ギルバートとジルガが決勝戦の舞台に上がる。
両者、にらみ合う。
「はじめ!」
審判が試合開始の合図をする。
「おらぁ!」
合図の直後、ギルバートはそう叫んで勢いよくダッシュしパンチをくりだす。
かなりの瞬発力だ。
10mは離れていたのに、一息で相手の眼前に迫っている。
「甘いぜ! ふうっ!」
相手の回避行動もおかしい。
普通は左右に体を捻って回避するか、ガードするかといったところだと思う。
彼はギルバートのパンチをジャンプして避けた。
数メートルは跳んでいるか。
人間の跳躍力の限界を超えている。
ギルバートの拳は勢い余ってステージに叩きつけられた。
石でできているステージが少し砕けている。
跳躍しているジルガを追うように、ギルバートもジャンプした。
空中で攻防を繰り広げている。
この攻防で若干の隙がジルガに生じる。
「スキありだ! ぬん!」
ギルバートがそう叫びながら、痛烈なパンチを相手の顔面にクリーンヒットさせた。
あれは痛そうだ。
普通ならこれでKOだが……。
「効かぬ!」
「むう! 闘気の練りが甘かったか!」
……なるほど。
これが闘気術の力だろうか。
あるいはスキルの恩恵とかもあるのかもしれない。
いずれにせよ、有用そうだ。
瞬発力、攻撃力、跳躍力、防御力など……。
今決勝で闘っているギルバートとジルガのレベルは相当高いと感じる。
その後、闘いは数十分続いた。
若干ギルバートが優勢か。
少しずつ有効打を加え、ジルガがへばってきているように見える。
攻防の隙をつき、ギルバートがマウントポジションをとった。
腕を大きく振りかぶる。
「くらえ! ビッグゥゥ…………!」
ギルバートが力をためている。
闘気とやらを練っているのだろうか。
「くっ。気合防御だ!」
ジルガも負けじと防御を固める。
そこにギルバートの全力の拳が振り下ろされる。
「バン!!!」
ギルバートの拳はジルガの体ごしにステージに衝撃を伝えたようだ。
拳が振り下ろされた周囲2mぐらいのステージが砕けた。
パンチとは思えないほどの威力だ。
ていうか、これを受けたジルガは死んだんじゃないか。
やべえ威力だ。
審判が駆け寄り確認する。
待機していた治療術士が駆け寄り、治療を施す。
どうやら戦闘不能ではあるが重体ではないようだ。
石製のステージを壊す威力のパンチをくらって命にかかわらないとは。
かなりの防御力だ。
「そこまで! 勝者ギルバート!」
審判が正式に勝者を宣言する。
「よっしゃあ! この調子で6月のガルハード杯もいただきだ! ガハハハ!」
ギルバートが勝利の雄叫びを上げる。
接戦だったため彼も結構な傷を負っているが、元気なものだ。
治療術士により、彼にも治療が施される。
さて、今回の武闘会観戦は有意義なものになったな。
本格的に闘気術を学ぶ価値はありそうだ。
「ミティ。ギルバートさんが勝ったね」
「そうですね。私の村で見た人たちよりもかなり強そうです」
わざわざ武闘大会に出るような人たちだからな。
ちょっと武闘をかじっただけの村人よりは強いのだろう。
ふと、視界の隅でなにかが点滅していることに気がつく。
新しいミッションだ。
ミッション
ゾルフ砦のガルハード杯本戦に出場しよう。
報酬:スキルポイント10
ガルハード杯の本戦に出場か。
防衛戦とやらは、置いておいていいのだろうか。
このミッションも報酬は悪くないのでできれば達成したいところだ。
ガルハード杯の本戦に出場するには、今回開催していたような小規模大会での実績、各道場からの推薦、軍や冒険者ギルドなどの組織からの推薦、他地域での武闘会などでの実績などが要求される。
全部ダメそうだ。
6月のガルハード杯までには、今日のような小規模大会はもうない。
小規模大会で実績を積むことは不可能だ。
期間限定の表記がないので、必ずしも来月のガルハード杯で達成する必要もないのかもしれない。
来年もガルハード杯はある。
ただ、それまでこの街にずっと滞在しているのもな。
普通に他の街に移動しつつ冒険者稼業を続けて、時期をみてこの街に戻ってくるのはありではあるが。
近いうちに防衛戦があるし、その後の状況がどうなっているかはわからない。
できれば来月のガルハード杯でミッションを達成したいところだ。
道場からの推薦もあてがない。
いや、ギルバートが紹介してくれた道場があったな。
そこに入門して、ステータス操作で武闘に恩恵のあるスキルを優先的に取れば、見込みありとして推薦してくれる可能性があるかもしれない。
まあ後1か月しかないし、現実的ではないが。
冒険者ギルドからの推薦はどうか。
俺はDランクだし、普段は魔法や剣がメインだ。
冒険者ギルドからの推薦は厳しいだろう。
他地域での武闘会なんて、もちろん出場したことはない。
困った。
ガルハード杯本戦に出場できるあてがない。
いや、1つあったか。
予選を突破することだ。
予選を勝ち抜けば、ガルハード杯に出場できる。
パンフレットの情報によると、倍率は10倍以上の狭き門だ。
まずは武闘の基礎や闘気術を学ぶことから始めるか。
俺もミティも、肉弾戦は素人だからな。
まあ冒険者稼業で少しは鍛えているし、スキルの恩恵もある。
身体能力はそこらの武闘家に引けを取らないはずだ。
ガルハード杯のレベルは高いだろうが、武闘の基礎をきちんと学んでスキルで底上げすれば、ワンチャンあるかもしれない。
予選落ちしたところで大きなデメリットもないし、ミッションに挑戦してみる方向で考えよう。
情報収集と武闘の訓練のため、ギルバートが推薦している道場に行ってみるか。
「ミティ。武闘にちょっと興味がわいたんだ。明日行ってみようかな。ミティはどうする?」
「私も行ってみたいです。力には自信がありますし、闘気術を習得できればよりタカシ様のお役に立てそうです」
ミティが握り拳をつくり、意気込む。
「ちなみに、ミティは武闘の経験はある?」
「ないですね……。小さい頃に、ちびっこ相撲大会で優勝したことはありますが……」
微笑ましそうな大会だ。
いや、そうでもないのか?
ドワーフは腕力が強い種族だ。
ちびっことはいえ、結構ハイレベルな大会だったりするのかもしれない。
ミティのまわし姿か。
ちょっと見てみたい気もする。
他の人には見せたくないが。
「優勝!? すごいじゃないか!」
「いえ、子どもの大会ですし。それほどでは」
「いやいや、すごいと思うよ」
俺は、小さい頃から運動は微妙だった。
何かの競技で優勝したことなどない。
さすがに、最下位レベルというほどでもなかったが。
「よし。じゃあ早速明日行ってみよう。いろいろな道場があるみたいだけど、せっかくだしギルバートさんの師匠の道場にしようか」
その後、簡単な表彰式があり、ギルバートやジルガなど上位入賞者が表彰されていた。
表彰式の後に少し話したが、彼らは旧知の仲だそうだ。
これから賞金で飲みにいくという。
ギルバートの師匠の道場に明日早速行ってみると伝えておいた。
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