メルビン道場に入門するにあたり、俺たちの実力を見てもらうことになった。
モニカ、ニム、俺。
3人がそれぞれメルビン師範と模擬試合を行った。
3人とも負けてしまったが、なかなかの好評価をもらうことができた。
次は、ミティだ。
俺の敵をとると意気込んでくれている。
ミティとメルビン師範が対峙する。
両者、にらみ合う。
「いきます!」
ミティがさっそく組みにかかる。
しかし、メルビン師範はさっとよける。
「ぬはは! ミティの豪腕はわしもよく知っておる! バカ正直に組み合ったりはせんぞ! さあ、どうする!?」
こうなってしまうと、ミティには厳しい展開だ。
ミティの豪腕を活かせない。
初見で油断している相手なら、ミティが負けることはほぼないんだけどな。
ガルハード杯の予選では、レベッカにあっさりと勝っていた。
本戦の1回戦では、油断して大技を仕掛けてきたマーチンに対して、カウンターを決めて勝利を収めた。
ガロル村の淑女相撲大会でも、1回戦や2回戦は余裕で買っていた。
相手がミティの豪腕を知らず、正面から組み合っていたからな。
しかし、大会の後半になると相手も警戒してきた。
決勝のカトレア戦では、八艘飛びや張り手を駆使されて若干の苦戦を強いられた。
まあ地力が違うから、最終的にはミティが勝ったが。
今回のメルビン師範との闘いではどうなるか。
地力という点では、メルビン師範に分がある。
何らかの工夫なしではミティが勝つことは難しいだろう。
「この手は使いたくありませんでしたが……。やむを得ませんね」
ミティがそう言う。
何か奥の手があるようだ。
……何かあったっけ?
俺には心当たりがない。
まあ、モニカも俺の知らないところで”青空歩行”という技を会得していたしな。
ミティも俺の知らないところで新技を会得していてもおかしくはない。
ミティが驚いた顔をして、メルビン師範の後ろを指差す。
道場の出入り口の方向だ。
「あっ! あれは何でしょうか!?」
「むっ!? 来客か!?」
メルビン師範がそう言って、後ろを振り向く。
ミティがすかさず駆け寄る。
「スキあり!」
「ぬ!? ぬおおっ!?」
ミティのパンチを、メルビン師範がかろうじて防御する。
勢いを完全には殺しきれず、多少のダメージは負ったようだ。
「ふ、ふう……。肝を冷やしたわい! そんな戦術を使われるとはな! 工夫は認めよう!」
「く、くそう! 当たりさえすれば! 当たりさえすれば私の勝ちなのに!」
ミティがそう悔しがる。
「確かに、ミティの豪腕はかなりのものじゃ! ただし、力勝負なら絶対に勝てるというのは自分の力を過信しておるぞ!」
「そ、そんなことは!」
「ぬはは! 口で言ってもすぐには納得できないだろう! 体でわからせてやろう!」
メルビン師範の闘気が増幅していく。
「剛拳流、侵掠すること火の如し」
かなりの闘気量だ。
燃え上がるかのような闘気だ。
「構えよ、ミティ。いくぞい!」
「……っ! わかりました! 全力で迎え撃ちます!」
ミティも、彼の闘気量を見て少したじろいでいる。
しかし降参などはしないようだ。
まあ、今回の模擬試合は実力を見てもらう目的だしな。
今の彼女の全力を出し切ればいいだけの話だ。
メルビン師範とミティ。
両者、闘気を拳に込めながら接近していく。
「「剛拳流奥義。ビッグ……」」
同じタイミングで腕を振りかぶる。
「「バン!!!」」」
拳の正面衝突だ。
衝突の余波が少し離れた俺たちにも伝わってくる。
…………。
……。
数秒の後。
「がふっ!」
ミティがそう言って倒れ込む。
「ミティ!」
俺は駆け寄り、すぐに治療魔法をかける。
「うう……。私が力勝負で負けるなんて……」
ミティがそう悔しがる。
負けたことによる精神的ダメージはやや大きいようだが、肉体的なケガはそれほどでもなさそうだ。
無事にミティの治療が終わる。
「お、おい! タカシ! わしにも治療魔法をかけてくれんか!? 頼むわい!」
「わかりました。すぐに」
メルビン師範のところに向かい、彼に治療魔法をかける。
「ぜえ、ぜえ……。ふう! ミティの豪腕は知っておるつもりじゃったが、想像以上じゃった! 正直、危なかったわい!」
メルビン師範が息を切らせながら、ミティをそう評する。
「しかし、結果的には私が負けてしまいました……」
ミティがそうションボリする。
「それほど落ち込む必要はないぞ! お前たちにはまだまだ伸びしろがあるからな! これからみっちり鍛えてやるわい! 風林火山をマスターすれば、剛拳流の秘奥義にさえいずれ手が届くかもしれんぞ!」
メルビン師範が上機嫌にそう言う。
「さて! 最後にアイリスとじゃな! エドワードの教え子の力、存分に見せてもらおうとしよう! ……ちょっとその前に、休ませてくれ!」
メルビン師範がそう言って、息を整える。
この4連戦で、体力をかなり消耗したようだ。
全盛期からは体力が落ちているだろうしな。
こればかりは仕方がない。
闘気量も落ちていると以前聞いたことがある。
今のミティとの試合で闘気を大量に消費したことだろう。
次のアイリスには勝機がある。
まあ、実力を見てもらうことが目的なので勝ちにこだわる必要もないのだが。
息も絶え絶えにしつつ休憩するメルビン師範に、ある男が近づいていく。
「失礼する。メルビン殿。アイリス君の相手は、私に任せてもらえないだろうか?」
エドワード司祭だ。
さっきまではいなかったはずだが。
来たところだろうか。
彼は聖ミリアリア統一教会の武闘神官だ。
武闘神官見習いであるアイリスの上司である。
前回のガルハード杯ではマスクマンやストラスに勝っていた。
かなりの実力者だ。
「おお。エドワード殿。合同鍛錬の時間には少し早いようだが?」
「ああ。何やら強い新人が現れたと聞いてね。急いでかけつけたというわけだ」
「なるほどの。そちらのモニカとニムは、確かにかなり期待できそうな新人じゃ! それに、タカシとミティも力を上げておる!」
「ほほう。それはそれは」
エドワード司祭が感心したような顔でこちらを見る。
「アイリスの成長を見るのも楽しみじゃったが、前の4人が想定以上に強すぎて体力を使い果たしておったところじゃ! ここはエドワード殿に任せるとしよう!」
アイリスの腕試しの相手は、エドワード司祭にバトンタッチされた。
モニカ、ニム、俺、ミティ。
全員がメルビン師範に負けてしまっている。
最後のアイリスは、エドワード司祭に勝つことができるのか。
期待しよう。
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