俺はネルエラ陛下と対峙している。
「ふむ。なかなか良い構えだ。斬魔一刀流か」
「……なぜ分かるのです?」
「はっはっは! 我もかつて斬魔剣を修めた身だからな! さしずめ、貴様は我の後輩といったところだな」
「なるほど。それは光栄ですね」
「うむ。では、ゆくぞ!」
言うなり、ネルエラ陛下は凄まじい速度で踏み込んできた。
一瞬にして間合いを詰めてくる。
「くっ……」
ドカッ!
「ぐおっ!!」
反応が遅れた俺の腹に蹴りが入る。
強烈な一撃により、俺は吹き飛ばされてしまった。
「はっはっは! まだまだいくぞ!」
ズガガガッ!!
「がはっ!!」
今度は連続攻撃が襲ってきた。
なんとかガードするが、ダメージが大きすぎる。
俺は地面を転げ回ってしまった。
「はっはっは! どうした? こんなものなのか? この程度では、認めることはできんな」
「ちぃ!!」
俺は素早く立ち上がり、反撃に転じる。
認めるというのが何の話なのか分からないが、このまま負けるわけにはいかない。
「ほう! 速いな。だが……」
パシッパシッ!
俺の拳は簡単に受け止められてしまう。
そして、そのまま投げられてしまった。
「ぐぅ……」
俺は受け身を取れず、背中から地面に叩きつけられる。
「ハイブリッジ……!」
ベアトリクスが心配そうに呟く。
彼女の名誉のためにも、俺があっさりと負けるわけにはいかない。
「はっはっは! まだ立ち向かってくるか! いいだろう! 全力で来い!」
「言われなくても!!」
俺は即座に起き上がり、魔力を開放する。
国王を相手に全力を出すのもどうかと思って出し惜しみしていたが、そうも言ってられない。
「はあぁ! 術式纏装”獄炎滅心”!!」
俺は纏装術を発動させる。
身体能力が大幅に向上し、火魔法の攻撃力が上がり、さらには体が超高熱となる。
「む? なんだ? その力は?」
「くらえっ! 【五百本桜】!!!」
俺は数多のファイアーボールを生成し、四方八方からネルエラ陛下を攻撃する。
ドドドドド!!!
これだけの攻撃を受ければ、いくらネルエラ陛下とはいえ無傷とはいかない。
このまま畳み掛けてやる。
「はぁあああっ! 【フレアドライブ】!!」
俺は身体能力と火魔法の力で一気に加速し、拳を振りかぶる。
「おお! 素晴らしい速さと威力だ!」
「そこだぁっ!!」
俺の渾身の右ストレート。
それがネルエラ陛下の顔を捉えた。
……かのように見えた。
バリッ!
俺の拳は空を切った。
いや、正確に言えば……。
「なっ! 実体がない!?」
「はっはっは! そうとも。我に打撃や斬撃は効かぬ。炎は少しばかり効いたがな」
物理ダメージ無効?
そんなことがあり得るのか?
だが、実際に俺には殴った感触がなかった。
「逆に、我から貴様に触れることはできるのだがな」
「う!?」
ネルエラ陛下の手が伸びてきて、俺の左右の腕を掴む。
かなりの握力と腕力だ。
振り解けない。
「貴様がどう足掻こうと抵抗できない、圧倒的な力。そこで覚える絶望。全ての希望が潰えることは、死と同じ……」
「うあぁ!!!」
彼の手から雷撃のようなものが流れ込み、全身を駆け巡っていく。
これはキツイ……。
俺は大ダメージを受け、膝を付いてしまった。
「人にとって……死は最大の恐怖! だから人は地に顔をうずめ、強者に慈悲を請う!」
「ぐぅうう……」
ネルエラ陛下が俺の顔を踏みつけてくる。
屈辱だ。
そしてそれ以上に、物理的なダメージが大きい。
すごい力だ。
雷魔法はともかく、彼にこれほどの身体能力があったとは……。
マズイぞ……。
「ハイブリッジ! もうよせ! 貴様は十分に戦った!!」
ベアトリクスの声が響く。
確かに彼女の言う通りかもしれない。
ネルエラ陛下は強い。
俺では勝てない。
だが、ここで引くわけにはいかないんだ!
「うおおおおぉっ!!!」
俺は最後の力を振り絞り、立ち上がる。
同時に、体の中で爆発的に魔力が高まっていくのを感じた。
「む?」
さすがの彼も驚いたようだ。
俺から溢れ出る膨大な魔力。
それに圧倒されたのか、俺から距離を取った。
「はっはっは! また何か見せてくれるのか!」
「悪いが、見て楽しむ余裕はもうないと思うぞ。この紅剣アヴァロンを抜いちまったからな」
「なに……?」
ネルエラ陛下の目が大きく見開かれる。
さっきまでの好戦的な態度は消え失せた。
俺は剣を天に掲げる。
「渇け……」
真っ赤に輝く刀身は、俺の言葉と魔力に従い、さらに輝きを増していく。
「アヴァロン」
その瞬間だった。
俺の魔力が極限まで高まり、周囲の空間が歪んでいく。
「なんだ? 何が起きている!?」
ネルエラ陛下が叫ぶ。
だが、もう遅い。
俺の領域は既に展開された。
「滅せよ!!」
俺は紅剣を振り下ろす。
「【炎魔煉獄覇】!!!」
次の瞬間、領域内の辺り一面が灼熱の世界へと変わった。
「ぐおおおぉっ!?」
ネルエラ陛下が悲鳴を上げる。
彼は一瞬にして火だるまになった。
打撃や斬撃を無効にする彼でも、燃焼は別だ。
「こ、こんなことが!? こんなバカなことがあってたまるか! ぐああぁーっ!!」
彼は断末魔を上げ、燃えていった。
消し炭のようになった彼は、その場に倒れ込む。
「ふぅ……」
なんとか勝ったな……。
俺は安堵のため息をつく。
「バ、バカな……。父上が……」
ベアトリクスは呆然としている。
あれ?
そういや、さすがに殺したらマズかったんじゃね?
ネルエラ陛下が強すぎて、手加減をする余裕が一切なかった。
国王を失った国がどうなるのか。
これはヤバいぞ……。
「タカシ様! ご無事ですか!?」
ミティが慌てて駆け寄ってくる。
「あぁ、体は大丈夫だ。しかし、ネルエラ陛下が……。サリエ、治療できるか?」
卓越した治療魔法の実力を持つサリエなら、消し炭状態のネルエラ陛下を復活させることができるかもしれない。
「ええっと。そのことなのですが……」
ミティがなぜか気まずそうな顔をする。
「ん? どうかしたのか?」
「はい。あの……。これをご覧に……」
ミティが一枚の紙切れを差し出してきた。
そこには、達筆な文字でこう書かれていた。
『ドッキリ大成功』。
……は?
「どういうことだ?」
俺は混乱して聞き返す。
「いやー、想像以上にやるねえ」
「……それでこそ我が見込んだ男よ。だが、これではやはり父上の企み通りに……」
審判のイリーナやベアトリクスが同じような紙切れを掲げつつ、そんなことを呟いた。
「はっはっは! ハイブリッジ、貴様の人柄と実力を見極めるための作戦だったのだよ。想定以上の火力に、一瞬ヒヤリとさせられたがな」
突然聞こえてきた声。
それは、完全に消し炭となったはずのネルエラ陛下の声だった。
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