僕様ちゃんはミリオンズの下っ端どもと戦っているです。
纏装術を発動したおかげで、赤髪の女性との剣戟では優位に戦えました。
このまま押し切ってやろうと思った矢先、上空に謎の生物が出現したです。
それはまるで空飛ぶクジラのようでしたが――威圧感が桁違いでした。
「ゴアァァアアアッ!!」
耳をつんざくような咆哮を放ちます。
ビリビリとした衝撃が周囲に走ります。
その衝撃で吹き飛ばされそうになった僕様ちゃんですが、なんとか踏ん張って耐えきります。
そして、改めてその怪物を見やります。
「こ、これはまさか……ドラゴン……!?」
僕様ちゃんは驚愕しました。
空を飛ぶ巨大生物といえば、真っ先に思い浮かぶのが『竜』なのです。
もっとも、その存在は非常にレア。
一般民衆からすれば、空想上の存在に等しいでしょう。
聖女たる僕様ちゃんですら、目撃したのは数度……。
実際に戦った経験は皆無です。
その巨体から放たれる圧倒的な存在感と迫力は、まさに伝説の通りです。
「ふふん。さすがは聖女リッカね? ドラゴンを見ても腰を抜かさないなんて驚いたわ」
僕の背後では、赤髪の女性が笑っています。
彼女の口ぶりや態度からして、この事態は想定外ではないようです。
つまりは計画的犯行ということでしょうか?
このタイミングで出現することも計算のうちだったのでしょうか?
……いいえ、そんなわけないです。
ドラゴンの行動を人が予測するなんて、不可能に近いのです。
ウェンティア王国のテイマーやファルテ帝国の竜騎士でも、このような芸当はできないはず。
「いったいどういうことなのです……? なんでこんなところにドラゴンがいるですか?」
「さぁ? どうしてかしらねぇ?」
ニヤニヤと笑う赤髪の女。
こんなやり取りをしている間に、ドラゴンは高度を下げています。
このままでは危険です。
「おい、お前たち! ここは休戦するです!」
「はぁ? 突然何を言い出すのよ?」
「いいから早く逃げるですよ! あんなものに襲われたら一巻の終わりです!」
「ああ……。それなら、私たちは心配ないわね」
赤髪の女が余裕たっぷりに言います。
どういうことかと問おうとしたとき――
タッ!
彼女が軽快に跳躍し、ドラゴンの背へと飛び乗りました。
「ちょっと! 何をしているですか!? 気難しいドラゴンにそんなことをしたら……」
慌てて叫ぶ僕様ちゃん。
しかし彼女はこちらを一瞥した後――
「ふふん。問題ないわ。このファイアードラゴンの『ドラちゃん』は、私たちの仲間なんだから!」
そう言いながら、笑顔で手を振ってくるのでした。
「な、なんですとぉぉおおおお!?」
僕様ちゃんは思わず絶叫します。
彼女から『ドラちゃん』と呼ばれたドラゴンが、こちらに向けて口を開きます。
「ちょっ……!」
さすがにヤバいと思った僕様ちゃんは、急いでその場から離脱しようとしますが――
「ゴアアアァッ!!!」
ドガァアアアン!!
ドラゴンの放った火炎ブレスが地面に直撃し、爆発を引き起こします。
その爆風によって、僕様ちゃんは吹き飛んでしまいます。
ゴロゴロと地面を転がり、やがて止まる頃には全身傷だらけになっていました。
「くっ……! 信じがたいですが、確かにドラゴンを手懐けているようですね。しかし、ブレスの威力は大したことなかったです!」
僕様ちゃんはそう叫びます。
半分は強がりですが、半分は真実でもあります。
ドラゴンのブレスといえば、一流の魔法使い何人分もの破壊力があるはずです。
それを考えれば、この程度の威力は大したことないと言ってもいいでしょう。
まぁ、人族の魔法と比べれば今のでも十分すぎるほど強かったですけど……。
僕様ちゃんの鋭い指摘を受けた女は、心外だと言わんばかりに眉をひそめます。
「あら? 今のは小手調べみたいなものよ? 本番はこれから……」
「へっ。どーだか、です」
「本当よ? だってドラちゃんが本気を出したら、森林火災になっちゃうもの」
「むっ……」
そこで僕様ちゃんは周囲に視線を送ります。
先ほどまで青々と茂っていた木々の葉が、ところどころ燃えていました。
しかし、青髪の女が水魔法で消火作業を行っています。
あの赤髪の女も、得意げな顔で腕を組んでいるので、本当に手加減していたのでしょう。
「なるほど……。お前たちのリーダーであるタカシ=ハイブリッジは、ここら一帯の領主でしたね。森の保全のために、被害を最小限に抑えたというわけですか」
「ええ、そうよ。森を焼くのは、私たちにとってご法度だから」
「ならば、やはりこちらが有利です。お前らが本気を出せない状況下で、僕様ちゃんから一方的に魔法を打ち込んでやるです。――【神の雷槌】」
バチチチッ!
僕様ちゃんは右手を掲げ、手のひらに稲妻を纏わせました。
それを見た赤髪の女は、ニヤリと笑います。
「ふふん。そう上手くいくかしら? 私たちの奥義を見せてあげる。いくわよっ、ドラちゃん!」
「ゴアアアァ!!」
掛け声と共に、一人と一匹の魔力が膨れ上がっていきます。
またブレスを?
いえ、先ほどの口ぶりではそれはなさそうです。
(いったい何をする気なんです……?)
僕様ちゃんは警戒を強めつつ、彼女たちの様子を伺うことにしたのでした。
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