模擬試合の続きだ。
俺たちミリオンズ対エドワード司祭。
残念ながら、ミティはやられてしまった。
残った俺、アイリス、モニカ、ニムで戦略を立て直す必要がある。
「まだまだ。俺たち4人でならやれるぞ!」
俺はそう言って、みんなを鼓舞する。
「ふふふ。たかが1対4で私に勝てるつもりとは。なめられたものですね。あっさりと倒してあげましょう」
「むっ。き、聞き捨てなりません。調子に乗らないでください!」
エドワード司祭の言葉に、ニムがそうかみつく。
まあ、1対4でもなお勝てないと思われていたら、心外だよな。
「その通り! 倒されるのはそっちだよ! 行くよ、みんな!」
アイリスの言葉を合図に、4人でエドワード司祭に駆け寄る。
4人で翻弄しつつ、攻撃のスキを探す。
「やる気満々ですばらしいですね。しかし、気持ちだけで勝てるものではありません」
エドワード司祭がそう言って、こちらをにらむ。
俺たちの動きを見極めようとしているようだ。
そして。
「……重撃一棍!」
エドワード司祭が棒術による渾身の攻撃を繰り出してくる。
ターゲットはニムだ。
幼い彼女から狙うとは。
容赦がない。
ドガン!
エドワード司祭の攻撃がニムにヒットする。
これは……。
「こ、これがわたしのロックアーマーです。すばらしい一撃でしたが、岩の鎧の前にはどうということはありませんね」
ニムがそう言う。
これは武闘だけではなく実戦形式の模擬試合なので、魔法の使用もありとなっている。
彼女のロックアーマーは、エドワード司祭の一撃を見事に防いだようだ。
ただの岩であれば、エドワード司祭ならば砕くことも可能だろう。
しかし、ニムの土魔法は中級で、MPも潤沢に使用している。
また、闘気術の応用により岩の鎧の強度がさらに増している。
さすがのエドワード司祭も、今のニムの岩の鎧を砕くことは難しいだろう。
まさに鉄壁の防御だ。
「ワン・エイト・マシンガン!」
「迅・砲撃連拳!」
エドワード司祭の攻撃のスキを突いて、俺とアイリスで攻撃を仕掛ける。
「ぬうう!」
エドワード司祭が防御に専念する。
俺とアイリスの連撃では、彼に大きなダメージを与えられないことはわかっている。
狙いはもちろん別にある。
「……パラライズ!」
モニカの手のひらから電流のようなものがほとばしる。
雷魔法レベル2のパラライズだ。
威力はさほどでもないが、敵を麻痺させる効果を持つ。
魔法がエドワード司祭にヒットする。
「ぐむ!? こ、これは……」
エドワード司祭は体が痺れているようだ。
膝をつく。
「俺たちをなめた報いを受けてもらいますよ!」
「降参するなら早めにね!」
俺とアイリスはそう言って、麻痺しているエドワード司祭に攻撃を加えていく。
ただし、麻痺はしていても聖闘衣による耐久力は健在のようだ。
なかなか大きなダメージを与えることができない。
「ちっ。埒が明かないな」
「だね。少し大技を使おうか」
俺の言葉に、アイリスがそう言う。
さらにモニカも加わり、俺たち3人が闘気を高めていく。
「剛拳流奥義。ビッグ……」
俺はエドワード司祭に攻撃を仕掛けようとする。
アイリスとモニカも大技の構えだ。
しかし。
「……神の御業にて我を癒やし給え。ヒール」
「なにっ!? しまった!」
エドワード司祭は治療魔法も使えたのだった。
彼の麻痺が解除される。
「はああ! 十六夜連棍!」
「ぐあああっ!」
「「きゃっ!」」
俺、アイリス、モニカ。
俺たち3人は、エドワード司祭の攻撃により弾き飛ばされてしまった。
俺たちは大技のために攻撃に闘気を割いていた。
とっさに防御に闘気をまわす余裕がなかったため、受けたダメージは大きい。
しばらく立てそうにない。
「さて。あとはニム君ですね。降参しますか?」
エドワード司祭がニムのほうを向く。
戦闘の継続が可能なのは、あとは彼女だけだ。
「わ、わたしはまだやれます。わたしにはロックアーマーがあります。攻撃してもムダですよ」
ニムがそう言う。
その通りだ。
彼女の防御を崩せない限り、エドワード司祭に勝利はない。
何とか粘ってくれ。
もう少ししたら、俺が治療魔法により自身を治療して、戦線に復帰できるかもしれない。
「ふふふ。ニム君のその鎧は、確かにかなりの強度です。しかしそれならそれで、やりようはあります」
エドワード司祭がそう言って、闘気を高めていく。
「聖ミリアリア流奥義。”発勁” 」
「うっ!」
エドワード司祭がニムの岩鎧に触れたかと思うと、ニムがうめき声を上げて倒れた。
岩の鎧越しに衝撃を与える技か?
どういう理屈だろう。
残念ながら、これで俺たちミリオンズは5人全員が戦闘不能にまで追い込まれてしまった。
勝負ありだ。
「さて。模擬試合はこの辺で終わりにしましょう」
エドワード司祭がそう言う。
彼が治療魔法の詠唱を始める。
「……神の御業にてかの者たちを癒やし給え。エリアヒール」
癒やしの光が俺たちを覆う。
それぞれが立ち上がり、ステージの中央付近に集まる。
「エドワード司祭。治療魔法をかけていただき、ありがとうございます」
「はあー……。それにしても、まさか1対5で敵わないなんてね。ボク、また自信をなくしそうだよ」
「いえ。そう落ち込む必要はありませんよ。想像以上の戦闘能力と連携でした。それに、タカシ君には剣や火魔法もあるでしょう。お互いが本当の意味で全力を出せば、結果は変わるでしょうし」
エドワード司祭がそう言う。
「剣や火魔法なしでもエドワード司祭に勝てるよう、精進します。……ところで、俺とアイリスの結婚の件は……?」
1対5で負けるような軟弱な男に、アイリスはやれん!
とか言われないだろうか。
「ああ。その件ですか。もちろん祝福しますよ。君たちのパーティならば、安心してアイリス君を任せられます。まあもとより、私に最終決定権はありませんしね。当人同士の意思が何よりですので」
エドワード司祭がそう言う。
じゃあ今の模擬試合は何だったのかと言いたくなるが。
まあ、これはこれで必要なことだったと思うことにしよう。
実力を測った上で安心して任せるのと、そうではないのとは、やはり気持ちが違ってくるのだろうし。
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