秘密造船所での打ち合わせを終え、宿屋『猫のゆりかご亭』に戻った俺。
すると、そこではチンピラとサーニャちゃんが揉めていた。
チンピラが所属しているマフィアが、彼女へ法外な利息で金を貸し付けていたようだ。
最初は果敢に反論していた彼女だったが、徐々に追い詰められて泣きそうになってしまう。
俺は咄嵯に彼女の前に飛び出すと、チンピラと対峙した。
「そこまでだ! 悪党ども!!」
「ああん? なんだてめえは?」
チンピラが俺にガンを飛ばしてくる。
彼の周囲には、仲間らしき男が数人いる。
(ガタイはいいが、鍛錬が足りないな……)
闘気も魔力も大したことがない。
日常生活における力仕事や一般人とのケンカ程度なら余裕で対応できるだろう。
だが、一流の冒険者や魔物と戦うには心許ない。
(俺なら一瞬でボコボコにできるが……。よく考えるとマズイんだよな……)
迂闊だった。
目立たないようにと思っていたのに、気付いたら飛び出してしまっていた。
「か、彼女に手を出ひゅな……。お、俺が相手です……!」
俺は噛みながらも、なんとか威厳のある態度を取り繕おうとする。
いや、実際に噛んでいるんじゃないけどな?
数人のチンピラと対峙して、あまりにも堂々としていたら目立ってしまう。
こうして『臆病な一般人が勇気を振り絞って割り込んできた』ぐらいのシチュエーションなら、過剰には目立たないはずだ。
「……ぷっ。何言ってやがる? ただのザコじゃねえか!」
「まあまあ兄貴……。こんなヤツ、さっさと片付けてお楽しみの時間にしましょうよ……」
チンピラがニヤニヤしながら言った。
それを皮切りに他の男たちも調子に乗り始める。
「そうだぜ! ザコは引っ込んでろよ!!」
「いいや、俺たちに歯向かった時点で制裁確定だぜ!」
「おい、コイツを囲んじまえ!」
さすがはチンピラ。
ずいぶんと手慣れている。
個々の戦闘能力は大したことなさそうだが、『格下を取り囲んで逃さないようにする』という一連の動きは洗練されていた。
「にゃにゃっ……? あ、あなたは昨日スイートルームに泊まってくれたお客様ですにゃ!?」
サーニャちゃんが俺を見て驚いた声を上げる。
一日だけの付き合いだったが、ちゃんと覚えてくれていたようだ。
まぁ、結構なハプニングがあったからな。
忘れたくとも忘れられないだろう。
「にゃにゃにゃ……! どうしてここに……?」
サーニャちゃんは混乱している様子だ。
そりゃそうだろう。
マフィアに絡まれていたと思ったら、そこに現れたのは見知った顔なのだから。
「あ、安心してください。俺は決して逃げましぇん……。き、君のような可愛い女の子が困っていたら、放っておくことはできないのです……!」
俺はチンピラへの恐怖を誤魔化すように、必死でサーニャちゃんを庇う姿勢を見せる。
――ような演技をする。
うーん、我ながら迫真の演技だ。
これで演劇大賞は俺のモンだぜ~!
ぎゃーっはっはっはぁ!!!
「はぁ? 何を言っているんだお前は……? まさか、嬢ちゃんを助けに来たヒーロー気取りなのか?」
チンピラが呆れた様子で俺を見てきた。
どうやら、完全に舐められてしまっているらしい。
しかし、それも無理はない。
チンピラから見たら、ただの一般人が大人数を相手に立ち向かっているように見えるのだ。
「――ん? おいおい、よく見りゃお前はゾルフ砦にいた男じゃねぇか!」
チンピラが何かに気付いたらしく、こちらに話しかけてくる。
言われてみれば、俺もコイツの顔には見覚えがある。
確か――
「ヨーナスさん……でしたか?」
「ヨゼフだ! くそっ! 人の名前を間違えるなんて、失礼な野郎だぜ!!」
チンピラ――いや、ヨゼフと名乗った男は激昂した。
しかし、すぐに落ち着きを取り戻す。
「――ふん! まあいい。お前がここに来ているってことは、連れの嬢ちゃん2人も来ているんだろ?」
連れの嬢ちゃん2人。
つまり、モニカとニムのことだ。
もちろん一緒にこの街まで来ているが……。
「なぜそんなことを聞くのです?」
「ハッ! そんなの決まってんだろう! お前をボコった後、その2人を捕まえて楽しむんだよぉ! 余所者は足がつきにくいからな……」
「な、なんですと……」
「鴨が葱を背負って来るとは、まさにこのことだな! 借金を口実に捕らえるそっちの嬢ちゃんと合わせて、3人とも俺たちの共有奴隷にしてやるよぉ!!」
「くっ……! そんなことが許されると思っているのですか!!」
「へへ……! ザコの余所者がこの街に来た時点で、俺たちの獲物なんだよぉ! これからは俺たちの言うことを素直に聞くしかねぇんだ! オラァ!!」
ヨゼフが襲いかかってくる。
想定以上の無法っぷりだな……。
目立たないために大人しく殴られるか、あるいは――
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