝撃波が地面を激しく揺さぶる。

「な……何事だ！？」

　カゲロウは思わず叫ぶ。

　部下も慌てて周囲を見渡した。

　見て分かる異変はない。

「わ、分かりません！　地下から爆発音が聞こえたように思えましたが……」

　部下はそう報告する。

　そして――

「あ、あああぁああっ……！」

「何ですか……この不吉な気配は……」

「ひぃっ！？　こ、この世の終わりです……」

「落ち着け！　お、おおお、落ち着いて状況を把握するのだ！！」

　カゲロウは部下を叱咤する。

　しかし、彼女自身も完全に動揺していた。

　彼女たちがこうなってしまうほどに強大なオーラが、里全体を覆っていたのだ。

　その発生源は――

「ふむ……。ここは何だか、見覚えがある村だな。ここに記憶を取り戻すヒントがあればいいのだが……」

　声が聞こえた。

　カゲロウは、声のした方を見る。

　すると、そこには１人の男が立っていた。

「あ……あな……あなたは……！」

「俺は高橋高志だ」

　動揺を隠せないカゲロウに対し、男は堂々とそう名乗ったのだった。