「……と、こんな感じですね。『だるまさんが転んだ』の概要は理解できましたか?」
「なるほど……。チョコラテ・イングレスのことでしたか」
「あら……。似たようなものを知っておられるのですね。詳しく説明して損しました」
女がニヤリと笑う。
「では、説明も終わったところで……さっそく勝負と参りましょう」
「……分かりました」
「だーるーまさんがー……」
「――【ワープ】!」
レインが小声で呟く。
次の瞬間、彼女は女性の背後へワープしていた。
そのまま女性にタッチする。
「な……!?」
「はい、終わりました」
「ば、馬鹿な……! 近づいてくる気配なんて、微塵もなかったはず……!」
女が狼狽している。
レインは小声で転移魔法を発動していた。
そのため、女は自分が負けた理由がすぐには分からなかったのだ。
「いや、ひょっとして今のは……。転移系の波長が微かに……」
「それでは、私は先を急ぎますので。失礼いたします」
レインは何事もなかったかのように歩き出す。
背後から声が聞こえるが、彼女はスルーした。
だが――
「ま、待ちなさい!」
「…………」
「待って! いえ、待ってください!! 本当に待って!!」
「……はぁ」
レインが振り返る。
そこには、まだ女性が立っていた。
まだ何かあるのだろうか?
勝負前の取り決めでは、レインが勝った場合はそのまま通行してよいという話だった。
その取り決めを破ろうというのだろうか?
所詮は口約束のため強制力など何もないとはいえ、あまり褒められた行為でないことは確かだ。
「まだ、何か?」
「い、いえ……その……ですね……」
「はい」
「……あの……私たちに力を貸してくれませんか?」
「はい……?」
レインが首をかしげる。
力を貸してくれ……?
「一体、どういうことでしょうか?」
「……実はですね。私たちは今、危機に瀕しているのです」
「はぁ……」
レインが訝しむ。
通りすがりの人が困っていても、別に助ける義理などない。
そんなことより、彼女が忠誠を誓うタカシの無事の方が何倍も重要だ。
だが……
「いいでしょう。とりあえず、話だけは聞きます」
「あ、ありがとうございます!」
「礼には及びません。お館様ならそうした……。ただそれだけのことですから」
レインが告げる。
彼女が他のメンバーと合流するのは、少し先のことになりそうだ。
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