「嘘だろ……? 桜花七侍が……」
「し、信じがたい……」
民衆たちの混乱は続いている。
理屈で言えば、俺が支配者であることに疑いの余地はないはずだ。
しかし、やはり現実を受け入れるにはもう少しの時間か、あるいは説得力のある事実が必要らしい。
「ならば、もっと分かりやすく証明してみせよう! この俺こそが、桜花藩を統べる者だと!!」
俺はそう叫び、体内にある妖力を練り上げていく。
妖力は魔力と異なる存在だが、ある程度の共通性はある。
記憶を失ってから、俺は『霧隠れの里』のカゲロウやイノリに最低限の手ほどきを受けた。
そして、その後もコツコツと自己鍛錬を続けてきた。
その成果が出たのか、『ステータス操作』で取得できるスキルの候補として『火妖術』が表示されるようになったのが数日前のことだ。
ただ、俺は『火魔法』のスキルを取得済みである。
目新しい『火妖術』に興味はあるが、わざわざ類似スキルを取得する優先度は高くない。
そのため、スキルポイントを消費してまで『火妖術』を習得することは見送り、引き続き自己鍛錬を続けていたのだが……。
先ほど新たに表示された『とある妖術』だけは別だ。
スキルポイントを消費する価値がある。
「春の息吹よ、花の面影よ。空を染める千の花弁、その舞で世界を彩れ――【桜散華】」
俺の妖力に応じ、桜花城の上空に巨大な陣が展開されていく。
そして、その陣から無数の桜色の花びらが舞い散り、城下町に降り注いだ。
「な、なんだこれは……!?」
「桜の花びら……? いったいどこから……」
「何もない天から降ってきたようだ……。まさか、これは噂に聞く血統妖術では……?」
「血統妖術って……桜花家に伝わる秘伝の? どういった妖術か、詳細を知った者は消されるという……」
城下町でざわめき始める。
やがて、そのざわめきは悲鳴へと変わっていった。
「桜花家に伝わる妖術を……どうして謎の男が使えるんだ!?」
「血統妖術は、藩主の正当性を示すもの。その妖術が使えるということは……あの男も桜花家の生まれだと?」
「いや、そんなはずがない……。先代や先々代に隠し子がいたという話は聞かないし……顔立ちもまるで違う……」
「まさか……何らかの手段で『奪った』のか!?」
民衆の騒ぎが大きくなる。
実際には、別に奪ったわけではない。
景春との戦闘が終わったぐらいのタイミングで、『桜妖術』が『ステータス操作』によるスキルの取得候補として表示されるようになっており、そのまますぐに『桜妖術』を取得しただけだ。
ま、わざわざ訂正するようなことでもあるまい。
謎の男が藩主になることに対して、拒否感を覚える者も少なくないはず。
ならば、得体の知れない存在として適度に恐れてもらった方がいい。
血統妖術を使えるという事実は、十分なインパクトがあっただろう。
だが、まだ取得したばかりということもあり高度な操作はできない。
今のように、攻撃力や特殊効果を持たない花びらを舞わせるぐらいがせいぜいである。
他の魔法と組み合わせてアレンジを加え、もう一押しのインパクトを与えておくことにしよう。
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