タカシたちが追跡している”黒狼団”の面々は、街道を馬車で走っていた。
「ひゃはは! チョロい仕事でよかったぜ! こんな大金が手に入るなんてよ!」
「ホントだよな! これでしばらくは遊んで暮らせるぜ!」
「王宮の警備も、大したことはなかったな!」
男たちは、上機嫌でそう言い合う。
彼らの目的は、王宮から盗み出した金貨10000枚で遊ぶことであった。
「これだけの金貨があれば、女を買い漁り放題だろ? 今から楽しみでしょうがねえな」
「そうだな! 数日もあれば、国を出られる。そうしたら、早速奴隷商に行くか!」
「ああ! そうしよそうしよ!」
彼らはそう言って笑い合う。
「女と言えば、攫ってきたコイツはどうする?」
「ああ、人質になるかもしれないと連れてきたコイツか……」
「んーっ! んんーっ!!」
賊に捕まった少女が、必死に叫ぶ。
叙爵式に伴って金庫周りの警備が薄まる中、臨時で配置されていた騎士見習い。
ナオミが賊に捕まってしまっていたのだ。
「うるせえな……。まあ、適当に売り払えばいいんじゃね?」
「いやいや、コイツはこれでも騎士の見習いか何かだろ? 足がつくじゃねえか」
「それは確かに」
「でもよう……。こいつ結構可愛い顔立ちをしているからな……。俺たちで楽しんでもいいんじゃね?」
「うむ……」
「ゲヘへへへ」
男たちが下卑た視線をナオミに向ける。
哀れな少女の運命はここに決まってしまった。
不法者集団の慰み者になる運命だ。
……と思われたのだが……。
「バカ野郎! いつも言っていることを忘れたか!!」
リーダーの男が一喝する。
「俺たち黒狼団は、”殺し”と”犯し”はしねぇ。それはこの世界で生きていくための掟だ。それを破れば、俺たちは破滅する」
「お、おう……」
「わ、わかったよ……」
男たちが気圧されたように言う。
「そう気落ちするなよ。なあに、金ならたんまりあるんだ。今回のは大きな仕事だったからな。これを機に足を洗ってもいいんだぜ? 商売女は買い放題だし、奴隷を買うのもいい。故郷に想い人でもいるんなら、追手をまいたところで帰郷すればいい」
リーダーが諭すように言った。
「そうだよな! 俺たちの未来は明るいぜ!」
「俺、無事に逃げ切れたら盗賊から足を洗うんだ……」
「俺はまだまだ続けるぜ! 金はいくらあっても困らねえからな!」
「ギャハハハハ!!」
男たちはそう言って、笑い合っていたのだが……。
その内の1人の顔色が、急速に青ざめ始めた。
「おい、どうしたんだよ?」
「……なんか変だ。嫌な予感がする……」
「はぁ!? 何を言ってるんだお前?」
「……俺には分かる。何かが来る……」
「だから、何が来ているっていうんだ?」
仲間が怪しげなことを言い出したため、リーダーの男が苛立ったように問う。
すると、彼はこう答える。
「……死神だ……」
「はぁ? お前は何を言っている?」
「……もうすぐ来る……逃げないと……」
男はガタガタ震えながら、仲間たちにそう警告を発した。
しかし、彼がそう言った直後。
馬車の行く手を阻むように、1人の男が姿を現したのだった。
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賊の捕縛に向けて、俺たちミリオンズで先行している。
俺とマリアの重力魔法、ジェイネフェリアが作製した魔法の絨毯、そしてミティや蓮華の風魔法のおかげで、俺たちの移動速度は速い。
そこらの馬車などとは比べ物にならない速度が出る。
こうなると、万が一の事故が怖いようにも思える。
日本の乗用車などとは違い、エアバックは付いていないからな。
だが、過剰に心配する必要はないだろう。
ミリオンズは身体能力や魔力に秀でた者ばかりだ。
その頑丈さは折り紙付き。
さらに、サリエ、俺、アイリス、マリア、リーゼロッテという治療魔法使いもいるし、ミティやティーナには回復ポーションも持たせている。
凄まじい大事故が起きない限りは大丈夫だ。
「おっ! 馬車が見えてきたぞ。あれが目的の”黒狼団”の馬車かな?」
「そのみたいだね。もうそろそろ追いつくよ」
「追いついたら、まずどうするの? 私の雷魔法で先制攻撃しとく?」
俺の言葉を受けて、アイリスとモニカがそう答える。
「いや、俺が行こう。雷魔法の影響で金貨が溶けたりしたら一大事だからな。他の魔法も同じだ。破損が怖い」
雷魔法の電流や、火魔法の熱で溶けるリスクがある。
土魔法や水魔法あたりでも、物理的な衝撃で破損するリスクは高い。
俺たちミリオンズは一流の魔法使いが揃っているが、だからこそその威力には注意を払うべきだ。
「ふふん。それは確かにね」
「で、ではどうするのでしょうか?」
ニムがそう問う。
「”これ”を使うのさ」
「あら? それは、わたくしの領地のアヴァロン迷宮で拾われた……」
「ああ。あの時点では使い道が思い浮かばなかったんだが、魔導技師のジェイネフェリアに見てもらってな。改造してもらったんだ」
俺はそう言って、賊への先制攻撃の準備を進めていく。
さあ、俺たちミリオンズの力を存分に味わうがいい。
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